【病態から鑑別】失神と意識障害【循環器内科医による意識障害の考え方】

失神と意識障害がごっちゃになっている人がいます.

先日も外来で相談があったのは,「房室ブロックで当科受診歴がある人で,意識障害で救急要請されました」

この時,私が思ったこと

「房室ブロックの情報は,ほぼ意味をなしていないな」

です.

ひらたく言うと

意識障害は,循環器疾患が関与しないことが多い

ということ.

でも,なんとなくごっちゃになっているのは,失神と意識障害の病態が混ざっちゃってるからです.

しかし,失神と意識障害,この2つの病態は,根本的に全く異なります.

今回はそこを解説していき,実際の対応のスタンスを考えます.

 

1.失神と意識障害の違い:経時的な推移

失神は,一過性の意識障害,とされる現象です.

逆に言えば,(”失神”ではなく)”意識障害”といった場合は,遷延する意識障害をさすものです.(便宜的に)

すぐに意識が戻ったのであれば,それは”失神”と表現するはずです.

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意識レベルと時間経過をグラフで表すとこんな感じ.

極端な話,”失神後の患者さん”というのは,目の前の状態だけ切りとれば健常人と同じ(意識清明)です.

 

2.失神はなぜ循環器疾患とされるのか:意識障害との比較

失神の病態としては,

両側大脳への血流の,35%以上低下 or 5-10秒以上の途脱

とされます.

つまり,血流トラブルです.脳血流のトラブルです.

だから,循環器疾患として扱われる機会が多くなります

 

一方で,意識障害の原因は何か?

意識障害の病態は

①大脳皮質の広範な障害(通常両側性)
or/and
②上行性網様体賦活系の障害

です.

難しいことは覚えなくていいです.

要は,脳の障害ですよね.

意識障害 = 広範な大脳皮質 or 脳幹 の障害
と考えられるとbetter

この原因が,いわゆる”AIUEO TIPS”と呼ばれる,意識障害の鑑別なんです.

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失神の鑑別と全然違いますよね.

というか,心疾患の関与する病態は多くないので,循環器疾患として扱われるいことは少ないんです.

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【[+α]TIA(一過性脳虚血発作)の扱い】
この失神と意識障害の話を聞いて,「TIAはどう考えるの?」という疑問が生まれると思います.
実際に,文献によっては,TIAを「脳血管性失神」として失神に含めていることもあります.

ただし,TIAと定義するからには,めまいやマヒといった神経症状を伴うものです.
症候としての本質は,神経症状なので,私個人としてはあまり鑑別として列挙しません.(疾患定義上,迷うことが少ない

さらに,内頚動脈のような前方循環のTIAでは,通常,意識消失は来たしません.
理論歴には,めちゃくちゃ広範な脳虚血でない限り,前方循環のTIAでは意識消失はしないからです.

つまり,失神の鑑別としてあげられるTIAは,椎骨動脈領域などの後方循環のTIAのみになります.
後方循環は脳幹の血流をつかさどるため,虚血範囲が広範でなくとも,意識消失を来たすことがあるんです.

何が言いたいかというと
TIAの本質は「一過性の神経症状」なんです.

TIAの中で,「失神を伴うTIAの場合,後方循環のTIAを考える」
という思考回路が,病態に即した考え方でしょう.

 

3.失神の鑑別疾患を考えると,循環器的対応が優先

失神が脳血流のトラブルだからといって,必ずしも循環器的対応からしなくてもいいような気もしませんか?

でも理由があります.

失神は,一過性の脳血流障害です.

一過性の脳血流の障害を起こす原因のなかで,心血管性の血流トラブル(失神)は,致命的な病態が多いんです.

だから,見逃すわけにはいかないし,対応初期にルールアウトすべきなんです.

 

失神の鑑別とされる病態としては,①心血管性,②起立性,③神経調節性(最多),④薬剤性,があります.

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3ーi)心血管性失神:1年後死亡率20-30%

失神全体に占める頻度としては,10-30%程度とされます.

頻度としては最多の原因にはなりませんが,重要な情報として,(原因を放っておくと)1年後死亡率20-30%とされるんこと.

原因を見逃すと,1年以内に2-3割の人が死んじゃうんです.

見逃すわけにはいきませんよね?

この中で大別すると,不整脈,器質性心疾患,大血管疾患に分けられます.

重要な,検査は,心電図心エコー,場合によって造影CTですね.

なんとなくの鑑別イメージは,上のイラストイメージを参照のこと.

詳細な鑑別の仕方は,別途調べてみてください.

3-ii)起立性失神

失神全体に占める頻度としては,2-20%程度とされます.

この鑑別は,病歴がほとんどですよね.

起立などの体位変換後,数分以内の短い時間で失神していると,疑わしいです.(時間が経ってからの失神なら,神経調節性失神の方が疑わしい.)

診断補助として,以下のことを随伴していると,可能性が高くなります.

i)出血・貧血・脱水
起立性失神の誘因3本柱.
ii)自律神経反射の失調を来たしやすい背景
糖尿病,パーキンソン症候群,α遮断薬など

(心血管性失神を否定した後なら)簡易Tilt試験を行ってみてもいいでしょう.

【簡易Tilt test】
臥位⇒座位1分後に血圧と脈拍測定
陽性: SBP低下>20mmHg  or  HR増加>30bpm

3ーiii)神経調節性失神(最多)

全失神の40-60%を占めるとされ,最多の原因です.

基本は除外診断であり,しっかり鑑別したいときは,(簡易でない)Head-up Tilt試験を施行しましょう.

(≫神経調節性失神における血管迷走神経反射と頸動脈洞症候群の鑑別方法.)

3-iv)薬剤性失神

以下のような薬剤が原因となります.

➀薬剤性の起立性失神
降圧薬(特にα遮断薬),利尿薬,アルコール,睡眠薬,抗不安薬
など
➁薬剤性QT延長(VT)
抗不整脈薬(特にⅠa群),抗精神薬,うつ薬,抗ヒスタミン薬,マクロライド系抗菌薬,ニューキノロン系抗菌薬,アゾール系抗菌薬,芍薬甘草湯
など
➂薬剤性徐脈
β遮断薬,非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬,ジギタリス,イバブラジン
など

個人的には,抗菌薬精神科処方には要注意だと思ってます.

これですべてが網羅しきれてるわけではないので,失神症例の常用薬はすべて,失神の副作用報告がないかググってください.

疑うことが大事です.

 

4.失神後に意識障害が遷延する

失神の対応をすると,たまに

「失神後も意識障害が遷延」

というときがあります.

この場合は,失神の病態以外に,非循環器疾患の合併の可能性を考えねばならなりません.(例:Severe AS + 尿路感染症)

なぜならば,これまで述べてきた通り,失神と意識障害は病態を異(こと)にするからです.

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「脳血流のトラブルが遷延しているだけじゃないの?」

と思った方もいると思います.

ただ,考えてみてください.

”遷延する失神”なんてものは,ほぼ心停止です.

”意識障害”の表現型をとらないことが多いんです.(そんなレベルの話にならない)

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失神のようなレベルではなく,軽微な意識障害が遷延するだけなら,LOS(低拍出症候群)の可能性はあります.

ただ,LOSによる意識障害は,意識障害としては軽度で,かなり微妙な症状が多いので(例:せん妄,JCS1とか),むしろ,見抜けるあなたは循環器対応に手慣れているのでしょう.

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ゆえに,「”一過性の”意識障害」は脳血流のトラブルと,ほぼ断定できるわけです(例外:てんかん発作epilepsy seizure).

 

まとめ

失神と意識障害は,病態が異なります.

合併することもあるので,それぞれの病態に対して,それぞれ原因を考えていきましょう

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例えば,「心疾患だけでは意識障害は説明しがたい」し,「脳疾患だけでは失神は説明しがたい」んです.

ただ,この点に関して,失神ではなく,てんかん発作なら,「一過性の意識障害⇒意識障害遷延」という病態を脳疾患だけで説明できます.

次回は,一過性の意識障害における,失神とてんかん発作の鑑別などを解説します.
(≫続きの記事はこちら

 

今回の話は以上です.本日もお疲れ様でした.







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