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「おもしろい」を「伝えたい」 漫画『まちの本屋の御書山さん』 感想

『まちの本屋の御書山さん』というマンガを読んだ。

読み終わったあと、すごくnoteに記事を書きたくなった。自分のローカルの感想メモとかではなく、noteに。
なぜなら、noteを書いている人、特に、何かしらの作品に関して感想なんかを書いている人には絶対に刺さる話があったから。

そのエピソードに入る前に、今作品のあらすじを簡単に書こう。

今まで勉強しかしてこず、マンガは「くだらないもの」なんて言ってしまう杓子定規な主人公・不破。彼は、ミステリアスな美女店員・御書山さんから誘われ、本屋でアルバイトすることになる…

いわゆる「お仕事モノ×お姉さんとのラブコメ」というようなジャンル分類になるだろう。第1巻では「ラブ」までいってないが。


年上お姉さんが作品の顔かと思いきや…

作者である「いずみせら」さん、前作も「年上のやさぐれメイドお姉さん」とのラブコメを描いていたので、今作品もそのように年上お姉さんのキャラの魅力でグイグイと推してくるのかなと思っていた。

もちろん、今作品のその枠である「御書山さん」は可愛いが、正直そこまでぶっ飛んだ魅力があるかと言えば、そうでもない。というか、「本屋の店員さん」という枠がある以上、非常識なキャラ付けはできないのだろう。「優しい姐さん女房」というようなキャラ付けに収まっている。

現時点においては、この作品の物語における「顔」というよりは、そっと陰から見守るような、正しい年上キャラのポジションにいると思う。


じゃあ、物語の中心にいるのは誰か。自分が魅了されているのは、誰か。それは主人公の「不破」だ。マンガを「くだらない」と言い捨てる、杓子定規でクソ真面目な主人公。

第一話より

正直、第一話を読んだ時には、「うーん、この主人公、ちょっと好きになれないかも…」と思ってしまった。あまりにも人間として共感できるところが少なすぎるし、自分と真反対の生き方をしてきたキャラだったからだ。

だけど、1巻を読み終えたときには、すっかり主人公のことが好きになってきた。「コイツ、いいな。次はどんな話でどういうリアクションをするんだろう」と、主人公を見るのが楽しみになってくるのだ。

この作品は、不器用で人間味のない主人公が、「本屋」という職場で少しずつ人間として、成長していく物語なのである。


「おもしろい」を「伝えたい」

グッとこの主人公のことが好きになったのは、4話目。そして、冒頭に書いた、noteにこのマンガの感想を書きたい、と思わされたエピソードでもある。

4話のあらすじとしては、主人公の不破がお気に入りのマンガを見つけ、ポップを作る話になる。最初は、勉強しかしてこなかった主人公らしく、びっしりと文字で埋め尽くすホップを書いてしまう。

4話より

その後、御書山さんのアドバイスなどを受けながら、何度も改良を重ねていく。スキマ時間を見つけ、他の仕事の合間に1週間以上1つのホップを改善し続ける。1日3回ポップが変えることも。

「さすがにやりすぎでは」と思い、御書山さんも声をかける。
「だいぶクオリティもあがったし、もう良いのではないか」と。そんな問いかけに対して、主人公の不破は「まだまだ改善できる」と言う。

今までマンガが嫌いだった主人公が、どうしてこんなに頑張るのか。それを尋ねられて不破はこう答えるのだ。
「このマンガがおもしろかったからですよ」と。

グッとくるページだ。人が何かを一生懸命になるのに、複雑な理由やカッコつけた理由はいらない。素晴らしい作品があり、それを色んな人に伝えたい。自分も共感できるこの理由に対し、ひたむきに努力する主人公のことが好きになっていく。

特にこういったマメさは、自分にはないもので、より尊敬した。本当に真面目なのだ。そして、妥協も一切しないその姿勢はすごくかっこいい。


そして、この話の後半では、御書山さんと協力してすごく可愛らしいポップを作り上げる。それにより売れ行きがよくなり、更にはSNS上で話題になったりして、作者が来店するという流れに。

この顔!!


分かる!!めちゃくちゃ分かるぞ!不破くん!
となってしまった。尊敬するクリエイターに自分の作成物に感謝されたり反応される。その幸福感。恥ずかしさと嬉しさが混じった、こんな顔になるよね!!

とこのコマの御書山さんばりにニヤニヤとしてしてしまった。この話以降、もう不破君のことを「カワイイやつめ…」と親のような視点でしか見られなくなりました…

特に、このエピソードは自分みたいに何か作品に関する感想だったり、コメントをnoteに投稿している人にはすごく刺さると思う。素晴らしい作品に出会った時、その気持の高揚感から何かせずにはいられない。そんな気持ち、皆さん分かるのではないだろうか。


センスがある台詞回し

この作者、すごくセリフ回しが上手い。シャレが効いているというか。そして、それを効果的に見せるマンガの書き方が上手いのだ。さっき紹介した話もそのコマ割りの魅力がよく出ていると思う。

1巻の最後の話。そこでこのマンガのことがより大好きになった。話としては、よくある話なのだ。おそらく、プロットだけ見ると、70点くらいの話になるだろう。でも、そこに「シャレ」が効いた台詞回しがあるおかげで、グッと魅力が上がった。

本当は、画像なんかつけて先程の話しと同じく書いてみようかなと思ったけども、完全に野暮になってしまうので、辞めた。やはり、マンガとして読んでこそ、あの魅力は通じる。

こういう「マンガが上手い」と思える作品はすごく貴重だ。話が面白い、キャラがカワイイ、そういった諸要素も大事だが、マンガで読むからには、マンガならではの楽しみ方をしたい。応援したくなる作家というのはそうであってほしいと思っている。


今後が非常に楽しみ

今のところ、全く「ラブ」まではいってないが、この鈍感クソ真面目系主人公が、自分の「ラブ」を自覚したらどんなラブコメになるのだろうか。そんなワクワクで1巻を読み終えることができた。応援していきたい。

この作者は本当に丁寧でいいマンガを書く人で、前作の『スモーキングメイドラロマンス』も名作だった。引き続き応援していきたい。

実は、作者のいずみせらさんは、10年以上前の同人時代から好きだった作家なのだ。今とは別名義だけども、この頃からこの人の作風は変わってない。じーんと心温まる、いいマンガを書く。

2011年発行。捨てられない同人誌の1つ。

そういった意味でも、私が昔から応援している作家さんなので、何卒よろしくお願いします。


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