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本音を言わせる人、ヘタな嘘を見抜く人

先週 Xiao を面接後、お断りの通知をしたので、採用活動はまだ続いています。

その後、新たな候補者の資料がエージェントから送られてきました。
 
Kevin という名前です。今度は間違いなく男性でしょう。
香港人なので Kevin は本名ではなくニックネームです。漢字圏の人が英語圏のニックネームを名乗る習慣も悪くないですね。
 
Xiao は学歴(修士)と資格(公認会計士)が overqualified (まぶしすぎる)でした。
Kevin は「学士」「資格なし」なので、その心配はなし。
適性テスト (PI) の結果は「Controller」で、業務内容との相性は抜群です。

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“Self”(素の自分)は、かなり中庸的な行動傾向ですね。
“Self-Concept”(なるべき自分)が大きく Collaborative と Sociable に傾いているところが特徴的です。
つまり、自分としては普通だと思っているけど、周囲からはもっと協調的・社交的に振舞うことを期待されている、と彼は考えているわけです。
なんか、好感が持てます、こういう人。
 
一つの懸念は、彼の現在の勤務先でのポジションが Accounting Manager であること。
当社が募集しているポジションは Finance Associate なので、彼は現職よりも低位のポジションに応募してきたことになります。
香港人が頻繁に転職を繰り返すのは収入とポジションを効率的に上げるためなので、これは不可解な行動です。
私は人事部のティファニーに Kevin の資料を送り「意見を聞かせてほしい」と依頼しました。
 
2時間後、ティファニーがコールバックしてきました。

ティファニー曰く:
一次面接記録に "異なる業界での経験"というフレーズが何度も出てきます。
学卒後、8年間で 4社を渡り歩いていますね。香港ではごく普通の behaviour ですが、4社がいずれも異業種です。ワイン輸入業者、ソフトウェア開発、知育玩具メーカー、空調設備ソリューション。
うちの会社を自分の “異業種コレクション” に加えたいのかしら(笑)
そのほかに考えられるのは、うちのサラリーとフリンジが気に入ったのか、ヨーロッパ系大企業の安定性とユルさに魅力を感じたか。

私「ティファニー。Kevinの面接は、あなたにリードをお願いしたいと思う」
ティファニー「いいですよ。何を知りたいですか?」
私「彼がポジションを落としてでもうちに入りたい “本当の理由” です」
 
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Kevin は、大柄でふっくら顔、短髪に縁なしメガネの、”やさしいオタク” 感を醸し出した好青年でした。
 
Kevin の二次面接(最終選考)は、人事部のティファニーがインタビュアー、私がオブザーバーというかたちです。Xiao の面接とは逆の陣形。
ティファニーの面接スタイルは、女性らしく穏やかなトーンで淡々と、しかし核心を衝く質問を直球で投げてくる王道スタイルです。
 
ティファニー「当社はグローバル大企業ですが、例えばハイテク製品事業において業界一位というわけではありません。あなたは当社のコンペティターにも応募しましたか?」
Kevin「はい。S社と A社の面接も受けました。しかし、あまりいい印象を受けませんでした。プロフェッショナルでない、というか、同僚として一緒に働きたいイメージが持てませんでした」
 
ティファニー「当社は、香港の外資系の中でも給与水準が高く、福利厚生も充実しています。あなたにとってサラリーとフリンジはどれくらい重要ですか?」
Kevin「(一瞬、答えに窮する表情のあと)給与を含む処遇面はやはり重要な要素だと思います。ただ、それが最も重要かと問われると、そうではないと思いますが・・・私はそれほど高いサラリーを得たことがありませんので、貴社のサラリーに魅力を感じていることは確かだと思います(苦笑)」
 
ティファニー「当社は、社員のワークライフバランスを第一義的に優先する Top Employer です。しかし、ファイナンスの仕事は季節変動 (seasonality) が激しいですから、繁忙期には残業を求められることもあるかもしれません。あなたは残業ができますか?」
Kevin「それは全く問題ありません。現在の会社でも、月締め処理のときなど深夜過ぎまで仕事していることがあります」
ティファニー「深夜過ぎ? それは逆に問題ですね。あなたの上司になる人は、そういう働き方を評価しない人かもしれませんよ(微笑)」
と言って、ティファニーは私のほうに顔を向けてウィンクした。
 
ティファニー「当社の職階はリーンです。Associate / Manager / Director / VP の 4階層しかありません。あなたは現在 C社で Accounting “Manager” というタイトルですが、当社に入ると Associate になります。5年勤めても Associate のままで昇進しないケースなど当社ではザラです。階層を細かく分けていないからです。あなたはそれを受け入れられますか?」
Kevin「タイトルは会社によって異なると思います。C社の Manager より、貴社の Associate のほうが、ステータスは上だと考えています。そもそも、名目上のタイトルはあまり気にしていません」
 
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面接を終え、ティファニーの所見を聞く。

ティファニー曰く:
彼の最優先事項は、サラリーと業務量のバランスです。
異なる業界で云々は、志望動機を粉飾するための “お化粧” に過ぎません。
うちのような安定した大企業でラクに働きながら、できるだけ高収入を得ることが、8年で 4社を経験して彼が到達した答えなのでしょう。
社風が合えば 2年以上続くと思われます。保証はできませんが。
彼は 70%くらいしか本音を語っていません。あとの30%は引き出せませんでした。

私「タイトルには多少こだわっているようにも感じましたが」
ティファニー「私が『 5年勤めても Associate のまま』と言ったとき、彼は顔色一つ変えませんでした。あれがお芝居だとしたら・・・」
私「なかなかのものですね」
 
私「仕事は無難にこなしそうな印象です」
ティファニー「6ヵ月の試用期間で見極めればいいでしょう」
私「サラリーは?」
ティファニー「現職の C社での Annual Base Salary に 20%上乗せしても問題ありません」
 
私「ティファニー。何か気になることが?」
ティファニー「このポジションは、あなたの部下であるキャンディの部下になるのでしょ? 年齢と経験年数がキャンディと近すぎるところが少し気になりますね」
私「キャンディより 2年短い」
ティファニー「2年しか違わない人の下で働きたいですか?」
 
うーむ。
 
私「キャンディに 1 対 1 で面接させてみましょう。香港人同士、広東語で」
ティファニー「キャンディに決めさせるのですか?」
私「ネガティブチェックですよ。キャンディが『嫌い』と言う人を採用することはできません」
 
これが昨日のこと。
 
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今日、Kevin を面接したキャンディから話を聞きました。
 
キャンディ「可もなく不可もなく、といった感じでしょうか」
 
キャンディらしい率直な感想だ。私もほぼ同感ではある。
 
私「彼はあなたの部下になります。何か問題はありますか?」
キャンディ「とくにありません」
私「あなたと 2年しか変わりません。やりにくくはないですか?」
キャンディ「大丈夫だと思います」
私「では採用しましょう。ところで・・・彼は長く続くと思いますか?」
キャンディ「わかりません。5年以上は働くつもりだと言っていましたが、嘘だと思います」
私「ではどれくらい?」
キャンディ「とりあえず 2年は続けると思います。うちで 2年働いたあと、外からもっと良いオファーがあれば辞め、なければ続けるということです」
私「なるほど。よくわかるんですね」
キャンディ「私もそうでしたから」
私「正直ですね、あなたは(笑)」
キャンディ「彼もですよ。嘘をつくのがヘタだと思いました」
 
あのティファニーが「引き出せなかった」と言った本音を、キャンディは引き出したというのか。
本音を語らせることによってではなく、嘘をつかせることによって。
つまり、こういうことだ。
Kevinは、ティファニー相手に嘘は通用しないとみて、じつはかなり正直に答えていた。かたや、彼はキャンディに対しては油断していて、嘘をついた。ところが、キャンディは彼が嘘をつくことを見越していた。
 
就職活動をしている人への教訓。
面接では、自分をどう着飾っても無意味です。
あなたを面接する人は、何百人もの人間を面接してきた百戦錬磨のプロや、あなたと同じ立場を経験しているがゆえに、あなたの考えが手に取るようにわかる “元就活生” です。