独裁者ではない将軍

アメリカでかって全米最大の小売り企業だったシアーズ・ローバックの後継であるシアーズが経営破綻したというニュースを数年前に見た覚えがあります。

wikiでシアーズ・ローバックと検索して調べるとシアーズが連邦破産法の適用を申請したのは2018年10月15日とあるので、私がそのニュースを見たのは5年以上前になるでしょう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%

ニュースではシアーズ破綻の原因はアマゾンなどのECの普及の影響で実店舗への来客が減ったためと解説されていたように思います。

そのニュースを聞いた時はECの発達のために過去に全米最大の小売り企業でも破綻するのかと感じただけで、シアーズ・ローバックの歴史に関心を持つことは去年の年末までありませんでした。

たまたま去年の年末に図書館から借りた本を読んで、シアーズ・ローバックがいつ大きく発展したか、シアーズ・ローバックの発展に主要な役割を果たした人物を知ることできました。

その本は玉手義郎著「大恐慌の勝者たち」で、シアーズ・ローバックの発展に主要な役割を果たしたのはロバート・E・ウッドと紹介されています。


「大恐慌の勝者たち」では1929年から始まる景気がどん底に落ち失業者が町にあふれるアメリカの大恐慌の時代に景気の急落を予想して逃げ切った人、大恐慌を利用して大儲けをした人、大恐慌の中でも事業を発展させた人、大恐慌に対応した政治家など13人が登場します。

本書に登場する人物はひとクセふたクセあったりで、一般の人にはつきあいにくい人の方が多そうですが、ロバート・E・ウッドはそんなことはなく、傑出した能力を持つが、普通に接することができる人物という印象を本書を読んで持ちました。

ロバート・E・ウッドは1879年に生まれ、大学には進学せずウエストポイント陸軍士官学校を卒業して軍隊の兵站業務を担当し、物資の調達と輸送と配給での優れた能力を認められて39歳で准将に昇格します。

本書ではロバート・E・ウッドは若くして准将に昇格したため「将軍」と呼ばれたと記されてます。

軍隊での兵站業務の経験を評価されて1919年にカタログ通販企業に転職して、ここで企業の役員としても優れた能力を発揮しますが、1924年にその会社を退職してシアーズ・ローバックに入社します。

ロバート・E・ウッドがシアーズ・ローバックに入社した動機ですが、ウッドはモータリゼーションの時代が来るのを予測して、広い駐車場を用意した大規模な店舗の流通事業を構想し、シアーズ・ローバックでは大規模店舗事業を主導することができるからと記されています。

本書のこのページを読んで1920年代に広い駐車場を用意した大規模な店舗を思いついたロバート・E・ウッドはすごいですが、客が自動車で店に行く大型店が普及し始めるアメリカの産業社会もすごいと感じました。

日本で広い駐車場を用意した大規模店舗が普及するのは、日本の工業力の競争力が強まった1970年以降でしょうか、1920年代と30年代の日本で自動車を所有していた人は珍しかったはずで、ウッドのページを読むと当時の日本とアメリカの工業力の差も感じることができます。

1929年から大恐慌になってもアメリカのモータリゼーションは減速はしても止まることはなく、ウッドは大型店の新規出店を加速させ、後に全米最大の小売り企業となります。

1932年にシアーズ・ローバックは赤字に転落しますが、これはウッドが入社する前の不採算部門の赤字が膨らんだためで、ウッドが始めた部門の赤字はごく僅かだったと記されています。

不採算部門はリストラすることになりますが、事業を整理するだけでなく、「オールステイト保険会社」を立ち上げ、自動車保険事業に参入します。

自動車保険事業も顧客からの評価は良く、シアーズ・ローバックの中核事業となります。

1954年にロバート・E・ウッドは会長職を去りますが、1970年代までシアーズ・ローバックは成長を続けます。

これはロバート・E・ウッドが開発した経営ノウハウが1970年代まで有効だったからでしょうか。

1970年代からシアーズ・ローバックの経営に陰りが出て、2018年に破綻したことはニュースにもなり、wikiでも記述されています。

1980年以降のシアーズ・ローバックの経営者は、ロバート・E・ウッドのように時代の変化を見極め、有効な次の方策を出すことができなかったということでしょう。

ロバート・E・ウッドは「将軍」と呼ばれ、強い信念を持った優れた経営者でしたが、独裁者ではなかったようです。

本書で「自らの戦略の進捗を絶えずチェックし、時には第三者の意見も取り入れ、戦術を見直すこともあった」と玉手氏は記述しています。

ウッドのこういうところは私も見習いたいです。

本書を読んで経営者ではなくても、ロバート・E・ウッドの人生から学べることはいくつもあると思いました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?