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【読書】2023年6月に読んだ本

孫正義がLBGTQの大軍を背にフェムテック業界に打って出る」とDALL E・2に出力させたら上図を得ました。文字列の配置はビジネス挿絵に近いですね。それっぽい感じを統計と配置で生み出せるプログラムの威力と、人間の認知機能の奔放さとの、友好な二人三脚っぷりに、思いを馳せております。

今月は以下の本を読みました。


津野香奈美『パワハラ上司を科学する』(筑摩書房)

話題の近刊ということで購入。管理職研修で受けるような必修知識の範囲にとどまらず、上司のリーダーシップとの相互作用からハラスメントの類型を説明している点(p100)に真新しさを感じました。「専制型上司の上に放任型の上司がいる職場が、最も危ない」(p130)などは私が所属している組織にも見受けられるため、自分事として受け止められました。p226~228では若手世代の承認欲求について触れられていて、自身の職場での振舞い方・接し方を改めるきっかけとなりました。また、p242あたりの部下の褒め方tipsは手短で具体的で理解しやすく、明日から実践したいと思わせる箇所でした。

ただし承認欲求についていえば、私の観測範囲では、20代若手よりもむしろ、30代中堅や、40代ロストジェネレーション世代や、50代老害のほうがはなはだしいと感じます。「承認欲求」ひとつでは労働者のモチベーションの世代間ギャップを説明できなくなってきていますので、労働社会学クラスタにはそろそろ承認欲求以外の着眼点が必要なのではないでしょうか。

なお、40代ロストジェネレーション世代(私のこと)から見える20代若手の傾向を整理した他の本としては、金間大介『先生、どうか皆の前でほめないで下さい―いい子症候群の若者たち』が参考になりました。


廣田周作『世界のマーケターは、いま何を考えているのか?』(クロスメディア・パブリッシング(インプレス))

初版が2021年なので2023年現在では「答え合わせ」に相当するだろうと思い購入。大勢の消費者に特定の行動を生じさせる広告作用(ブランドマーケティング)の2021年ごろのトピックスといった趣旨の本で、「ファクトや事例は押さえたうえで、最後は主観も交えた仮説としてインサイトをお伝えする」(p73)内容です。

1章p61あたりでは、社会的イシューへの顧慮なしにブランドの未来志向と差別化を合理的に説明できない、と述べられているように感じました。著者は、それらブランドメッセージの受け止められ方や社会現象の説明の資源として、ノスタルジー(p148)、感情的な許せなさ(p189)、孤独(p130)、傷つきやすさに深く共感できる(p119)などの、消費者の心の作用を取り上げます。著者は、人の心と行動が直接的につながっていると捉えているように見受けられます。個人レベルではそうかもしれませんが、消費者集団として一般化できるほど十分には敷衍できていない(サポートできていない)ように思えます。

また終章と「おわりに」では、消費者心理だけでなくマーケター心理にも言及し、マーケターを鼓舞し(心に働きかけ)さらなる行動(マーケティング)を促します。一元的に括ることはできない(p72)と述べながら、みなひとしく同じ心を持つものだという前提に立って、特定の属性に呼びかけ、特定の行動を誘導したり観察したりするのは、矛盾があるのではないでしょうか。


現代思想2023年5月号 フェムテックを考える ─性・身体・技術の現在─』(青土社)

鼎談は読まない、寄稿は資料的価値があるので読む─それが現代思想の読み方です。ヘイシャでもフェムテックに関連した事業検討が行われているため、幅広く知識を吸収するため購入。

渡部麻衣子「政策的関心の対象としての「フェムテック」とその倫理的課題」、川崎唯史「フェムテックと「女性の健康」─誰のための研究開発か」がたいへんよかったです。本邦におけるフェムテック登場の背景として、女性の就労問題に始まり、健康経営優良法人の基準に「女性の健康」が組み込まれ、女性の労働生産性を平準化する関心から政策に取り込まれた一連の歴史的経緯がまとめられ、たいへん勉強になりました。

佐々木香織「フェムテックの生政治とジェンダーポリティクス」でには、この界隈の記述はもはや伝統芸能と呼ぶのにふさわしく、何が題材であっても規範と公正を訴求できる、一種の無敵さを感じました。生政治を問題アジェンダまたは説明アジェンダとして掲げ続けることはこの領域の学問アイデンティティを与え続けるでしょう。でも、同じ素材を使って、ほかの説明の流儀やメタファーも同時に成立します。どちらが有用だということではなく、また要不要ではなく、「伝統芸能だなあ」という感想しかありません。


本当はもう一冊読んでいましたが、1記事に2,000字以上書かない決めごとを自身に課しているので、次月のほうに回します。


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