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ニューアルバム『BLUE LIPS』から垣間見える、ScHoolboy Qの未来予想図


ドイツのアメリカ陸軍基地で生まれ、その後カリフォルニア州ロサンゼルスに定住したScHoolboy Q(スクールボーイ・Q)。彼はギャングに所属し、かつてはドラッグディーラーとして過ごしていましたが、後にケンドリック・ラマーSZAなど、全米を代表するアーティストを輩出するレーベルであるTDE(Top Dawg Entertainment)と出会い、ラッパーとしてのキャリアを本格的にスタートさせることとなりました。

2011年、彼の音楽人生の幕開けとなるデビューアルバム『Setbacks』をリリースし、続いて2012年にはその才能をさらに深めた『Habits & Contradictions』を世に送り出しました。2013年には彼のキャリアにおける大きな転機となるメジャーデビューアルバム『Oxymoron』が登場。このアルバムはその独特のリリックで批評家たちから高く評価され、全米アルバムチャートでのトップを獲得するという快挙を成し遂げました。この成果は彼の音楽への評価を確固たるものにし、グラミー賞で「最優秀ラップ・アルバム賞」へのノミネート、さらにはトラヴィス・スコットロジックらと共にXXL誌の「Freshman Class」への選出という形で、彼の存在を世界に知らしめました。

2016年には4作目のアルバム『Blank Face LP』を発表し、その作品はグラミー賞で「最優秀ラップ・アルバム賞」にノミネートされるなど、その実力を再び証明し、収録曲『That Part』は「最優秀ラップ・パフォーマンス賞」にもノミネート。さらに、2019年には5作目のアルバム『Crash Talk』をリリースし、3作連続で全米アルバムチャートトップ3入りを果たすことで、彼のラップスターとしての地位を不動のものとしました。

そして2024年3月1日、彼は待望の6作目のアルバム『BLUE LIPS』をリリース、再び音楽シーンに新たな波をもたらしました。

この記事では、最新作『BLUE LIPS』にスポットを当て、その魅力に迫ります。このアルバムがなぜ注目に値するのか、その理由を深堀りしていきますので、興味のある方はぜひ最後までお読みください。

レーベル  : Interscope Records, Top Dawg Entertainment
リリース日 : 2024年3月1日
名前    : ScHoolboy Q
本名    :    Quincy Matthew Hanley
年齢    :    37歳
出身地   :   カリフォルニア州ロサンゼルス

友情の喪失、再生への道:スクールボーイ・Qのドラッグからの脱出

前作のアルバム『Crash Talk』は、元々2018年11月のリリースを予定していましたが、スクールボーイ・Qと親交が深く、楽曲でのコラボレーションも行っていたラッパー、マック・ミラーの急逝により、アルバムの発表が翌年に延期されました。

その後のインタビューで、スクールボーイ・Qは、マック・ミラーと最後に交わした会話がミュージックビデオの共同作業についてであったことを語り、彼の逝去について心情を吐露しました。

今でも理解できないよ。もう、ブラザーに連絡が取れないなんて、信じられるか?ギャングの抗争で魂を失うのと、無邪気な子供のような...超純粋な友人を失うのとは全く違うんだ。

そのマック・ミラーは、ドラッグの過剰摂取が原因で亡くなったことが報じられ、一方、元ドラッグディーラーのスクールボーイ・Qも、人生の大半をドラッグに蝕まれていました。彼の楽曲の中でも、しばしばドラッグの使用について言及しており、主にザナックス、パーコセット、リーンなどを乱用していたということで、自身のアルバム『Oxymoron』の制作時の頃の記憶はなかったとも明かしています。しかし、友人であるマック・ミラーの死を受けて、これまでの生活を見直し、これまで服用していたドラッグやコデインなどやめ、さらに断酒を決めたことを明かしています。

起きたら体重が250ポンド、つまり113キロになっててびっくりしたよ。リーンをガンガン飲んで、薬もめちゃくちゃ飲んでた。なぜまだこの世にいるんだろうって、自分でも思うよ。あの時の『Oxymoron』のセッションや、ブラザーのことさえ、全然覚えていないんだ。
あの時の俺はやばかった。ドラッグを売ってるって言ってるドラッグ中毒者だった。だからそれが『Oxymoron』(矛盾)してるってわけ。

スクールボーイ・Qの新たな挑戦:ゴルフへの情熱がもたらす変革

お酒やドラッグから手を引いたスクールボーイ・Qは、友人との賭けをきっかけに2018年頃からゴルフに熱中し、その魅力にとりつかれたようです。

賭けだったんだ。スタジオにいたら、友達が酔ってとんでもないことを言い始めたんだ。彼はファッションデザイナーで、父親と一緒にゴルフをして育ったんだ。彼はゴルフが俺には難しすぎるって言うんだ。だから2年以内にバーディーが取れないと1万ドル賭けたんだ。その時、俺が耳にしたことのあるゴルファーはタイガー・ウッズ、フィル・ミケルソン、アーノルド・パーマーだけでね。
10ラウンド未満でバーディーを達成し、約70フィートのパットを沈め、賭けに勝ったんだ。
初日から、俺は病みつきになったよ。野球をやっていた俺には、こんなに打てないなんて信じられなかった。何度も挑戦した。やっと1本いいのが打てたと思ったら、3本連続で真っ直ぐ打てたんだ。でもそれ以来、あんなにまっすぐ3球打ったことはないよ。今は週に5~6日プレーしている。こんなにプレーする人いないよな。週に2日は1人でプレーしているんだ。

その後、彼はゴルフ練習施設「トップゴルフ」とのパートナーシップを結び、同社の広告キャンペーンにも出演しました。2022年には、ラッパーのマックルモアやNFL選手、メジャーリーガー、俳優らが参加するゴルフトーナメントにも参加し、音楽界でNo.1と言えるほどゴルフに情熱を傾けています。彼にとってゴルフは、人生を見つめ直すきっかけとなり、メンタルヘルスの向上に寄与しました。ゴルフは彼に新たな視点をもたらし、精神的な充実を運んできたのです。

出身地や生活背景から見て、ゴルフなんてやるとは思ってもみなかったよ。でもゴルフにハマって、心が変わったんだ。人生でいいことも悪いことも起こるのは、こんな姿勢のおかげかもしれないね。ゴルフが、俺の人生の姿勢を改めさせてくれたんだ。もっと前向きになれたってわけ。人生って、ゴルフみたいなものだよ。いいショットもあれば、ハズレもある。大事なのは、諦めずに続けることさ。例えば4打目でバンカーに入っても、次はチップインするかもしれないし。ゴルフは人生についていろいろ教えてくれるんだ。

収録曲について

時代の変遷とともに、音楽業界ではストリーミングが主流になり、多くのアーティストが新曲のリリース間隔を短縮しています。約5年ぶりに新アルバムをリリースしたスクールボーイ・Qは、現在の音楽業界をスポーツのような競争と捉えていると感じています。成功や人気を競う要素が強調されていると語ります。彼はまた、音楽を通じてお金や人気を追求するのではなく、自分自身の経験を共有し、やりたいことを表現するために音楽を作っていると明かしています。

多くの人が音楽をスポーツみたいに捉えているけど、俺たちはそうは思わないんだ。これはただの競争じゃなくて、俺たちの人生そのものさ。俺たちが体験した辛いことや、システムやストリートで失った友人たちの話をしているんだよ。音楽に対して「毎年何かをリリースしなきゃ」なんて考えていないんだ。あるかもしれないけど、それはお金のためだろうね。でも俺は違う。自分がやりたいことをやるし、平和や自分の経験のために動いているんだ。

このような背景を元にリリースされた新作は、全18曲が収録されており、ゲストには、TDEのメンバーであるAb-Soulを筆頭に、Freddie GibbsRico NastyJozzyなどが参加しています。

『Blueslides』

アルバムの第4曲目『Blueslides』は、故マック・ミラーへのオマージュであり、その曲名は彼のデビューアルバム『Blue Slide Park』(2011)に触発されています。この楽曲では、困難に立ち向かいながらも前進し続けるという強い意志と希望が表現されており、スクールボーイ・Qは、過去の挫折や試練から学び、成功と幸福を目指して精進する様子を歌っています。

ScHoolboy Q - Blueslides

『Yeern 101』

アルバムの5曲目『Yeern 101』は、2024年2月にリリースされたリードシングルで、スクールボーイ・Qの成功と生活に焦点を当てた楽曲です。この曲では、彼の人生観、価値観、そして社会に対する洞察が綴られています。冒頭のバースでは、彼がどのようにして成功を掴み、それが彼の日常生活をどのように変えたのかが描かれており、成功への誇りとその過程での努力が語られます。
続くパートでは、他者との比較や社会問題に焦点を当て、金銭的成功や社会的地位が人々の考え方や扱われ方にどのような影響を与えるかを批判的に考察しています。

ScHoolboy Q - Yeern 101

『​oHio』

アルバムの9曲目『oHio』は、Freddie Gibbsをフィーチャーしたトラックで、自己プロモーション、金銭、人生経験、アーティストとしてのキャリアなど、多岐にわたるテーマを扱っています。この楽曲はジャジーなビートで幕を開け、途中でトラップビートへと変化し、最終的には再びジャジーな調べに戻るというダイナミックな構成を持っています。約5分間の曲の中で、3つの異なるビートが巧みに組み合わさっており、この楽曲には9人のプロデューサーが関わるという豪華な制作背景があります。『oHio』はその複雑で洗練されたサウンドスケープと深いリリカルな内容で、アルバムの中でも特に注目される一曲です。

ScHoolboy Q feat. Freddie Gibbs - oHio

『Lost Times』

14曲目の『Lost Times』は、メンフィス出身シンガーJozzyをフィーチャーした曲で、これまで数々のヒット曲を手がけたThe Alchemistが共同プロデュースしています。この楽曲は、日本のシンガーソングライター長谷川きよしによる1975年のアルバム『街角』に収録された「旅立つ秋」をサンプリングしており、その選択がThe Alchemistの独特な音楽的アプローチを際立たせています。

ScHoolboy Q feat. Jozzy - Lost Times 

長谷川きよし - 旅立つ秋 (1975)
『Lost Times』の0:25〜

おわりに

スクールボーイ・Qの最新アルバムは、実は数年前に既に完成していたようです。しかし、彼がリリースを躊躇していたのには、音楽業界のアルゴリズムが与える影響が一因であると彼は明かしています。現代の音楽業界では、アルゴリズムがリリースする音楽の選択やプロモーション戦略に大きく関与しており、この技術的な進展がアーティストの創造的自由に影響を及ぼすことに、スクールボーイ・Qは懸念を抱いていたと明かしています。

今の気持ちを言うと、まだ早いかもしれないけど、これが今日の俺のリアルな感じだよ🤷🏾‍♂️。気持ちが変わるかもしれないけどね。実は、俺がこんなスタイルでラップするのは初めてだろう。アルバムは何年も前に完成していたんだよ。でも、このアルゴリズムだけで動くサーカスの中でどうやって自分を位置付けるか分からなくて、自分のペースでアートを作り続けたんだ。バイラルになるためだけに才能を無駄にするつもりはない。俺は37歳で、まだ飢えてるんだ✊🏾。誰も俺には敵わないと思ってるし、いつも新しいことに挑戦してる。不安はあっても、恐れたことはないんだ。

このアルバムは、ただヒットを狙うんじゃない、本物のアーティストのために作ったものだから。リリース前はわざとメディアから距離を置いて、音楽に集中していたんだ...。これから詳しいインタビューが控えているけど、そのサーカスは気にしないでくれ。音楽には本気の努力が必要だから。音楽そのものが必要なんだ... それがBLUELIPSってアルバムだ。

製作過程からも明らかなように、スクールボーイ・Qは一過性のトレンドに左右されず、自身の才能と作品に深くコミットすることを選んでいます。音楽業界の急速な変化と表面的な動向に警戒心を持ちつつ、彼は自らの内なる声に耳を傾け、完全なる独立性を持ってアルバムをリリースするタイミングを見極めました。

一方で、彼の所属するレーベルTop Dawg Entertainment(TDE)は、ケンドリック・ラマーの脱退が報じられ、不確かな未来に揺れ動くかに見えましたが、実際にはその波乱を力に変えました。この新作を通じて、スクールボーイ・Qは時代に流されることなく、音楽とカルチャーへの情熱を燃やし続けています。彼のリーダーシップのもと、SZAAb-Soulといった同レーベルの個性的なアーティストたちも一層輝きを増し、音楽シーンに新たな色彩を加え続けるでしょう。


今回紹介した楽曲のDJプロモーション音源はこちら⬇️⬇️⬇️

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