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『あかり。』 #68 16mmフィルムで・相米慎二監督の思い出譚

(#59の続き)
あっという間に月日が経ち、テクノロジーは進化したので、いまさらフィルムで撮るかデジタルで撮るかを話すのはナンセンスかもしれないが、僕はフィルム撮影が好きである。フィルムの持つ質感が好きだった。ましてや映画(みたいなもの)であればなおさらだった。

「じゃあ、フィルムで撮れないならやんないってわけ?!」
目の前のKプロデューサーの目が三角になった。
新人監督にそんなこと言われる筋合いはないと言わんばかりの顔つきだった。
「ムラモト君はそんなこと言ってないだろう」
すかさず相米監督がなだめてくれている。
「予算もありますからね!」
Kさんは仏頂面だった。

話は相米監督の元、撮ってきたCMをグリコがスポンサーになって、長尺物にする企画で、安藤政信・奥菜恵/椎名桔平・常盤貴子/鳥羽潤・吉川ひなの……の3組のカップルの織りなす3本のオムニバスだった。
僕は去年から監督についてこのシリーズに関わっていたので、こちらにも声をかけてもらえたのだろう。

「ムラモトくんには、敬意を表して、どいつら撮るか選ばせてやろうじゃないか」
監督がさも嬉しそうに言った。
「あの安藤君たちで……」
僕がそう言うと、
「まあ、そうだろうな」
と監督が笑った。なんでもお見通しのようだった。
一応、プロデューサーたちに理由を述べてみたが、そんなことはどうでもいいみたいで、「じゃあ、そういうことにしようか」とあっさり決まった。

「脚本(ホン)はこっちでやっとくから。ちょっと待ってて」
「あ、はい」
どうやら脚本は関われないことが、そのとき分かった。
監督は今回は「総監督」として、3本の全体を見るとのことだった。

話を振っていただき、とても嬉しかった……けど、内心どうなるか不安だった。長尺ものが不安だったというより、役者たちが相米監督の演出に心酔していたのを横で見ていたから、急にドラマ版を若手が撮るといっても心を開いてくれるかどうか。
それが心配だった。

やがてライターが書いた脚本が仕上がり(初稿なのか、相米監督の手が入り改稿を重ねたものかは聞かなかった)それを渡され、他の2本を撮る監督を紹介された。二人は初監督だったが、長年映画の助監督を務めてきた人で、だいたい同世代だった。

そこから、やたらと大変な日々が始まったのだけど、それはまた……。



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