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新ジャンル「青春ぽい」マンガ 『ずっと青春ぽいですよ』 感想

『ずっと青春ぽいですよ』という漫画を紹介させてほしい。

本作品のあらすじを簡単に言うなら、
「女装男子をアイドルにしようとするオタクたちと、それを羨むギャルの青春ぽい物語」である。何を言っているか分からないと思うが、こうなのだからしょうがない。

より詳細に書くとこういうあらすじになる

アイドル研究部部長・山田(高3)はある決心をした……。
「そうだ!俺たちだって、野球部のようにキラッキラした青春がしてみたいっ!」
ということで、アイドルをプロデュースすべく、クラスの美人ギャルに声をかけるが玉砕。
しかし、部員の一人、杉森の顔がかわいいことを発見する…
女子がダメなら男子を女装させれば良いじゃない、とマリー・アントワネットばりの暴論で、杉森を女装させアイドルとしてプロデュースすることを画策する。
そんな感じでワイワイとはしゃぐアイドル研究部を羨ましそうに見るギャルが一人…


決して女装男子だけがメインじゃない!

「女装モノか…興味なし。」とブラウザバックをしようとした方がいるかと思うが、少し待ってほしい。確かに、メインのあらすじを読むと、かわいい女装男子を愛でるオタクたちのドタバタ日常モノと、そう思ってしまうのも無理はない。

もちろん、そうした魅力もあるのだが、自分が一番この作品の魅力だなと思うところは別にある。この作品は、一般的に「陽キャ」と分類されるギャル、「日香(ニコ)」が自分の青春を探し出す物語でもあると思う。


表紙右側の猫目の娘


第一話の最後、彼女は受験生であるという現実を突きつけられる。

第一話より

そんな帰り道、杉森(女装させられる男の娘)をアイドル化させる計画ではしゃぐアイドル研究部のオタクたちを見てつぶやく。


第一話より

アイドル研究部とギャル。普段なら決して交わることのないこの2者が、少しずつ交差していく。

なぜなら、ニコは、自分がなにをしたいのか、どうなりたいのか、わからずに葛藤しているから。一方で、アイドルライブをやるという明確な目標を持つアイドル研究部の面々は、明確にやりたいことを持ち、それに向かって(迷走しながらも)進んでいる。そんな彼らに、少しずつニコは興味を持ち始める。


やりたいことを見つけられずに、何かに全力投球している他者を羨む。すごく分かる。
別に現状に不満があるわけではない。友達もいて、毎日を楽しくすごしている。だからこそ、この「なんとなく楽しい」で高校生という期間が終わってしまうのを不安に思う。

このニコの心理描写の書き方、ポジションがすごく絶妙だ。彼女がどう成長していくか、それが描かれるのが自分は楽しみになってきている。もはや自分にとっては主人公のポジションだ。

あと普通に可愛い。猫のようにコロコロ変わる表情を一生見ていたい。推せます。

コロコロ変わる表情がカワイイ 4話より


山田とニコ

アイドル研究部の部長である山田と、猫目ギャルのニコ。この2人の絡みがすごく好きだ。社会的なステータス、生き方、全く真反対の2人。でもそんな2人が少しずつアイドル研究部という舞台で交わりはじめる。

始めは、勉強からの逃避としてアイドル研究部を訪れるニコ。進路で悩むニコは山田に将来のことを聞いてみる。


第4話より

そんなニコに対して自信満々に回答する山田。

第4話より

中々におバカな回答だが、しかし、自分はこの目標の建て方は好きだ。優先順位をしっかりと立て、それに対しての(自分なりの)合理的な理由をつけて行動している。正直、こう断言して行動している山田はカッコいいと自分は思う。

入る大学も、その動機も、何も決められていなかったニコにとっては、この回答は少しうらやましく思ったのだろう。この部室で唯一好意的に受け止めている。


そして、そんな2人がなんかいい感じの雰囲気になったり…

4話より

この微妙な空気感。ニコも山田も、お互いのことを意識しているんだがしてないんだが、曖昧な状態のまま、少しずつ物語は進んでいく。正統派な男女のラブコメのような雰囲気もある。


新ジャンル青春「ぽい」マンガ

この作品のジャンル分類は難しい。アイドルライブを目指す部活モノとも言えるし、部長とニコのラブコメ要素もある。そして「男の娘」も出てくるし…

でも、どれもが中途半端なのだ。部活モノといっても(部長以外は)本気でライブを目指しているわけではない。放課後、気の合う仲間と駄弁りたいだけだ。ニコと部長のラブコメ要素もそれが主軸に話が進むわけではない。「男の娘」も、ちょいちょいと出てくるが、まだスパイス程度の印象。

なんだか批判しているみたいだが、自分はこれを肯定的に捉えている。意外と、「青春」ってやつはこんなモノかもな、と。


そりゃもちろん、野球部が甲子園を目指すように、大きな目標に仲間たちと共に熱いドラマを繰り広げることこそが、王道の青春だろう。でも、本気でそんな経験をできる人なんて、ごく僅かだと思う。大多数の人が、なんとなくの目標、部活動、友達との駄弁りで過ごしているのではないだろうか。

少なくとも、自分はよくマンガに出てくるような、熱い青春を体験してこなかった。残念ながら万年帰宅部で、ニコのような可愛いギャルも周りにはいなかった自分は、アイドル研究部以下の高校生活だったかもしれない。
でも、それが暗いばかりの青春だったかというと、そんなことはない。それなりに楽しかったし、振り返ると「青春っぽかったかも」と思えるような思い出はある。


そう、この漫画のジャンルは、まさにタイトルの通り、「青春ぽい漫画」という新たなジャンルなのかもしれない。これなら胸を張って断言できる。

「青春漫画」として、『スキップとローファー』みたいな友情と恋の物語や、『君は放課後インソムニア』みたいな2人の男女のドラマだったりとか、『ちはやふる』みたいな熱い部活モノを期待すると、少し肩透かしをくらうかもしれない。だから、ジャンル「青春ぽい」として読んでほしい。

自分はこの漫画みたいな何とも言えないゆるさが大好きだ。不格好で、だからこそ愛せる「青春っぽさ」があると思う。初見のときはよく分からないタイトルだなと思ったけども、「ずっと青春ぽいですよ」というこのタイトル、今はすごく納得できている。


タイトルのもう1つの言葉。「ずっと」。これが何を意味するのかも含めて、先が気になる。ニコと山田部長は、アイドル研究部はどんな青春を送るのだろうか。

そもそも本屋で見かけることが少なかったり、Amazonでの紙の本の在庫がしばらくなかったりと、手に入りづらかった本作。今ならAmazonで在庫が復活しているので、ぜひ購入してほしい。

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