【詩】風のない森 - リマスター
森に立っていた。さっきまで感じていた、鼻の奥まで伝わる木々の匂いや風の音はもうなくなり、空は灰色の厚雲に覆われて、闇はますます深くなった。土は水分を失い、乾いている。ぼくは歌をうたった。大きな声で。いつものあの歌だ。脳内で、アコースティックギターの寂しい音が鳴る。小さくオルガンの音も聴こえる。ドラムのワイヤーブラシは、誰かの涙が流れていく、不規則なリズムのように響いた。風のない森で、ぼくの歌は消えてなくなる。それでも、悲しみはとろとろと溶けていった。夢とはたいてい叶わないものだし、ぼくは自分の二本足だけでは歩けないのだ。
(2013.3.26 初稿)
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