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グレゴリー・ペック主演。『渚にて』1959年。アメリカ映画評

 第二次世界大戦以後はアメリカ、ソ連の冷戦時代であった。ヤルタ会談以降の資本主義対策共産主義、社会主義の闘いの構図はゴルバチョフのペレストロイカまで続いた。ゴルバチョフがソ連の書記長に就任したのが1985年なので、冷戦後から約36年経つことになる。
 世代的に「冷戦」という概念を知らない人も増えてきたことであろう。しかし歴史的事実として世界史に深く刻まれている。1985年まで世界は核戦争の危機に脅かされていた。
 1962年10月からソ連がキューバに核ミサイル基地建築が発覚し、アメリカが標的にして狙われた所謂「キューバ危機」が冷戦下では1番核戦争に肉薄した出来事であったことは間違いあるまい。
 その約3年前に作成されたアメリカ映画『渚にて』をDVDで鑑賞した。1959年12月17日、アメリカ、1960年2月10日に日本で公開された。1957年にネビル・シュートによって書かれた小説が原作である。
 時は1964年を設定されており、近未来SF映画となっている。登場人物から私の期待は高まる。物語のあらすじとしては、第三次世界大戦が始まり、核爆弾のコバルト爆弾の高放射能曝露で北半球の人々は死滅してしまう。深海に潜航中であったアメリカ海軍の源潜スコーピオン号は放射線汚染が少なく、南半球のオーストラリア、メルボルンに逃げ込む。オーストリアでも放射能の影響は迫っており、死は5ヶ月後に迫ってきていた。そこでの群像劇である。私は多いに期待した。主人公はグレコリー・ペック。あのオードリー・ヘプバーンと共演した『ローマの休日』の名優である。グレゴリー・ペックの相手役はエヴァ・ガードナー。そして『イースター・パレード』、『バンド・ワゴン』や戦前はジンジャー・ロジャースとのコンビ映画で一世を風靡したフレッド・アステアである。今回は踊らず、歌わない。放射線を測定する科学者役である。
 そしてアンソニー・パーキンスである。『サイコ』での奇人とは隔絶した海軍の好青年を演じている。
 私はこの映画に大変期待した。グレゴリーとアステアの大ファンだし、1950、60年代の映画は名作が多いので絶対に面白いだろうと考えたのである。
 しかし、私は作品を観て戸惑うことになる。原作を読めばわかる話だろうが、映画では余りにも自前情報が少ないのである。どの様な現状でグレゴリー率いる潜水艦がオーストラリアに向かっているのか。世界がどの様な状況にあるのか。作品を半分位観ているとなんとなく想像はつくのだが。
 しかし、冷戦時代をリアルに感じていたアメリカ人には、この設定が現実感を持って受け止められたに違いないだろう。オーストラリアに放射能が近づき死が迫る中で、享楽的に酒を呑み、人生を楽しもうとする人々。アンソニー・パーキンスは家族をどの様に苦しめずに人生を終わらすべきか悩む夫を好演している。フレッド・アステアはかつてエヴァと交際していたが、現在は仕事とフェラーリでのレースにのめり込む科学者を威厳たっぷりに演じている。芸歴が成せる技であろうか、アステアは還暦くらいだが、色気のある中年男を演じている。
 そして、注目はグレゴリーとエヴァの恋の行方である。放射能がオーストラリアに迫る中、ギリギリの時間の中で愛を深め、愛する祖国と女性の間で苦しむグレゴリーの演技は一見に値するであろう。
 冷戦も遠い昔となりつつあるが、アメリカとロシアの関係は良好とは言いにくい。近くに中国があり、北朝鮮がある。日本は平和に見えるがそれば、ディズニー・ランドの平和である。
 もし、何処かの核爆弾が炸裂したら『渚にて』の様に強い放射能が日本に届き死の国にする可能性はゼロではない。
 『渚にて』は62年を経た今でも現実味と恐怖を持って我々に迫るのである。

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