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トップは孤独なのだ

2ヵ月ぶりに本業の話をします。
といっても、新任 VP の Sinem(シネム)に助言するだけのお仕事ですが。

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VP (Vice President) になって 2年目のシネムは、Managerクラス以上の部下を集めて、約半日のミーティングを行うことにしました。
彼女が統括するファイナンス部門の組織図は以下のとおり。

シネムの直属である Director 3名、その部下である Manager 9名、そしてよくわからないポジションの私。合わせて 14名が参加する初めての会議です。

私は常々「会議を減らそう」とシネムに言っているのですが、たまにはこういう全校集会みたいなイベントもいいか、と思いました。
それに、組織長として 2年目という真価が問われる今、彼女には緊張と焦りがあるのを感じています。

このイベントの目的は、2024年の目標・重点課題の共有と、部下たちの率直な意見を聞くこと、だそうです。


イベントが終わって、シネムとふたりでランチに行きました。
「fruitfulなミーティングだったよね」
と、シネムはやや興奮気味に言いました。

「うん。やってよかったと思うよ」
と、私は笑顔で返します。
ウソではありません。
3人の Director に対するシネムの期待が明確になったこと。
9人の Manager たちにヘッドの声を直接届けられたこと。
それだけでも有意義な 3時間だったと私は思いました。

料理の注文を済ませたあと、シネムの視線が少し下に向いた気がしました。
100%満足してはいないんだろうな、と感じつつ、彼女の言葉を待ちます。

「もっとみんなの意見が聞きたかったけどね・・・」

シネムらしいな、と思いました。
そこに気づくだけでも、あなたは組織のヘッドにふさわしい人なのだ。

「私うまく話せてた?」

私は即答せず、とりあえず煙草に火をつけました。
シネムもバッグから煙草とライターを取り出して、慣れた手つきで火をつけます。

「わかりやすく話してた。Directors にも Managers にもわかる言葉で。リーダーとして、メンバーをその気にさせる話し方だったと思うよ」

シネムはホッとした顔をして、でもすぐに真剣な顔になって言いました。
「改善点は?」

言うと思ったよ。
だから私をランチに誘ったんだろう。

さて、どう助言しようか。
彼女を傷つけたくない。
でも、彼女はストレートな言葉を聞きたいのだろう。

「シネム。あなたはしゃべりすぎたと思う」

シネムは苦笑して、
“I know…”
とつぶやいた。

「私がずっとしゃべってたら、誰も発言できないよね」

それ以上の助言は不要っぽいな。

「マルティンとエミリーはもっと絡んでくれると思ったんだけどね」

ふーむ。
「これほどの人数が集まるのは初めてのことだから、二人ともどう振る舞っていいかわからなかったんだと思うよ」
「ふぅ・・・そういうもん?」
「あなたは絶大な権力をもってるんだよ、シネム」
「そうは思っていないんだけどなぁ・・・」

そういうとこ。シネムのいいところではある。
が、この際はっきり言っておくか。
 
「私は日本人だから、トルコ人であるあなたの考えに近いと思う。でもね、スイス人のマルティンやイギリス人のエミリーは、ボスに対する失言で一発解雇になる世界で生きてきた人たちなんだよ」

シネムは細い煙を吐いてから、
「いやな世界だね」
と言った。


話題を変えて、お互いの子供の近況などを話しました。
シネムは二女の母。私は二女の父です。
ひととおり話し終えたところで。

「6ヵ月後にまたやろうと思うんだけど、何かアイデアある?」
「日本人ならこうするかな。事前に Directorだけ集めて仕込んでおく。まず Directorに stupidな質問をさせること。さらに配下の Managerたちに話を振ってもらうこと。Managersに話させるにはそうするしかない」

料理が運ばれてきた。
パルメザンとルッコラたっぷりのビーフカルパッチョ。
キノコたちメインの焼きたてピザ。
ふと、ワインリストに目がいく。
それを手に取ったシネムが ”Up to you” とウィンクして私に手渡しました。

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