明日なき暴走:歌野晶午:全部がウソではありませんが

「明日なき暴走」(132/2020年)

ほぼリアルじゃないかな、これ。誇張ではない気がします。だって、現実のテレビの世界では「やらせ」以下の「ウソ」がありますから。やらせはまだ「過度な演出」という言い訳が出来るけど、ウソはウソ。それが実際にオンエアされているわけだからなぁ。新聞でもウソがある。そう、マスコミにはウソがあるのです。全部がウソではありません。ただ、全部が真実ではないということを、ちゃんと教育として受けていないと、大変なこととなります。

マスコミのウソには2つあります。1つは意図的なウソ。ウソをついて何かしら誘導してやろうと企む呆れた人がマスコミ界には結構いるのは事実です。そういう人を見抜く力を身に着ける必要があります。本作に登場するのはこのタイプですね。このタイプは心改める場合もあるので、まだ良いです。

もう一つは発信している当人は真実だと思っているウソ。これは困ります。こういう人は「天然」ですから、始末が悪い。その人には真実であり、人間には自分で判断する自由がありますから。

テレビ局の下請け制作会社のディレクターが、地元のヤンキーな後輩関係を使ってやらせで過激な映像を撮影させて放送。そこそこ数字を稼ぐうちに、それがエスカレートしていくが、なんと偶然に本当の殺人事件と関わることになってしまう。ディレクターは起死回生の策を仕掛けるのだが…という物語。

最後の最後で、巧妙なミステリであることが分かるので、期待して読んでみてください。派手な展開の中に、こっそりと伏線が張ってあります。さすが歌野です、完全に不意打ち、やられました。ここまでひっくり返すとは。ただのサスペンスではありません。ウソの中にまぎれた真実、怖いです。


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