知ってる?道路啓開【東北・能登の復旧活動/静岡県の復旧計画】

みなさんこんにちは!土木学会学生小委員会です。
11月と3月に気象予報士学生会との共催で実施したイベント『気象×土木の防災』の報告はもうお読み頂けましたか?

まだの方は、ぜひこちらのリンクからご覧ください!

今回のイベントに関する開催概要・開催報告に関してはこちらをご覧ください!

今回は、第2回のイベントで静岡県庁にお聞きしたお話から、道路啓開について紹介したいと思います。



1.道路啓開とは?

この道路啓開という言葉、2024年に聞く機会が増えた方は多いのではないでしょうか。1月1日に発生した能登地震の発生直後に、輸送路の確保などの議論で話題になりました。

道路啓開の説明文を引用します。

緊急車両等の通行のため、早急に最低限の瓦礫処理を行い、簡易な段差修正等により救援ルートを開けることをいいます。
大規模災害では、応急復旧を実施する前に救援ルートを確保する道路啓開が必要です。

(引用)国土交通省中部地方整備局沼津河川国道事務所「中部版「くしの歯作戦」」
https://www.cbr.mlit.go.jp/numazu/bousai/kushinoha/
国土交通省「道路啓開」
https://www.mlit.go.jp/road/bosai/measures/index4.html


応急復旧、つまり復旧作業の初期段階に実施する、道路のがれき処理等による通行可能なルートの確保のことと理解して良いと思います。

防災、災害復旧に興味がある方であれば知っているかもしれませんが、東日本大震災では「くしの歯作戦」というやり方をもって復旧作業が進められました。

「くしの歯作戦」とは、内陸部を南北に貫く東北自動車道と国道4号から、「くしの歯」のように沿岸部に伸びる何本もの国道を、救命・救援ルート確保に向けて切り開く作戦のこと。
想像を超える巨大津波は、太平洋沿岸の各地に壊滅的な被害をもたらし、がれきや橋の流出で沿岸部の各地を孤立させた。地震発生直後、国土交通省 東北地方整備局の災害対策室には、幹部や職員が続々と集結。
道路関係事務所や出張所と連絡を取り、被害確認と対策立案を急いだ。そして、直ちに、命の道確保に向けてルートを切り開く「くしの歯」作戦を決行した。

(画像出典/引用)国土交通省東北地方整備局震災伝承館「啓開 「くしの歯」作戦」
https://infra-archive311.thr.mlit.go.jp/s-kushinoha.html

東北や能登といった海沿いに集落や街がある地域では、復旧のためには内陸から山道を通っていかねばならず、救援ルートの確保が難しくなります。そのため、東北においては東北道をはじめとした南北方向のルートを確保する、沿岸地域につながる東西方向のルートを確保する、③海岸沿いの道路を複数箇所から復旧していく、といった段階が取られました。


2.中部版「くしの歯作戦」

災害時のシミュレーションをして、事前に復旧の計画を立てることは重要です。特に被災時には、大規模な被害があるにも関わらず情報が共有されないケースなどもありえます。

では静岡県はどうなのかというと、伊豆半島が孤立等のリスクを孕んでいると言えます。
実際にSNS上では、このような投稿も話題になりましたね。

半島ということで地形や集落の位置など似ていることが多そうです。


ということで、3月のイベントの際に静岡県の方に聞いてみました

…すると出てきた計画が、中部版「くしの歯作戦」です(ドンッ!)

(引用)国土交通省中部地方整備局沼津河川国道事務所「静岡県くしの歯ルート図」https://www.cbr.mlit.go.jp/numazu/bousai/kushinoha/pdf/202006_kushinoha_shizuoka.pdf


少しだけですが、資料を見てみましょう。

資料は、
中部地方幹線道路協議会道路管理防災・震災対策検討分科会「中部版「くしの歯作戦」(令和5年5月改訂版)【道路啓開オペレーション計画】」https://www.cbr.mlit.go.jp/road/kanri-bunkakai/pdf/230530_data_01.pdf
から頂戴しています。

中部地方における道路啓開の位置付け(p.8)
中部版「くしの歯作戦」の考え方(p.10)
中部版「くしの歯作戦」のルート選定(p.11)
具体例として、伊豆半島の計画のページです(p.85)


このように、どの拠点を用いるか、どのルートを通るかがかなり細かく定められています。中部地方の方はぜひ身近な地域を見てみてください。

ここで、土木を学んでいる自分たちからすると、「じゃあ、どんな体制で実行するの?」というのが気になるところです。また別の資料を見てみます。

国土交通省 中部地方整備局 静岡国道事務所「講演資料 静岡県中部地域の道路啓開計画について,静岡中部地域の広域受援と道路啓開セミナー(2022.01.19)」
https://www.cbr.mlit.go.jp/shizukoku/torikumi/kikikanri/douro01.html

道路啓開は県をリーダーとして各機関に指示・調整を行っていきます。
てっきり国が主導してやっていくものだと思っていたのでかなり意外だと感じました。災害復旧では県の役割が非常に大きいと言えます。


詳しく知りたい方は、ぜひこちらをみてみてくださいね。

【リンク集】
・中部地方整備局の道路啓開に関する計画一覧はこちら↓
中部地方幹線道路協議会「道路管理防災・震災対策検討分科会」
https://www.cbr.mlit.go.jp/road/kanri-bunkakai/index.htm

・中部版「くしの歯作戦」と防災セミナー等の資料はこちら↓
国土交通省中部地方整備局静岡国道事務所「南海トラフ巨大地震への備え」
https://www.cbr.mlit.go.jp/shizukoku/torikumi/kikikanri/douro01.html


3.伊豆半島における道路啓開

静岡県で想定される災害といえば、南海トラフ地震ですね。
南海トラフ地震が発生した際、県内で最も道路啓開が難しいと考えられるエリアの一つは伊豆半島かもしれません。

この地域に行ったことがある方であれば気付くかもしれませんが、伊豆半島は急峻な山々が多く、道路の災害対策も十分進んでいるとは言い切れないと思います。ということは、道路啓開作業に時間がかかる可能性があります。
沢山の温泉地や景勝地を抱え、人気の観光スポットとなっている伊豆半島ですが、防災面で言えば厳しい現実が突きつけられているかもしれません。

静岡県東部地域道路啓開検討会「静岡県東部地域における道路啓開基本方針」p.13
https://www.cbr.mlit.go.jp/numazu/bousai/kushinoha/

そんな地域ではありますが、実際の計画を見てみると、静岡県の東西方向の移動確保とほぼ同じ優先度で戸田や土肥、松崎などの西伊豆の各地域で道路啓開を始めることがわかります(STEP1と赤字で書かれています)。

西伊豆エリアでは北側からの道路啓開に時間がかかることに加え、津波の襲来により甚大な被害を受けることが想定されることから、北側からの救援を待つのではなく、各地域や伊豆半島南部の拠点である下田からの救援が早期に計画されていますね(STEP2と青字で東西方向に伸びる矢印があります)。

静岡県東部地域道路啓開検討会「静岡県東部地域における道路啓開基本方針」p.27
https://www.cbr.mlit.go.jp/numazu/bousai/kushinoha/

しかし、西伊豆各地域の力だけで道路啓開することは困難であると考えられるため、空路・航路を活用した啓開を合わせて支援していくことも検討しています。西伊豆は土肥港~清水港(静岡市)を約1時間で結ぶ駿河湾フェリーが運航されているなど海上交通の利便性が比較的高いエリアであるため、道路ではなく航路によって支援を受ける可能性が高いと個人的には考えています。

ちなみに海上・港湾にある瓦礫等を撤去して、港に船が入れるようにする「航路啓開」もあります。こちらも全国各地で検討が進められています。


4.まとめ

今回は静岡県で計画が策定されている道路啓開を中心に紹介しました。
東名高速道路などの高規格道路が東西方向に(しかも、あまり沿岸部から距離が遠くなく)整備されているからこそ活きる計画なようにも思えます。

まだまだ静岡県に関する記事を出していくので、ご期待ください!