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ドーン:平野啓一郎:過剰がクセになる超大作

「ドーン」(111/2022年)

「分人(デイヴイジユアル)」という概念はとりあえず置いておいて…
有人火星探査プロジェクトと、アメリカ合衆国大統領選挙という実に大きな2つのテーマを一気に書き上げた超大作といってよいでしょう。重めの読書を堪能しました。文庫で600頁越えです、今までならば手にずっしりきたのでしょうが、kindleなのでそれは無いのが残念です。でも、それはそれ、作品はある意味エンタテインメントしてました。

そもそも宇宙系は基本エンタテインメントですよね、行くこと自体で。そこに船内で起きた『事件』が絡んできます。この事件が、実に人間らしい事件なんです。火星まで行くなんて莫大な予算を掛けたスーパープロジェクトなんだから、そこはテクノロジーでどうにかなるんじゃないか、という突っ込みはやめておきましょうww
とにかく、この宇宙の部分だけで十分作品になると思うくらい盛り上がるのですが、平野はそこに大統領選挙をぶつけてきます。

それも、合衆国軍のアフリカのある地域に対する軍事介入、戦争、紛争解決、何といえば良いか微妙な、要は「ベトナム戦争」「アフガニスタン侵攻」的な案件が最大争点というヘビー級の選挙戦。
そこに軍需産業の『陰謀』が見え隠れするというエンタテインメント要素を容赦なくブチ込んできます。

最初はちょっと過剰だよな~と思ったのですが、これが読み進めると気持ちよくなってくるんです。圧倒的な情報量の中に漂う感じが心地よい。また平野の「主張」も実に明確に出てくるのですが、エンタメ要素が豊富なのでそんなに気にならないところも良かったかも。

その他、AI、ARとかも実は大きな非常を占めていたり、『不倫』という実に分かりやすいテーマも練りこまれているし、本当に過剰なんだけど、剛腕筆力でねじ伏せて、読者に届けてくれています。
なので、恐れずに読んでください。安心してください。読書の醍醐味を味わえる作品です、「分人(デイヴイジユアル)」という概念はとりあえず置いておいて…

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