てろん

女の裸のユメを視る
おなじ生き物のはずなのに
こうも違うのはどうしてなのか  

僕の体は不快な皺だらけだ
皮膚は象のようにざらざらと硬く
指で触れると皺の線にひっかかる  

てろん とした 裸の女  

見たことのない横顔
視線の端で僕を見ている
青い冷たい瞳
シーツにひろがる黒い髪  

吸い寄せられるように近づき
うつぶせの背中に僕の汚れた手を置くと
積もりたての雪に触れたときのように
手首の先まで体の中へ沈んでいく
感触はぐにゃりと気持ち悪くて
沸騰したお湯のように熱い
血と混じって饐えた匂いがする
手をひっこめたくなったが
なぜか僕の腕は動かない  

女は表情を変えない
呼吸に合わせて
白い背中が小さく上下するだけだ  

腕はやはりぴくりとも動かない  

「…あの」  

呼びかけてみると
女の首はぐるりと180度近く回転し
僕としっかり目が合うようになった
いかにも不自然な格好だが
首元はきれいで無駄な皺などない
僕はそれを見て少しだけ苛立ちを覚える  

「あの、腕が」  

「なに」
裸の女ははっきりとした口調で言った  

「腕が、抜けなくなってしまって」
後ろめたい気持ちになる
どうして背中に手など置いたのだろう  

体の中は相変わらず熱い
手を火傷したかもしれない
汗もかいているだろう
女の体に漏れてしまう  

「なにをしてるつもりなの」  

僕は答えに困る
なにをしているのだろう  

「ずっとなにをしてるつもりなの」  

青い瞳は冷たくひかる
てろん とした 裸の女



donor -07-/ 千尋

千尋さんの Tumblr
http://mushdemosh.tumblr.com

#写真  #詩

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?