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新規投資|NABLA Mobility:航空会社向け最適な運航ルート提案

DNX Venturesは、株式会社NABLA Mobility(以下、NABLA社)に、新規投資をさせて頂きました。NABLA社は2021年に設立された航空テック企業で、最適な運航ルートを提案する航空会社向けのソフトウェアを提供しています。世界的なSAF(バイオ燃料)の供給不足が見込まれるなか、運航オペレーションの最適化することで航空業界の脱酸素化への貢献を目指しています。本稿では、我々DNX Venturesがシードファンドから新しく出資をするに至った背景と提供価値について、触れてみたいと思います。

NABLA社が訴求する課題

「飛び恥(flight shame)」の言葉に代表されるように、航空機が出す温暖化ガスは気候変動に大きな影響を与えており、脱炭素化は航空業界にとって取り組むべき最も重要な課題です。国際民間航空機関(ICAO)は、2050年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする長期目標を採択しています。解決策には、SAF(バイオ燃料)への置き換えが最も期待されていますが、2019年に世界で生産されたSAFは20万トン未満で、航空会社が使用するジェット燃料の0.1%未満に過ぎません。SAFによる解決に時間がかかることは明らかであり、航空業界は引き続き、運航の効率化による燃料削減を追求し続ける必要があります。しかし、パイロットや航空管制官が複雑な条件下で燃費最適化を実施するフライトを行うことは現時点で限界が見えており、パラダイムを変える新しい提案型ソフトウェア技術による運航支援が求められています。

NABLA社が提供する価値

NABLA社の提供する運航支援ソフトウェアは、従来の決定論的なアルゴリズムとは異なり、AI/MLなどの確率論的なアプローチをベースとしており、乱気流予測などの気象モデリング等を組み込んだ内容になっています。2023年1月にはPeach Aviation株式会社と東京大学と組み、NABLA社のソフトウエアを活用して、定期航空便では世界初となる新しい効率的な降下軌道の実証飛行を行い、その高い燃料削減効果を実証しました。降下フェーズに加え、離陸、巡航それぞれの区間において、運航最適化できるアプローチをNABLA社は開発しており、その効果が実現されれば、航空業界の脱酸素化に大きく貢献できます。

次に、NABLA社への追加投資に至った背景について、2点、お話したいと思います。

1) 専門性に優れた経営チーム

NABLA社のCEOで創業者の田中さんは、東京大学および米国MITで航空宇宙工学の修士号を取得しています。その後、IHIで航空機エンジン設計を経験された後、ボストンコンサルティンググループで経営コンサルティング業務に従事されました。航空宇宙分野の専門家であり、経営コンサルタントとしてグローバルな経験も持つ強みは、NABLA社の強みそのものです。共同創業者の佐藤さんも、同じく東京大学で航空宇宙工学の博士号を取得し、ベンチャーでのCTO経験もあります。取締役である平本さんは東京大学で情報工学の修士号を取得し、NABLA社のプロダクトに不可欠な画像処理、アルゴリズム開発の専門家です。航空宇宙分野の専門性に優れた経営チームが会社を牽引している点をDNXは何よりも高く評価しました。

2) ユニークな開発アプローチと技術力

運航支援ソフトウェアを開発する企業は世界で一定数、存在します。大手の航空機メーカは、競争力の確保のため運航支援ソフトウェアの会社を買収して内部化する傾向にあります。前述のボーイング社は、1999年にJeppessen社を、2019年にForeFlight社を買収しました。一方で、エアバス社は、2015年にNavtech社を買収し、自社のグループと合わせて2016年にNavBlue社として統合しました。このように、世界の競合がいる中で、NABLA社は独自のアリゴリズムによる運航支援ソフトウェアを提供している点が特徴的です。それは、既存の航路設計システムが飛行の何時間も前に、確定論的に粗い粒度で最適化を行う古典的なアプローチであるのに対して、NABLA社は航空機の上昇や下降、乱気流予測など、実際の飛行ルートや気象状況に応じた確率論的なアプローチをベースとしている点です。AI/MLを用いたモデルは、安全性が最優先されてきた業界の大手にとって導入に抵抗があった歴史的な背景もあり、NABLA社は先行して開発することができました(特許も出願中)。NABLA社の技術力は既に高く評価されており、航空機メーカの米国ボーイング社が開催するアクセラレーションプログラムであるAerospace Xelerated(第4期)に、日本企業として初めて採択されました。


田中CEOからのコメント

乗客からすると遠く離れた区間を移動する手段として航空機を捉えることが多いですが、その背景には機材の移動だけでなく、乗員、乗客、資材、整備など多くのロジスティクスが立体的に積み上がって成立するのが航空です。不確実な運航環境に大きく影響を受ける移動手段の、その絡み合った複雑さを如何に紐解けるか、これまでは人的でしか対応できなかった要素を如何に効率化させるか、私たちは新しい技術を大胆に適用していくことで、この難しい航空脱炭素の問題解決に運航効率化の側面で取り組みます。この業界特性の強い領域において、BtoBのSaaSで多くの経験を有するDNX Ventures様の支援をいただけることは、チーム・事業の成長を加速させる鍵となると確信しております。
ーー代表取締役兼CEO 田中 辰治

最後に

CEOの田中さんを中心とした、航空分野の専門家が集まった精鋭の経営チームを今回ご支援することできて、大変嬉しく思います。バイオ燃料(SAF)の供給不足が世界的に見込まれる中、運航最適化を通じて脱炭素化に貢献するNABLA Mobilityが求められる社会的役割は大きく、今回調達した資金を活用し、航空業界に革新をもたらすことを期待しております。

(文:白石 由己)


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