利尿薬の副作用を比較【血圧は?腎機能は?電解質は?】

利尿薬を使用するときに,副作用を気にすることは少なくないですよね.

利尿薬であれば脱水は共通の懸念事項になりますし,カリウムなどの電解質異常,腎機能の悪化など留意すべき点は多数あります.

すると,いろいろな副作用がありすぎて,なにを気にしたらいいのか,頭の中がゴッチャになることありませんか?

今回は,利尿薬の副作用を整理するとともに,「この利尿薬ではこの副作用にとくに注意」「この利尿薬なら,○○のリスクが低いから使いやすい」など,副作用によって利尿薬間での注意すべき度合いの順列化してみます.

1.利尿薬の副作用とは?

利尿薬の副作用はいろいろありますが,大きく分けて「利尿効果による副作用」と,「利尿効果と関係ない副作用」があります.

利尿効果による副作用は,さらに「電解質や酸塩基平衡に関する副作用」「循環動態に関する副作用」に分けます.

利尿効果と関係ない副作用は忘れやすいですよね.
ここに関しては,リストアップしておくことに大きな意義があると考えます.

それでは見ていきましょう.

なお,炭酸脱水酵素阻害薬は,体液貯留解除を目的に使用することは少ないので,比較から省きます.


2.【いつも気になる】電解質,酸塩基平衡の異常

利尿薬の副作用といえば,電解質異常・酸塩基平衡異常でしょう.

■低K血症・高K血症

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利尿薬,特にナトリウム利尿薬は,基本的に低K血症を来たすと考えます.

■利尿薬で低K血症+アルカローシスになる理由
ナトリウム利尿薬は,基本的に低K血症+アルカローシスとなります.
それは
Na再吸収抑制で皮質集合管に到達するNa量⇧
上皮型ナトリウムチャネルENaCからNa+再吸収⇧
⇒尿細管腔側が負に帯電
細胞内のK+やH+の管腔側への分泌⇧
という具合に,生じる現象です.

そのなかで,ミネラルコルチコイド拮抗薬(MRA)が特殊なナトリウム利尿薬である認識をもちます.
MRAは,「K保持性利尿薬」という別名があるとおり,Kの再吸収を亢進させる方向性があり,むしろ高K血症が問題になることがある利尿薬ですよね.

カルペリチドは,ナトリウム利尿薬に分類はされますが,ANPの作用の一環で抗アルドステロン作用があります.
つまり,MRAみたいな作用が混ざっているので,他の利尿薬に比して低K血症は来たしにくくなります

トルバプタンは,水利尿薬であり,電解質への影響は少ないです.

ループ利尿薬とサイアザイドは,同様にKを低下させる方向にはたらきますが,利尿作用が強いことからループ利尿薬が低K血症リスク最大と考えます.

実際,高K血症の治療として,ループ利尿薬を使用することもあります.

■低Na血症・高Na血症

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この議論は難しいです.

その理由として,血清ナトリウム値は,体液量に大きく左右されるからです.
(≫血清ナトリウム値異常の考え方についての記事はこちら

よってこの順列は,あくまでも傾向にすぎないものとして考えてください.

トルバプタンは,水利尿薬です.
ゆえに,他の利尿薬と異なり,相対的な水欠乏,すなわち高Na血症を来たしやすい薬剤です.

ループ利尿薬は,腎髄質の濃度勾配を低減させることで水利尿作用があります.
ゆえに,サイアゾイドに比して低Na血症を起こしにくいです.

カルペリチドも,腎髄質血流の増加作用や,ADHへの拮抗作用があり,水利尿作用をあわせ持つため,ループ利尿薬と同列です.
(≫カルペリチドの作用についての記事はこちら

MRAとサイアザイドの順列は,尿細管でのナトリウム再吸収の割合で考えています.

サイアゾイドが作用する遠位尿細管は,尿細管全体の5-7%であるのに対して,MRAが作用する皮質集合管は1-3%

よって,低Na血症をもっとも起こしやすい利尿薬はサイアゾイド系利尿薬と考えており,実際に「塩出し」の薬のようなポジションです.
(≫サイアゾイドの特徴についての記事はこちら

代謝性アルカローシス

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一般的に,利尿薬は代謝性アルカローシスを起こしやすいと考えましょう.

(低K血症,高K血症の項で)上述した通り,ナトリウム利尿薬は基本的に代謝産アルカローシスとなります.

MRAが特殊で,アシドーシスの傾向になります.
ただ,酸塩基平衡に及ぼす作用自体がそこまで大きく無いため,相当過剰に使用しなければ,アシデミアになることはあまり多くありません

上述しましたが,カルペリチドにはMRAのような作用があるため,他の利尿薬よりアルカローシスのリスクは高くありません

全体的に「低K血症,高K血症」の項と同じ傾向です.

ループ利尿薬は,強い利尿作用とも相まって,代謝性アルカローシスのリスクがとても高い利尿薬です.
その裏返しとして,ループ利尿薬の禁忌に,「肝性脳症(添付文書状の表記は"肝性昏睡")」があります
これは,アルカレミアが肝性脳症を悪化させるためです.

アルカレミアでは,NH4から NH3への変化が促進され,NH3の脳内への移行が起こるとされます.これらは,肝性脳症のリスクとなります.


低Ca血症・高Ca血症

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基本的に,ナトリウム利尿薬は(大なり小なり)低Ca血症をきたすと考えます.

尿細管内の流量増加によってカルシウムの再吸収が低下するためです.

また,特にループ利尿薬は低Ca血症のリスクが高くなります

ヘンレのループ太い上行脚は,カルシウム(とマグネシウムなど)の再吸収を行っています.
この原動力は,間質側と尿細管腔側の電位差なんですが,ループ利尿薬がNa-K-2Cl共輸送体を阻害すると,この電位差が小さくなって,カルシウム(やマグネシウム)の再吸収が減ります.
これが,ループ利尿薬で,低Ca血症と低Mg血症のリスクが高い理由です.

サイアゾイドは,遠位尿細管でのNa-Ca交換が抑制されるため,Ca保持性にはたらきます.(Ca保持性利尿薬とは呼ばれませんけど)
ゆえに,利尿薬としては珍しく高Ca血症を起こし,ユニークです.

トルバプタンは,例によって電解質への影響は少ないと考えます.


低Mg血症,水溶性ビタミン欠乏症

比較したStudyなどがあるかは知りませんが,利尿作用の強い薬剤ほど欠乏しやすいイメージでとらえます.

ゆえに,ループ利尿薬でリスクが高いです.

トルバプタンは,尿細管に作用せず,電解質への影響は少ないと思っているため,低Mg血症は起きづらいのかな?
一方で,水溶性ビタミン欠乏は起きうるのではないでしょうか?

この点に関しては,個人的な推測の範疇を越えません.

高尿酸血症

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ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬の副作用として,高尿酸血症は有名です.

この機序は

腎血流の低下⇒RAA系賦活化⇒尿酸再吸収亢進 + 尿への尿酸分泌の阻害

と考えられています.

前者は,単純に利尿作用の裏返しとしての高尿酸血症リスクになります.

【尿酸再吸収トランスポーターURAT1と高尿酸血症】
近位尿細管に存在するURAT1は,有機アニオン(グルコースやアミノ酸など),乳酸,ニコチン酸と交換で尿酸を再吸収します.

利尿薬使用によって腎血流が低下すると,RAA系が賦活化します.
すると,ナトリウムの再吸収亢進につられて,有機アニオンが再吸収されます.
この有機アニオンを体内に蓄積させないように,URAT1は尿酸再吸収を増加させることで,有機アニオンを排泄させようとします.

この機序から,利尿作用が強い方が,高尿酸血症のリスクは高いといえます.

加えて,ループ利尿薬とサイアザイドは,尿への尿酸分泌を阻害する作用を有するため,利尿作用とは別に,高尿酸血症のリスクとなります.

【有機アニオントランスポーター4(NPT4)と高尿酸血症】
尿酸の尿への分泌を調節するトランスポーターとして,近位尿細管のNPT4があります.
ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬は,尿酸と同じく近位尿細管で尿細管管腔に分泌されますが,そのときNPT4による尿酸分泌を競合阻害します.
ゆえに,こららの利尿薬は血清尿酸値を上昇させるリスクが高いんです.

3.【しばしば致命的】循環動態への影響

利尿薬は,循環動態へ影響します.

いわゆる「脱水」も,循環動態への影響としての利尿薬の副作用です.

循環動態に関する副作用はしばしば致命的であり,しっかりおさえておくべき副作用ですよね.

血圧低下

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利尿薬全体にある血圧低下リスクとは,体液量減少による心拍出量の低下です.

トルバプタンは,3rdスペースから血管内に水を引き込むことで,心拍出量の低下を来たしにくいとされるので,血圧低下も引き起こしにくいと考えられます.

(肺性心などの)右心不全のような,血圧低下リスクが高い体液貯留には,トルバプタンを選択することがあります.

カルペリチドとサイアザイドには,体液量減少効果以外にも血管拡張作用があり,血圧が下がりやすい利尿薬です.

というか,これらの薬剤は,血管拡張作用で心臓後負荷をとる目的で使用することも多い薬剤です.

カルペリチドを一応サイアザイドより血圧が下がるポジションにしましたが,用量や状況にもよると思います.

ループ利尿薬とMRAの順序も状況によりますが,ナトリウム貯留を主病態とした高血圧の治療などにMRAを選択することがあるので,MRAをより血圧が下がるポジションにしました.



腎機能増悪

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利尿薬による腎機能増悪とは,腎血流低下によるGFRの低下です.

カルペリチドには輸入細動脈拡張作用があり,GFRを下げにくい薬剤です.

ループ利尿薬は,尿細管糸球体フィードバックを抑制し,GFRを保つ作用があります.

トルバプタンは,直接的にGFRには影響しませんが,3rdスペースの水を血管内に引き込むことで,体液貯留を解除しつつも腎血流を下げにくいとされます.

この3剤の順列に関しては私見を含みます

感覚的にはトルバプタンが最も腎機能に悪さをしない印象ですが,カルペリチドも腎保護的とされます.

この2剤の比較は,経口薬と静注薬という違いから使用場面が少し異なることもあって難しいです.
前述しましたが,トルバプタンの方が血圧低下の副作用が少ないことをプラスポイントとして,勝者としておきます.

ループ利尿薬は,GFRを下げにくいとはいえ,利尿の程度によってはそれなりに腎機能が増悪するので,トルバプタンとカルペリチドよりは下位に位置させました.

実際に,トルバプタンとフロセミドの直接比較で,腎機能への影響が少ないことを示したstudyもあります(ESC Heart Fail. 2016 Sep;3(3):177-188.)

それ以外のサイアザイド系利尿薬とMRAは,腎機能を増悪させることが少なくありません

サイアザイドとMRAの順番に関しては異論認めます(←).

まぁ,状況にもよると思いますが,高用量サイアザイドによる腎機能増悪のリスクに警鐘をならす意味で,サイアザイドを上位にしておきました


4.【忘れないように】利尿効果と関係ない副作用

続いて,利尿作用とは直接結びつかない副作用です.

そもそも忘れやすい副作用なので,まずは一覧として整理することが大事ですね.

脂質代謝,糖代謝の悪化

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この機序として言われているのは,

骨格筋への血流減少+低K血症+RAA系賦活化によるアルドステロン作用亢進
によるインスリン抵抗性の悪化

です.

最も言われるのは,サイアゾイド系利尿薬なんですが,なぜかループ利尿薬はサイアゾイドほど警鐘が鳴らされません.

機序を考えれば,ループ利尿薬もリスクが高そうですが,なぜなんでしょう?(知っている方いたらTwitter でDMください←)

ミネラルコルチコイド拮抗薬は,低K血症予防+アルドステロン作用に拮抗することから,インスリン抵抗性を悪化させるどころか,改善させる可能性も検討されるくらいです.

カルペリチドには抗アルドステロン作用があるので,ループ利尿薬やサイアザイドよりリスクは低いでしょう.

トルバプタンは,骨格筋血流の減少やRAA系の賦活化が起きにくいため,ループ利尿薬やサイアザイドよりリスクは低いでしょう.

聴覚障害

ループ利尿薬では,聴覚障害の副作用報告があります.

頻度に関しては,添付文書上も「頻度不明」となっており,私や私の同僚でも経験した人はいませんでした.

少なくとも起こりやすい副作用ではないようです.

大量使用でリスクが高いようです.

機序としては,外有毛細胞の細胞膜のATPアーゼをループ利尿薬が障害し,ナトリウムと水が細胞内に流入することで,外有毛細胞が膨隆するためと考えられています.

ループ利尿薬による聴覚障害は投与を中止するとほとんどが正常に回復する可逆的)とされています.

他の利尿薬では同様の聴覚障害の副作用報告はなかったため,ループ利尿薬特有の副作用といえます.

女性化乳房,多毛症,月経異常

女性化乳房,多毛症,月経異常は,MRA,とくにスピロノラクトンで問題となる副作用です.

女性化乳房の頻度は3‐9%程度と報告があり,心不全診療を行っているとときどきは見かけます.

MRAは,ミネラルコルチコイド(アルドステロン)に拮抗するのが作用機序ですが,アンドロゲンにも拮抗してしまいます

アンドロゲンは男性ホルモンです.
その作用が拮抗されることで,女性化乳房などを来たすわけですね.

中止により可逆的な副作用です.

MRAでも,エプレレノン(セララ®)やエサキセレノン(ミネブロ®)は,ミネラルコルチコイドの選択性が高く,アンドロゲンには影響を及ぼしにくいことから,これらの副作用リスクは激減します.

実際,スピロノラクトンで女性化乳房をきたした症例は,たいていエプレレノンに変更して改善します.
エプレレノンやエセキセレノンで,女性化乳房などの副作用はほぼ起きないとされています.

「それなら,全部エプレレノンとかエセキセレノンでよくね?」

と思うかもしれませんが,エプレレノンは,薬価が高く(スピロノラクトンの約4倍)禁忌が多いです.

【エプレレノンの禁忌】
高カリウム血症,GFR<45,微量アルブミン尿を含む蛋白尿をみとめる糖尿病患者,K保持性利尿薬との併用.カリウム製剤の併用.など

エセキセレノンは,薬価がさらに高く(スピロノラクトンの約8倍),禁忌はエプレレノンより緩和されましたが,心不全への適応がなく,高血圧症のみが適応症です.

実際,心不全治療におけるはエビデンスでは,(新しい薬ということもありますが)スピロノラクトンとエプレレノンに劣ります

MRA以外の利尿薬で,女性化乳房,多毛症,月経異常を気にする必要はありません.


まとめ

ということで,利尿薬の副作用をまとめるとこんな感じです.

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こういう風にまとめておけば,まず,副作用を見逃すことは少なくなるかな,と思います.

リスクの順列に関して,多少の前後は気にしないでください.

それぞれの副作用リスクの順列に関しては,リスクが低い薬剤なのか,リスクが高い薬剤なのか,の二極化だけはさせておいた方がいいです.
(例.MRAは低K血症のリスクは低く,むしろ高K血症のリスク.サイアザイドは,腎機能低下や血圧低下のリスクは高いが,低Ca血症のリスクは低い.など.)

次に,利尿薬ごとに,GFRや電解質への影響をまとめた表はこちら.

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先ほどのリストが失念防止や直感的な理解とするらば,こちらはより本質的な理解につながります.

患者さんの状態理解や病態把握,電解質管理をふまえた薬剤選択などをゆっくり考えるうえでは,大事になってくるかと思います.

以下に解説コメントもつけておきます.

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今回の記事は以上です.

本日もおつかれさまでした!

※参考
Am J Med Sci.2000 Jan;319(1):10-24.

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