【降圧薬なの?利尿薬なの?】サイアザイド系利尿薬【使用場面や使い分けを解説】

※2020/12/17加筆修正

サイアザイド系利尿薬が誕生したのは1957年のことで,利尿薬の代表格で幅を利かせているループ利尿薬より,歴史的には先輩にあたる利尿薬です.

しかし,利尿薬として,ループ利尿薬に代表格の座を奪われています

むしろ,「利尿薬」という呼称がありながら,降圧薬としてのカテゴリーもあります.

そんな,サイアザイド系利尿薬の不思議な特徴を,今回は解説していきます.

■サイアザイド系利尿薬の薬理作用の特徴

➀利尿効果

サイアザイド利尿薬には,その名の通り利尿効果があります.

遠位尿細管Na+-Cl-共輸送体を阻害し,Na+,Cl-の再吸収を抑制します.

これだけ聞くと,”何が他の利尿剤と違うのか”,さっぱりわからないと思います.

例えば,ループ利尿薬は,ヘンレのループに作用するわけですが,ヘンレのループは腎髄質の存在することで,髄質と皮質の浸透圧勾配を利用した尿の濃縮が可能なんです.

これがループ利尿薬の利尿効果がしっかりしている理由です.

一方,遠位尿細管は浸透圧勾配の少ない皮質に存在します.

ゆえに,サイアザイド系利尿薬によるNa利尿効果は,ループ利尿薬に比して弱くなります.

通常の腎尿細管におけるナトリウムの再吸収の割合は,近位尿細管が60-70%,ヘンレのループが20-30%遠位尿細管が5-7%,集合管が1-3%とされることからも,ナトリウム利尿効果がループ利尿薬より弱くなることはうかがい知れます.

(実際は単純な話ではないですが,)常用量同士のループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬では,利尿作用が5倍くらい違う,というイメージでいてください.

+α:サイアザイド利尿薬の利尿効果が弱い理由の補足
遠位尿細管でのナトリウム再吸収を阻害しても,集合管で水は再吸収される.そのため,利尿効果は低くなっている.(≫ループ利尿薬は,髄質の濃度勾配を低減することで,集合管の水の再吸収を抑制している.)
このことは,(サイアザイド利尿薬がループ利尿薬に比して)低ナトリウム血症を起こしやすいことにもつながる.

➁末梢血管抵抗低下効果(血管拡張作用)

交感神経刺激に対する末梢血管の感受性を抑制します.

要は,血管拡張作用です.

原因としては,血管平滑筋細胞内のナトリウムやカル シウムの減少が関与していると考えられています.

この作用と,利尿効果による循環血漿量減少作用が相まって降圧効果を発揮します.

ゆえに,降圧薬にカテゴライズされるわけですね.

 

■利尿薬としての立ち位置

「よし,Over volumeを解除しよう!」

といって,サイアザイドをわざわざ第一選択の利尿薬にすることはないでしょう.

なぜなら,前述したとおり,利尿作用が弱いから(➀)です.

加えて,サイアザイド系利尿薬は,比較的低用量で利尿効果が最大となってしまうという特徴があります.
つまり,利尿作用に関して,増加しても効果が上がらない(➁)ということですね.

一方で,ループ利尿薬は,用量依存性に利尿効果を強める薬剤です.

さらにさらに,ループ利尿薬は,腎機能が低下しても利尿効果が発揮できるのに比して,サイアザイド系利尿薬はGFR<20でほぼ無効です.利尿効果に腎機能の縛りがあるということです(➂).

➀利尿作用が弱い
➁増加しても効果が上がらない
➂腎機能の縛りがある

え...

「これじゃあ,利尿薬としての出番とかないんじゃない?」

はい.

正直言って,確かに利尿薬としての出番は確かに少ないです.

しかし,ループ利尿薬の長期投与症例では,遠位尿細管でのNa再吸収が亢進して利尿効果が減弱することがあります.

このような状態では,サイアザイド系利尿薬の追加が,利尿効果のサポートとして有効となります.

ループ利尿薬の耐性症例でのサイアザイド併用効果,といったところでしょうか.

 

■降圧薬としての立ち位置

前項で利尿薬としての立ち位置を解説しましたが,やはり,サイアザイド系利尿薬と言えば,降圧薬なんです.(名前は利尿薬ですけど)

ガイドライン上も,降圧薬として,ACE阻害薬/ARB,Ca拮抗薬と同列の第一選択薬となっています.

しかし,

第一選択にも関わらず,副作用の多さなどから敬遠されがち

です.

そんなサイアザイド系利尿薬ですが,降圧薬としてのエビデンスはしっかりあります.

Comprehensive comparative effectiveness and safety of first-line antihypertensive drug classes: a systematic, multinational, large-scale analysis. (Lancet. 2019 Oct 24.)
併存疾患のない高血圧の第一選択として,サイアザイド系利尿薬は,他剤(Ca拮抗薬,ACE阻害薬,ARB)と比較して心血管系イベント(急性心筋梗塞,脳梗塞,心不全)が優位に少なかったという結論.


このような報告はいくつかあるのでり,高血圧治療薬としては軽視できません.

➀降圧薬としての欠点

単剤での降圧作用の切れ味が悪いのが大きな問題です.

上述したように,血管拡張効果はありますが,Ca拮抗薬などと比べると,作用は弱いわけです.

➁多彩な副作用

副作用は,低K血症高尿酸血症脂質代謝・糖代謝の悪化などがあります.

しかも,この副作用は,用量依存性に増加します.

副作用の懸念から,使用量を抑えた少量サイアザイド系利尿薬の有効性が昔から実証されてきているのですが,そのため降圧効果が不足になりやすくなるわけです.

➂降圧薬としての出番

お話しした通り,「降圧作用は弱い」「用量依存性に副作用増加」という特徴から,基本は(単剤使用ではなく)併用薬剤だと考えています.

他の第一選択薬(ACE阻害薬/ARBとCa拮抗薬)の使用で,降圧効果が不足した時の併用薬として,少量サイアザイド利尿薬の併用を検討することはgoodです.
≫降圧薬多剤併用のポイントはこの記事で解説しています.

また,これ以外にサイアザイド利尿薬を降圧薬として選択する場面として,食塩感受性高血圧,と,浮腫を伴う高血圧,があります.

食塩感受性高血圧は,腎臓からのナトリウム排泄障害があり,食塩の摂取量の影響を大きく受ける高血圧です.

食塩感受性高血圧は,比較的低レニン活性となることが知られています.

レニン活性が低いということは,腎血流は正常~過多の状況です.

以上のことから,食塩感受性高血圧は「ナトリウム排泄障害があって」「腎血流は保たれている」という高血圧であり,サイアザイド利尿薬が,安全かつ有効に作用する病態とされます.

画像1

Antihypertensive Mechanism of Diuretics Based on Pressure-Natriuresis Relationship. (Hypertension. 1996 Apr;27(4):914-8. )
では,サイアザイド系利尿薬のメフルシドが,上のグラフのように,白丸(○)→黒丸(●)へと,食塩感受性を改善させていることが示されている.

また,浮腫を伴う高血圧は,上述したような食塩感受性高血圧であることが少なくありません
そうでないとしても,高血圧+体液貯留であるならば,サイアザイド利尿薬が有効に作用する可能性は大いにあるので,浮腫を伴う高血圧はサイアザイド利尿薬がいい適応と言えます.

■参考:食塩感受性高血圧を疑うポイント
➀ACE阻害薬/ARBがあまり効かない
➁低レニン活性(採血結果)
➂患者さんの性格上,塩分制限を守れなそう
➃比較的若年で動脈硬化リスクが高くない

≫食塩感受性高血圧についてはこちらで詳しく解説しています

【余談】高齢者にサイアザイド系利尿薬を使用すること
遠位尿細管は,ナトリウムを再吸収しつつ,水の透過性が低いので,尿の希釈を行います.
高齢者では,ADH作用に拮抗するプロスタグランジンの産生抑制が起こり,尿の希釈能が低下しているとされます.
すると,ただでさえ尿希釈能が低下しているところに,サイアザイド系利尿薬を使用すると,遠位尿細管の機能が抑制され脱水 or/and 低ナトリウム血症を起こしやすい環境と言えます.

感覚的にも,高齢者には使用しづらいとは思いますが,サイアザイド系利尿薬の高齢者への使用は慎重にしましょう.


■副作用や使用上の注意点

➀副作用の用量依存性

前述しましが,サイアザイド利尿薬の副作用には,低K血症,高尿酸血症,脂質代謝・糖代謝の悪化などがあります.

この副作用は,用量依存性に増加します.

降圧効果も利尿効果も,増量による効果が乏しいとされ,一方で,副作用は増量によって明確に増えるため,”サイアザイド利尿薬の使用は少量に留めるべき”とされるわけです.

よって,降圧目的・利尿目的,いずれの観点からも,サイアザイド利尿薬は少量からの開始が推奨され,増量は副作用に注意しながら慎重に行うべきです.

➁腎機能障害症例におけるサイアザイドの使用

高度腎機能障害(GFR<30)では,腎血流維持のためのフィードバックをつぶしてしまう事態になりうるので,できるだけ使用を控えた方がいいでしょう.

そもそも,GFR<30では,糸球体濾過されるナトリウムが既に少なく,サイアザイド系利尿薬は(利尿薬として)ほとんど無効とされます.
”百害あって一利なし”になる可能性があるので要注意です.

➂サイアザイドと高カルシウム血症

また,サイアザイド利尿薬は,他の利尿剤とことなり,血清Ca濃度が上昇します.(他の利尿薬では血清Ca濃度は下がる)

サイアザイド利尿薬の使用で遠位尿細管でナトリウム再吸収抑制されますが,その一方で,遠位尿細管細胞の基底膜側のNa+Ca2+逆輸送体が活性化され,Ca2+が組織間質や血液へ移行します.

結果,遠位尿細管細胞の管腔側膜にあるCa2+チャネルを介して流入するCa2+が増加し,Ca2+再吸収が促進されるため,高カルシウム血症を呈することがあります,

注意しましょう.

 

■まとめ

利尿剤として立ち位置は.長期ループ利尿薬使用によるの耐性症例で,サイアザイド利尿薬の併用効果,です.

降圧薬としては,食塩感受性高血圧や,浮腫を伴う高血圧.で有効とされます.

その他,降圧薬としては,ACE阻害薬/ARB,Ca拮抗薬で降圧が足りない時の,併用薬として使用しましょう.

いずれの場合も,少量での使用開始が推奨され,増量する場合は副作用(低K血症,高尿酸血症,脂質代謝・糖代謝の悪化,腎機能増悪)に留意しながら,慎重に行ってください.

 

今回は以上です

本日もお疲れ様でした.

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