SaaS経営者×投資家対談②|MoneyForward辻庸介氏×DNX倉林陽

SaaS起業家のみなさんへ。

SaaSスタートアップへの投資に長年携わってきたDNX倉林が聞き手となり、SaaSスタートアップのヒントを詰め込んだ、経営者インタビューを3本連載でお届けします。3社それぞれの創業ストーリーやSaaSモデルを選んだ理由、そして若手起業家へのメッセージをいただきました。みなさんのSaaSビジネスのヒントに、そして、成功への大きなモチベーションにして頂けたら嬉しいです。

第2回目となる今回は、株式会社マネーフォワードの代表取締役 CEO 辻庸介さん。
2017年9月に、創業からわずか5年で上場。中小企業/個人事業主向けクラウドサービスや個人向けのお金の見える化サービスなどの主要事業に加え、上場後もフィンテックの領域で次々と新サービスを打ち出しています。今回は創業ストーリーに加え、事業をブーストすることになった契機や、相乗効果を生んだM&A実績のお話などを伺いました。


1.創業のきっかけ

倉林:自己紹介と、創業のキッカケをご紹介ください。

辻さん:ソニー、マネックス証券を経て、マネーフォワードを2012年に創業しました。現在は、中小企業や個人事業主向けにクラウドサービス「マネーフォワード クラウドシリーズ」、個人向けにお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」など、様々な事業を展開しています。マネックス証券勤務時代から、人生においてお金の問題は切っても切れないものであるにもかかわらず、世の中にはお金の課題を解決するいいサービスがまだ出てきていないという課題感を持っていて。米国ペンシルバニア大学ウォートン校に留学していた時に、のちに一緒にマネーフォワードを創業することになる瀧と知り合ったんですよね。留学させていただいた恩義もあり、留学後はマネックス証券に戻っていたのですが、やはりお金の課題を解決できるサービスを提供したいという思いが強くなり、最終的に6人でマネーフォワードを創業することになりました。倉林さんにエンジェルで投資いただいたのが2013年1月でしたよね。

倉林:留学前に起業したいとお話しされていて、僕は内心「社費留学なのに起業できるかな」と思っていたんです。ところが帰国後会った時、変わらず「僕、起業します」って言っていて。すごいなと思いました。

辻さん:例えば当時、クックパッドさんは日本中の主婦が抱える夕方の悩みをサービスで解決していて、その膨大な悩みの量を解決した素晴らしいサービスだなと思っていたんです。「お金に関してもそういうサービスがあればいいな」と常々考えていたんですが、世の中には存在しないので、「じゃあつくるか」と自分でサービスをつくることに決めました。

倉林:当時アメリカでは、類似スタートアップ「mint.com」がエグジットして、いい成功事例になっていました。

辻さん:「mint.com」のエグジットは小さく見えましたが、実はあれを実現するのはめちゃくちゃ大変なんですよ。もちろん、苦しいところをやりきると参入障壁になりますけどね。僕らが提供する「マネーフォワード クラウドシリーズ」のビジネスもSaaSモデルでやっていますが、まだ不十分で、業界1位になろうと思うと、ある種の“狂気”や”怖さ”が必要だと思っています。


2.B2Bブーストの鍵=税理士

倉林:その後SaaSの会計ソフトをやる、となりましたよね。

辻さん:あのときの確信は、B2Cで確定申告サービスの需要が伸びていることでした。定期的にユーザーさんの意見を聞くんですが、「この便利な仕組みをつかってこの面倒臭い確定申告を楽にしてほしい」という回答が20%以上あったんですよ。たしかに僕も確定申告がすごく面倒臭いと思っていて、「ああ、これだ」と実感したんですよね。アカウントアグリゲーション技術 *1  など僕らが提供していた既存の仕組みも使えるし、チームには会計士や決算経験のある元起業家もいたし、僕も経理だったので、「これはできる」と思いました。

倉林:それからB2BとB2Cの両方を伸ばしていくという離れ業をやってこられたわけですが、B2Bの領域においてはどういうふうにここまで成長してこられたのでしょうか。

辻さん:つくったころはWEB上で終わる完結モデルでした。いいプロダクトをつくればうまくいくだろうと思っていたんですが、これが勘違いでした(笑)。思った以上にWEBだけで法人向けのサービスを展開するのは厳しくて。でも、お客様のところに訪問するとヒントをたくさんもらえたんです。そしてついに、2名の税理士の方が、僕らと一緒にやると言ってくださったんです。「世の中は君たちが目指すのと同じ方向へ進んでいくだろうから、一緒にやろう」と。実際には、サービスしたてだったので、まだまだプロダクトの完成度も低く、「使いにくい」、「遅い」、「機能がない」などのフィードバックを、ずっといただいていました。足りないところをたくさん指摘していただいて、会社に戻り、開発メンバーにフィードバックして、開発してもらって。スピード感を持って対応していましたね。

*1:アカウントアグリゲーション技術:英文表記Account Aggregation。インターネットバンキングなどに預金者が保有する、異なる金融機関の複数の口座の情報を、単一のコンピュータスクリーン上に集約・表示するサービスの総称。


3.カスタマーサクセスの重要性

倉林:会社の規模によってプロダクト開発の優先順位づけって違いがあって大変ですよね。

辻さん:当時から倉林さんに相談させてもらっていましたよね。法人向けプロダクトは、会計事務所さんへのリアルな営業が重要だということがわかってきたんです。中小企業の方と話していくと、社長さんは会計のプロダクトの良し悪しまではわからないし、現場がカンファタブルにスピーディーに対応してくれればそれでいい。会計プロダクトのアドバイスをしているのは、実は会計事務所であるということに気づいてからは、会計事務所へ提案することにリソースを振り、僕もとにかく全国行脚して。当時は全然ペイしないことばっかりやっていましたね。バランスが難しいんです。

倉林:会計事務所への営業を始めてからARPA *2  が増えていったのでしょうか。

辻さん:はい、そうですね。単価が安いのでバルクで買ってくれるところじゃないと営業メンバーを送れなくて、その結果、規模の大きい会計事務所からあたるしかなかったんです。

倉林:御社の場合カスタマーサクセス領域は、顧客数が多いからどんなふうにテックタッチでやっていくかというのが課題だろうと拝見していました。

辻さん:会計事務所さんから「買ったはいいけど使えない」という声があったため、まず「クラウド推進部」をつくりました。当時は「カスタマーサクセス」なんていう考え方を知らなかったですからね。クラウド推進部のみんなが現場に足を運んで踏ん張ってくれて。当時一番辛い部署だったと思うんですよね。営業は押し込めるんですけど、そこから実際にお客さんに使っていただくときに、「この機能がない」、「お客さんが使い方わからない」とか、リアルな声に接することになる。人間力も試されますし、できないことはできないと言わないといけない。プロダクトが未成熟の時は、カスタマーサクセスのチームが一番しんどいですよね。

倉林:そうそう、営業が先を考えずに取ってくると、LTV *3 を回収するカスタマーサクセスの立場からは「そういうお客さんはとってくるなよ」というシーンもあるでしょうしね。

*2 ARPA:英文表記Average Revenue per Account。1アカウント当たりの平均売上高。
*3 LTV:Life Time Value、顧客生涯価値。


4.クラウドで新規参入、既存勢力という競合

倉林:マネーフォワードのビジネスで特徴的なのが、「既存勢力」がいること。もともとソフトウェアがオンプレミス *4 であって、そこにクラウドで新規参入するというところだと思います。

辻さん:めっちゃ難しいですよね。僕らの場合は、意識的にモメンタムをつくったことで導入が進みました。また、僕らのサービスをいち早く使ってくれたのは、会計事務所の中でもイノベーターの人たちばかりでした。彼らが味方になってくれるかどうか、そしてそのあとアーリーアダプターが使ってくれるかどうかが勝負でしたね。今ようやくアーリーアダプターを抜けてアーリーマジョリティが使って下さるようになってきています。例えば、提供者の立場からは「アカウントアグリゲーション *1 の技術でデータ連携ができるので手入力の必要はありません」などとは言えますけど、実際にはインターネットバンキングを使いこなせる中小企業ってまだ少ない、という現実が絶対にあります。その現実を見ないで理想論を言っていたら、ベンチャーはすぐ死ぬと思いましたね。クラウド利用率は現在15%くらいですから、僕らの戦いはまだまだこれからだと思っています。

*4 オンプレミス:英文表記On-Premises。自社でシステムのハードウェアやソフトウェアを保有すること。「クラウド」の対義語として使われることが多い。


5.M&A

倉林:僕が辻さんに注目しているのは、M&Aを通じてレベニューやテクノロジー、チームを取り込み、活用して本業も伸ばしていき、買収した事業も伸ばしていく姿勢です。米国では当たり前に目の当たりにしてきたことでしたが、日本の企業ではちゃんとやれているところがなくて。金額的に大きな買収ではなかったと思うんですが、クラビスを買収してから相乗効果で伸びていますよね。かつ、クラビスのメンバーが御社の経営人材として活躍されている。これはすごいいい事例で。こういうことをどんどんやっていってほしいなと思っています。

辻さん:昨年は、クラビスだけでなくナレッジラボもマネーフォワードグループにジョインしました。経営陣だけでなくプロダクトもめちゃくちゃいい。クラビスの場合は、当社の営業メンバーに対して、すぐにクラビスのプロダクトについての説明をして、一緒に売りはじめました。グループにジョインしてもらったからには「絶対成功させる。絶対売る。」という覚悟で臨んでいます。ナレッジラボも、自分たちでなかなか作れなかった経営分析やAI監査とかのプロダクトをラインナップに加えることができたので、すごくよかった。こういうM&Aは、派手ではないですが、当社の2〜3年先の成長にめちゃくちゃ大きな影響を与えると思います。非常によい決断ができたと考えています。
M&Aをしてもう一つ良かったことは、社長が増えたことですね。たとえば、クラビス創業者で社長の菅藤さんとの会話がすごく楽なんですよ。課題だけ言って去っていく人もいる中で、菅藤さんはどうやってやるかまで考えてもってくる。全然売れなかった時の苦労とか、採用に失敗した経験があるので、話がすべて理想論じゃないんです。あとは、会社のカルチャーが似ていて、目指す世界が一緒だったことが一番大きいなと思っています。

倉林:日本ではスタートアップを買収する大企業がいないので東証マザーズにいくしかない。海外の会社に買われる事例も今後増えてくると思っているんですけれども、そろそろ日本の会社による買収も増えていってほしいと思いますね。

辻さん:どうやったらもっとM&Aが活発になりますかね。

倉林:ねぇ、どうやったら買えるんでしょうね(笑)。あとは買う側のスキルとメンタリティな気がしますけどね、御社はスキルがあるからやれる。辻さんの場合はご自身が起業家で最大株主、ロングスパンで会社をみているから、買収して時価総額経営の観点から企業価値をあげていくための手段を考えていらっしゃいますよね。

辻さん:そうですね。


6.成功の秘訣

倉林:続いては「マネーフォワード クラウドシリーズ」が成長したポイントを伺っていきたいと思います。他のSaaSと違って北海道に拠点を構えたり、UI/UXに力を入れたりと、いろいろとやってこられましたよね。起業家に役立つポイントがあれば聞かせてください。

辻さん:プロダクトづくりやUI/UXにも力を入れましたし、販売先である会計事務所さんとの関係づくりを重視したこともポイントの一つだと思います。あとは、北海道・仙台・東京・名古屋・大阪・京都・福岡に拠点を設置したことも大きかったですよね。各地域のメンバーが地場を盛り上げたいという熱い想いをもち、地場にいらっしゃる同じ志をもつ人たちともすごく仲が良く、完全に独立国のようになっています。当時クラウドが切り口の「MFクラウドEXPO」を当社が開催していたのも珍しかったと思います。モメンタムをつくりたかったんですよね。グローバルへの展開についても取り組みを始めていて、インドネシアのSLEEKERという会社の大株主になりました。一番難しかったのはプライシングですね。お客さんに“YES”と言ってもらえるプライシングをしたいからみんな安くするんですよ。ところが、それだとMRR *5 の拡大に繋がらない。プロダクトと収益率って両輪だと思うんです。その点、海外の大手企業が素晴らしいのは、サービスとプロダクトの価格のバランスがいいこと。きちんと収益が上がると、いい給与でいい人材が採用できる。大規模イベントの開催やマーケティングにもさらにお金をかけることができます。さらに成長するとスタートアップへの投資や買収もできるようになりますよね。同じようなサービスが出てきたらすぐに投資したり買収したりできる。ものすごくうまく回っていますよね。そのためにも、プロダクトを真摯に作って改善して、提供価値を高めていかないと勝てない。その点については、僕らはまだ足りてないと思います。

倉林:必要なファンクションがいっぱいありますよね。どういう順番で取り組むかはもはやアートのよう。迅速にアジャストしていくことも大事ですよね。
辻さん:いや、本当にアートですね。

*5 MRR:Monthly Recurring Revenueのこと。月額継続課金売上高。


7.アドバイス

倉林:辻さんのような先駆者のおかげで、SaaSのスタートアップがどんどん増え、業界が盛り上がってきています。これからの経営者に一言アドバイスをお願いします。

辻さん:それはもう、「SaaSならクラ(倉林)さんに!」。昔アメリカにいたときからSaaS領域で投資を続けられていますからね。それから、売上がまだほとんどない時に5億円の調達ができたのはJAFCOさんのおかげなんです。だから、「SaaSならDNX VenturesさんとJAFCOさんに!」ですね。あと、最近の起業家は優秀な方が多いですよね。僕が起業した時なんて、何も分からなくて失敗ばかりしていたので、本当にみなさんすごいなぁと思っています。

倉林:本当、優秀な人たちがどんどん起業してくれていて。先輩たちを見ているからラーニングが短いんですよね。

辻さん:一方で、大きなマーケットはそんなに多くない気がしますけど、どうですか?

倉林:バーティカルSaaSの場合は、クラウド事業の上にビッグデータを活用したビジネスを被せていくような事例もアメリカでは見られます。顧客接点をつくって、そこからクリエイティブに色々なビジネスを重ねていくんですね。

辻さん:僕ら「中小企業をよくできる」「喜んでもらえる」ということが本当に楽しくて。その楽しみってSaaSならではだと思うんですよね。企業を良くすることができる、まさに「テクノロジーの民主化」。プロダクトだけつくってもテクノロジーの民主化は無理なので、テクノロジーに詳しくない人たちでも使えるものを提供していくことが大切ですよね。しかも、「企業を良くしよう」と思っている熱いパートナーさんがたくさんいるので、自社だけで頑張るのではなくて、そういう方とのリレーション・信頼を構築していくことも大事だと思います。中小企業と向き合うのって簡単じゃないので、覚悟はちゃんとあったほうがいいですよね。

倉林:大手企業や地銀、商工会議所の方などと信頼関係をきちんと築いて向き合っているところが、本当に御社の素晴らしいところだと思います。

辻さん:みなさん想いをもってやっていらっしゃいますからね。僕らがそういう方々に提供できるのはツールにすぎませんが、使っていただけたら日本はちょっとよくなるはず。1社じゃ難しいので、みんなでエコシステムをよくしていきたい。一緒に中小企業をよくしていくような若手企業が生まれてくれると嬉しいです。僕らはオープンなので、そういう人たちと一緒にやりたいですね。

倉林:今日は本当にありがとうございました。

写真:平岩享  / 聞き手:倉林陽 / 編集:上野なつみ

 前回記事
>> SaaS経営者×投資家対談①|Sansan寺田親弘氏×DNX倉林陽



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