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Sansan・Box・テックタッチのエンプラセールス by SaaS部 2023 Summer

みなさん、こんにちは。
今回は、2023年7月に開催したイベント「SaaS部 2023 Summer」のレポート記事をお届けします。弊社の投資先およびSaaS領域で起業した起業家を対象にDNXが主催となって開催しているイベント「SaaS部」。10回目となる今回は、「エンタープライズセールス」に特化して様々な角度からゲストの皆様にお話をいただき、経営者たちの集中と熱量溢れる学びの詰まった会となりました。

2つのセッションから、今回はSansan 共同創業者/取締役/COO 富岡圭さん・Box Japan 営業企画室長 兼 ストラテジックセールス 綾小路雅典さん・テックタッチ Vice President, Sales 西野創志さんのセッションの内容をレポート。「成長性と効率性実現のためのエンタープライズセールス」と題して、エンタープライズセールスを牽引してきた経験豊富な御三方に、エンプラセールスの実際の運用について、各社の事例やお考えを伺いました。

富岡 圭
Sansan株式会社 共同創業者/取締役/COO

日本オラクル株式会社に入社し、上海やバンコクを拠点にグレーターチャイナ(中国、香港、台湾)、東南アジア、インドのマーケット開拓を担当。2007年にSansan株式会社を共同創業し、営業DXサービス「Sansan」の事業を指揮する。現在はCOOとしてSansanをはじめ、BtoB SaaS事業を統括。2023年から、Sansan Global Pte. Ltd.のCEOに就任。

綾小路 雅典
株式会社Box Japan 営業企画室長 兼 ストラテジックセールス
DNX Ventures ベンチャーアドバイザー

2017年Box Japanに参画、営業企画とストラテジックセールスをリード。エンタープライズソフトウェア業界に3社で20年間従事。2020年よりSaas スタートアップ企業向けにエンタープライズセールス組織の立上げおよび強化を支援、2023年5月にDNX Ventures アドバイザーに就任。

西野 創志
テックタッチ株式会社 Vice President, Sales

TIS株式会社にて、ERPの導入プロジェクトに携わった後、営業職に従事。その後、SAP Japan株式会社で、大手企業向け人事システムの販売を担当。2018年にSlack Japan株式会社に入社し、日本法人立ち上げを経験。エンタープライズ事業本部 本部長として大手企業と公共分野向けのビジネスを統括、株式会社セールスフォース・ジャパンとの統合後も同職を従事。2022年3月よりテックタッチ株式会社に入社。

自己紹介

富岡:こんにちは、Sansanの富岡と申します。よろしくお願いします。

綾小路:Box Japanの綾小路と申します。Boxは日本進出をして10年目、ようやく日本でも認知が広がり、デファクトスタンダードになってきたのではないかと思っています。現在、Box Japanは200名程度で、70名のセールス組織は「エンタープライズ」「ミットマーケット」「SMB」の3つに分かれ、僕自身は営業企画のリードと特別なお客様を担当するという二つに従事しています。先月からDNX VenturesのVenture Advisorにも就任させていただきました。

倉林:綾小路さんには、今後投資先に向けてセールスのアドバイスをお願いする予定です。

西野:皆さんこんにちは。テックタッチの西野と言います。2022年3月から、営業責任者として営業やインサイドアライアンスを管掌しています。2018年創業のひよっこベンチャーなので、みなさんと同じ目線でお話ができればと思います。テックタッチ以前は、Slack Japanで 4年ほどエンタープライズ営業をやり、その前は、綾小路さんと一緒にSAPで5年ほど、新卒ではTISでSIerをしていました。

値引き

倉林:まず初めのトピックはディスカウント・値引きについて。グロスマージン70%以上を目指そうとすると、値引きの要請にどう応じるかは難しいテーマです。

富岡さん:もちろん値引きしない方がいいのですが、残念ながら値引きせざるを得ない場面は多いですよね。値引きした後に戻したいと思ってオプションなどで調整を試みるのですが、なかなか戻せない。事例を作るために仕方なしと割り切って値引きし、次から頑張るのが現実的だと思います。

倉林:綾小路さんも多くの値引き交渉を経験されているのではないかと思います。

綾小路さん:そうですね、値引きは奥深いですね。Boxでは値引きの授業があるほどです。値引きしなくて済めばそれが一番いいのですが、そんなシチュエーションは稀有です。値引きせずに使ってくれていたお客さんが解約してしまうといった展開もあるわけです。だから僕が考えるのは、お客さんが僕たちのサービスへのバリューを感じて「どうしても欲しいが、金が合わん」というシチュエーションは値引きの要請に対して応えたい。他方、価値を理解していただけず「5万円くらいなら買うけどね」というお客さんには、プライスも出さずに去ることも一つの選択肢だと思います。値引かざるを得ない理由によるということですね。どうしても値引きをする場合は、長期契約など代わりのリクエストを事前に用意します。

倉林:すばらしいですね。値引きして長期契約を取ってしまうのは低価格でロックされてしまうので、ネガティブな要素もあると思いますが?

綾小路さん:値引き条件を作る理由によります。「大規模な事例として、数万ユーザー購入いただきたい」「ARR 3億円を達成したい」という明確な理由がある場合には頑張りますよね。ただ、いくらで販売したかという条件というものは、NDAを結んでも情報が流出することもある。なので相場感は重要です。そのときに「なんであそこだけ」とならないよう、理由は必要だと思います。

株式会社Box Japan 営業企画室長 兼 ストラテジックセールス・DNX Ventures ベンチャーアドバイザー
綾小路 雅典さん

倉林:テックタッチはディスカウントにどのように対応されていますか。

西野さん:エンタープライズの値引き要請が当たり前に起こっている背景には、SAPやオラクル、HPなどが、定価から80%とか90%ディスカウントしてきたことが影響しています。お客さんもその経験からディスカウントしてもらえるだろうという感覚になりがちなんです。

倉林:お客さんも何が正しい価格かわからない。外資がリストプライスから値引きしていると、カツカツでやっているスタートアップもディスカウントしている感を出さないといけないわけですよね。

西野さん:本当に困りますね。日本のベンチャーに来て思ったのは、大前提でお客さんに価値がきちんと伝わっていて、ARR数百万円後半代〜2,000万円くらいの商談であれば、競合さえいなければ値引きは強気に交渉できるのではないかと。決裁金額に応じて1,000万円を999万円にしましょうといった調整は会社都合に合わせていいと思います。僕がテックタッチに入社してから初めに取り組んだのは、プライシングをCS責任者としっかり決めることでした。理想のプライスに対して、値引きを想定して数割乗せておく。その上乗せしたなかで値引きに応じているので、実際値引かずにセリングできているかなと思います。もちろん取りたい案件で値引きをすることもありますが、基本的にはプロダクトの提供価値があれば強気でいけるのでは。「僕らベンチャーなのでこれでやりましょうよ」という心情をくすぐる感じで行っていいのではないかと思います。

テックタッチ株式会社 Vice President, Sales  西野 創志さん

顧客の組織理解

綾小路さん:SAP在籍時は単価が大きく複雑だったのですが、現在のBoxはもっとシンプルです。いろいろなアカウントプラン(顧客攻略戦略)を見てきましたが、Boxのようなシンプルなプロダクトの場合は、あまり細かくやりません。やりすぎると時間もかかるしスキルセットによってバラツキもある。SaaSにおいては、多分もっとスピードとサイクル・効率性をあげる発想が重要です。やりすぎると目的とずれるような気がするんです。

西野さん:SAPで営業をしていたころは、経営陣ひとりひとりの特徴をまとめていました。SAPでは「テリトリー戦略」といって、ひとり5アカウントにフォーカスをする。エコノミックバイヤーが誰か、チャンピオンが誰かを営業自身が分析するんです。テックタッチでは、少しチャレンジの意味合いもありますが、組織が複雑な一部のお客さんに対してだけ、アカウントプランを作り始めています。1億〜2億円の売上にしていくためにどうするか、楽しみ半分でやっています。管理も大変なので、軽いかたちで。

倉林:エンタープライズの企業内で、別の部署の方の紹介をお願いしたら連絡が止まってしまう、といった経験はありませんか。

西野さん:ありますね。社内紹介はよほどチャンピオンが他部門にも顔が効くという方以外、基本は難しいものだと考えたほうがいいです。例えばIT部門の場合、自分達の部署でベンダーコントロールをしたいと考えているので、飛び越えて経理部門に営業すると怒られてしまうということもあるんです。

富岡さん:SAPさんをはじめ、ERPの営業はアカウントプラン・マネジメントをやってこられたのではないかと思います。私たちのビジネスでは人と人との繋がりを扱う以上、誰と誰が接点を持っているかが大事なので、組織図をつくることに時間をかける必要はありませんが、接点を可視化しディールのキーマンを確認する程度はやっていいと思います。私たちも、エンプラの規模が大きくなればなるほどそのようにしていますね。

Sansan株式会社 共同創業者/取締役/COO  富岡 圭さん


(文・写真 上野なつみ)


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