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他人が沼にハマる過程は最高のエンタメだ マンガ『カードゲームうさぎ』 感想

今日はマンガの感想記事なのだが、そのマンガは本屋なんかで流通している一般のマンガではない。俗にいわれるWEBマンガと言われているものだ。
『カードゲームうさぎ』と言われるシリーズである。

PixivやX(Twitter)で連載されているWebマンガ。題名の通り、カードゲームを題材にしたマンガではあるが、現実のカードゲームの話ではない。ACG(Animal Card Game)という架空のカードゲームに興じる、オタクたちを描いたマンガ。ビジュアルは擬獣化されているのも特徴。


何かにハマる人を描く

本作品は、遊戯王のようにモンスターがビジョン化して出てくることはない。ひたすらカードゲームを楽しむキャラたちが描写されるだけだ。基本は会話のみで話が展開していく。しかも、そのカードゲームのルールはほとんど解説されない。つまるところ、試合描写は雰囲気で楽しむしかない。

じゃあ、この作品の魅力はなんなのか。なぜ、これだけ多くの人に読まれ、愛されているのか。それは、趣味にハマっていくことの楽しさと、そこにあるコミュニティの温かさをすごくリアルに描いているからだと思う。


本作品のストーリーは、外伝である『鷲崎伝』を除くと、すごくシンプル。カードゲーム初心者が、大会に参加したり、カードショップに通うようになって、少しずつガチ勢になっていくというもの。その過程を描かれているのがこのシリーズだ。

お店や環境、登場するキャラ、時代が違うくらいで、この流れは一貫している。そして、これこそが本作品の最大の魅力なのだ。

何かしらの趣味にハマったことがある人ならわかるだろう。こんなに楽しいものがこの世にあるのかという驚き。いくら時間を割いても足りないくらいの深みを感じ、そして自分では底の見えないさらに底で活動している先人たち。そんな彼らと、最初はできなかった会話が、少しずつできるようになっていく。

そんな経験をしている人なら、必ず共感できる。そこまで熱中できるものに今まで出会えてなかったとしても、みんな誰かしら感じたことがある、「おもしろいと思えるものとの出会い」を丁寧に描いている。おもしろいマンガに出会って、気づいたら休日が消えていた、なんてことはみんな一度は経験したことがあるだろう。

カードゲームうさぎ~エピソード・ライ太~ 』より

最近の流行りの言い方をするならば、「他人が沼にハマっていく様子」が丁寧に描かれるのだ。沼にハマり、楽しそうに過ごしていくキャラたちを見ていると、自然とこちらも幸せになっていく。


成長という最高のエンタメ

それに、初心者というのは伸びしろしかない状態。キャラがぐんぐんと成長していく様子は、エンタメの王道だ。ドラゴンボールしかり、名作マンガは必ず主人公たちが成長する。そこにワクワクがある。魅力がある。今作品はそれを描くのがすごく上手い。

何も試合に勝利にすることだけが成長ではない。友達の会話についていけるくらい、ゲームのことが理解できる。自分独自のデッキが組めるようになる。そんな、地味で経験者にとっての当たり前を少しずつステップアップしていく様子を丁寧に描いていく。

これが連載の作品ではない、Webマンガならではの利点だ。そして、こういったところに我々が共感できる「成長要素」が詰まっている。


大体のスポーツマンガは、最終的には世界を舞台にして戦う。そんな舞台に行ける主人公は天才で、圧倒的な才能とそれにも勝る努力をしている。その姿に感動することはあれど、共感はなかなかに難しい。現実で、我々はそんな圧倒的な才能や努力をしていないからだ(大多数の人は)。

でも、「少しずつ成長する」経験なら誰しもが経験している。ルールが分かってくること。何が大変で、みんながどこに苦悩しているか共感できるようになる。そしてプロで活躍する人たちの「本当のすごさ」がわかってくる。こんな成長なら、誰しも経験したことがあるだろう。

だから、このマンガはカードゲームが好きではない、自分にも刺さるのだ。成長する主人公たちに、共感し、応援し、感動することができる。


コミュニティとキャラ

そして、この作品はもう1つ、魅力がある。趣味の世界におけるコミュニティの素晴らしさを感じられることだ。

社会的な地位も立場も関係なく、自分の趣味のことだけを語りあう。そんなコミュニティの楽しさが伝わってくる。打算もなく、素直に楽しいことだけを語り合うあの時間の素晴らしさ。多くの人は「青春」と呼称する素晴らしい時間がそこにはある。

カードゲームうさぎ~うさぎとうさぎの奮闘記~』より


そしてこのコミュニティで描かれるキャラがみな魅力的だ。いいヤツもいれば、癖の強いオタクもいる。変人もいるし、圧倒的な強者として君臨する王者もいる。多種多様な人物が、1つの趣味に没頭し、それぞれの個性をぶつけ合う、そこで多くのドラマが描かれる。

さっきまで笑顔で教えてくれた人が、本気の目で勝負をし、負けて悔しがる。「ガチの世界」の緊張感も、しっかりと描写される。だから、のんびりとした初心者成長日記にはこのマンガはならない。作品にしっかりとした緊張感が与えられる。

個人的には、「虎穴勢」と言われる、メタデッキ(その時代の最強デッキ)に頼らず、個性豊かなオリジナルデッキを使いこなすキャラたちが大好き。プロの世界にはない、アマチュアの世界ならではの魅力というのが存分に描かれていると思う。


恋物語じゃない「青春感」を味わいたい人にオススメ

本作品はカードゲームを全く知らなくても楽しめると思う。自分も学生のころにシャドウバースを少しかじったくらいで、紙のカードゲームはノータッチだった。そんな自分でも楽しめた。

別にカードゲームじゃなくても、なにかにハマり、成長していく。そして自分のコミュニティが広がっていく。それって、すごく素敵なことだし、自分ごとじゃなくても見ていて楽しい。

完全無料で全部見られるので、恋物語じゃないほうの「青春感」を味わい人はぜひ読んでほしい。

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