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思考格差の時代に、人は仕事で育つのか

格差と言えば、所得の格差、情報の格差、恋愛の格差、一票の格差などいろいろ言われてますけど。
私が最もヤバいと感じるのは、思考の格差です。
考える人と考えない人の差が広がっている。それも、労働の変化を通じて。

モノを作る(製造)・モノを売る(販売)・その結果をまとめる(経理)。
この 3つのプロセスで、何が起こっているかを見てみましょう。

製造

モノを作る仕事は、本来クリエイティブで、頭を使う作業でした。
それが機械によってオートメーション化され、人が行う作業は単純化されてきました。これが工業化 (industrialization) です。
ボタン操作一つで仕事が完結するようになれば、作業員の考える余地は大幅に減ります。
そうなると、その仕事は誰がやっても同じ、つまり代替可能性が高まるので、労働の対価は著しく下がります。
自動化によって仕事がラクになった? いいえ、必ずしもそうは言えません。
単純労働は painful work の代表です。
仕事はよりツラくなり、賃金は下がる、という現象が起こります。
労働の対価を決めるのは、仕事のツラさではなく、代替不可能性なのです。
エッセンシャルワーカーほど賃金が低い理由がここにあります。

販売

服の販売を例にとります。
服を売る店員さんは、来店したお客に話しかけて関係を構築し、お客が求めるアイテムを探りながら、ベストマッチする服を提案するクリエイティブなお仕事です。
しかし、ユニクロのような販売形態では、お店はただの倉庫となります。
お客は棚に積まれた服を勝手に見て、勝手に選び、レジに持っていきます。
店員さんのお仕事は、会計・商品の補充・棚卸くらいになります。コンビニと変わりませんね。

さらに、ZOZOTOWN のような通販が主流になると、店員という職業自体が消滅します。
そのかわり、アプリの開発やコンバージョンを上げる仕事などが生まれます。服の販売とは全く質の異なる仕事です。
お客に服を販売する仕事と、EC サイトの使い勝手を改善する仕事。どちらがより頭を使う仕事でしょうか。

経理

工場で価値を生み出すのはモノを作る人、店舗で価値を生み出すのはモノを売る人です。
一方、工場には原価を計算する人、店舗には売上を集計する人がいます。
このような仕事は、何も生み出さずに給料がもらえる元祖ブルシットジョブでしたが、そのブルシットな仕事も変わりました。
一昔前の原価計算は、エクセルなどの表計算ソフトで複雑な計算式を組み、データ入力、検算、関係部署のレビュー等を経て完成する高度な仕事でした。
現在は SAP のような強力な ERP を使えば、ワンクリックで原価計算が終わります。会計の基礎知識は不要だし、エクセルのスキルも計数を読む能力も要りません。原価計算は、誰でもできる労働になったのです。

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製造・販売といった直接労働も、経理などの間接労働も、同じようなことが起こっているのがわかるでしょう。
テクノロジーは、仕事から “頭を使う要素”をなくし、考える必要のない労働を増やしているのです。
こうして、人間の思考力はどんどん低下していきます。考える力は、考える経験を積み重ねることによってしか養われませんからね。

もちろん、すべての人の思考力が落ちていくわけではありません。
もうお気づきでしょう。新しいテクノロジーを生み出す人は、考える仕事をしていると思われます。
上記の例で言えば、製造機械を設計する人、販売モデルやプラットフォームを考案する人、ERP を開発する人。
でもそれって、全人口の何 % ですか? 1 % もいないんじゃないですか?

1 % にも満たない、高所得層ならぬ高思考層が、新たなテクノロジーを次々と開発して、99 % の低思考層を拡大再生産しているのではないか。
世の中を便利にしてくれてありがとう、とか言ってる場合ではないんじゃないか。高思考層は、便利なテックに頼ってますます思考力を低下させていく低思考層を見て高笑いしてるんじゃないか。

「AI によってなくなる仕事」みたいな未来を心配する前に、まず現在を直視したほうがいいと思うんですね。
すでに思考格差がかなり拡大している現状を。
その比率は、1 % vs 99 % という、富の格差と似たような惨状であること。
つまり、頭を使う仕事は、たった 1 % の高思考層に独占されているのです。

じゃあどうしたらいいんだ?って話ですが。

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全人口が高思考の仕事に就くのは無理だし、ナンセンスなのですよ。高度な機械やソフトを開発する高思考の仕事は、それを使う低思考の仕事を前提としているわけですから。
そこで提案ですが、仕事で頭を使うのはあきらめてはどうかと。
だって仕方がないじゃないですか。頭を使う仕事なんてほとんど残ってないんだから。クリック一つで原価計算できちゃうんだから。
そこで無理やり頭を使う仕事をやろうとしたら、ロクなことしないでしょ。
社内政治に参戦するか、百害あって一利ないプロジェクトを立ち上げるに決まってんだから。

仕事以外のことで思考力の低下を防ぐしかないと思うんです。
とあるコンサルタントが言ってました。
日本の工場で、従業員はお昼休みに何をして過ごすかって話。
事務員はバレーボールをし、現場の作業員は将棋を指すんだそうです。
つまり、仕事で頭を使う人は休憩時間に体を使い、仕事で体を使う人は頭を使いたがる、ということらしい。

仕事以外で頭を使う活動として、やはり王道は何かを創造することのようです。noter さんたちの記事を読ませていただきながら、そう感じています。
プラモデル制作。動画の編集。クッキング。小説を書く。絵を描く。
創作を楽しむ人々が集う note という場は、クリエイティブな空気に満ちています。

「仕事を通じて成長する」とか言っていた時代は、過去の話になりつつあるんだと思います。
そうでも思わないと、仕事 ⇒成長幻想に囚われ、なりたい自分(=理想)と仕事(=現実)のギャップに悩まされ続けるのではないでしょうか。