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日傘を差す女:伊集院静:昭和を書かせたら最高です

「日傘を差す女」(84/2021年)

まさか警察小説とは、、、驚きました。解説を読んだところ、伊集院静二作品目の推理小説とのこと、このタイトルからは想像出来ませんでした。最初のシーン、建築中の高層ビルの工事現場で作業中の男が眼下の小さなビルの屋上で死んでいる人を見つける、そのシーンから、まさか、こんな切ない物語に発展するなんて。

「鯨」の和歌山、「貧困」の青森・三厩、そして「花街」の赤坂、いかにも伊集院らしい設定で安心出来ます。昭和の日本の美しいところと汚いところをバランスよく描いています。本当に按配が良い。あくまでもフィクションという前提での世界観は本当にうまい。理想的な昭和像、こうあって欲しいと願う姿を書かせたら最高ですね。昭和のネガティブな部分、令和の常識から判断したら完全にアウトなところを、悪の部分をちゃんと残しつつ気が付くとキレイな印象しか残さない。素晴らしいです。

で、伊集院が書くのですから、本格的な警察小説を期待してはいけません。宣伝文句の「社会派推理小説」、良くないです。そう書くから、読者コメントで「ミステリとしては・・・(不満)」みたいなのが溢れるのです。前にも書きましたが、売るために何かしらのカテゴライズをして表現することは大事だと分かっていますが、たった数文字が、作品そのものを潰してしまうこともあるのです。

僕はタイトルと作家と出版社のみしか情報を入れずに読みました。そして、最後の解説で本作品が推理小説として世に出されたことを知りました。もし、最初から推理小説だと思って読んでいたら、全く違った読後感だったでしょう。

本を選ぶ方も、本を売り出す方も、大変ですね。

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