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【詩】安心できる場所 - リマスター

彼の本を読むのは冬と決めている。それが例え、シャツ一枚で、西瓜をむしゃむしゃ食べるシーンであったとしても、夕立ちの雨で、ぐちょぐちょに濡れたサンダルが気持ち悪いと笑っているシーンでも、彼の書く文章には、凍てつく冬の、寂しい匂いが文中のそこかしこに漂っている。心が冷たくひりひりと疼いて、吐く息を白くして、末端冷え性の指先が、僅かだけ紫色に変色する。彼の書く文章の冷たさで、わたしの何かが研ぎ澄まされる。そして、彼の書く文章は、わたしの居る暗闇に、ほんの小さな光を見つけてくれる。  

わずかだけど、確かにある。いつも、人指し指と中指で、行間をゆっくりとなぞりながら、その光を探して、浴びている。  

わたしの安心できる場所。  


(2013.3.26 初稿)


#詩

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