代謝性アシデミアに対してメイロン®を使用することの意義【全くエビデンスはないのか?】

私は,メイロン®が比較的好きです.

「メイロンとかエビデンスないだろ」と言われがちな,メイロン®ですが,害を理解した上で,使うにたる目的があればちゃんとあればいいかな,と思ってます.

今回は,代謝性アシドーシスにメイロン®使用することの意味を考えます.

 

■前置き:メイロン®の良好なエビデンス

メイロン®にも良好なエビデンスはあります.

それは以下の2つ.

➀高Cl型(AG正常型)アシドーシス,pH<7.2 

➁メタノール・エタノール中毒(AG上昇型アシドーシス)

この2つの病態では,エビデンスが後押ししてくれるので,どうぞ使用を検討していきましょう.

今回の記事の本題はこれ以外の時,どうするか

 

■本題:メイロン®によるアシデミア補正の目的と異論

では,つまるところ,前述した病態以外のアシデミアにはメイロン®は意味がないのか?

そもそも,アシデミアを補正する,という目的だけでメイロン®を使用するのはダメなのか?

①重度アシデミアでは不整脈や心筋収縮力の抑制がある?

心筋活動電位の低下や収縮力低下が起こると言われています.
批判的意見

他の因子の除外が困難ではっきりしない.
感想
確かに,acidemiaが強いような重症症例は,不整脈や心機能低下が多いように感じます.
しかし,やはり色んな因子の混在が多い気がします.例えば,低Mg血症やビタミンB1欠乏・セレン欠乏はなどは,結構見逃されているかも?

➁重度アシデミアではカテコラミンへの反応性が低下する?

β受容体減少やcyclic AMPの減少が起き,カテコラミンへの反応性が低下するとされます.
批判的意見
小規模trialでは有意差なかったとするものがある.
感想
私の臨床の感覚では,明確に差があると思っています.
カテコラミンの使用を検討するような状態では,循環不全があるはずです.
メイロン®のデメリットの1つは,過剰なNa負荷ですが,循環不全でNaが負荷されることは,功を奏することもあるので,カテコラミン不応例でメイロン®を試してみる価値は,十分あると思います.

➂重度アシデミアでは細胞の機能が低下する?

細胞のアシデミアは,代謝や膜輸送などの細胞機能障害を引き起こすとされており,その点で補正にメリットがあるのでは?という考え.
批判的意見
細胞内pHを動脈血pHが反映するという根拠なし.
感想
これは...あまりにも基礎医学的な話であり,どちらに転んだとしても臨床的なアウトプットがどうなるか次第.推測の範疇を越えないので,現状,臨床では気にしなくていいと思います.

まとめと感想

➂はとりあえず無視してます.

➁の効果は信じてます.アシデミアのカテコラミン不応例には,是非メイロン®を試してみてください

➀は,あったらいいな,というイメージ.絶対にやってはいけないのは,「この心機能の低下や不整脈は,アシデミアが悪さしているんだ!」と決めつけること.その考えに根拠はありません.他の原因を十分に検索すべきです.

 

■メイロン®使用時のリスク・注意点

‣過剰なナトリウム負荷
メイロン®には,ナトリウムが1mEq/mLも含まれています.これは,同量の生理食塩水の6倍以上.例えば,メイロン®を250ml滴下しきると,生理食塩水1500ml入れた時以上にナトリウムが負荷されることになります.

‣血清カルシウムイオンの低下
不整脈の温床になったりするので要注意.

・その他
急速補正することで,ヘモグロビンの酸素親和性上昇し,組織低酸素になる,という意見があります.

■メイロン®のエビデンスを1つ紹介

Sodium bicarbonate therapy for patients with severe metabolic acidaemia in the intensive care unit (BICAR-ICU): a multicenter, open-label, randomized controlled, phase 3 trial. (Lancet 392: 31–40, 7 July 2018)

メイロン®による代謝性アシデミア補正の世界初の大規模trialとされます.

では,見ていきます.

【back ground】

・重症患者ではしばしば急性のアシデミアを認める.(14-42%とする報告もあり)
・pH≦7.20のアシデミアが遷延することが死亡率を57%上昇させるという報告もある.
・重度の代謝性アシデミア患者に対する重炭酸ナトリウム投与は治療の選択肢に上がりますが,今日までにその臨床転帰を調査した研究は存在せず,議論の余地が残っていた.

■重炭酸ナトリウム投与への否定的な意見
 -過去の生理学研究において,心血管系への作用が否定された.
 -潜在的な副作用(細胞内の酸性化,アルカレミア)の懸念.
■重炭酸ナトリウム投与への期待
 -心血管系や酸素運搬にアシデミアが及ぼす有害作用の軽減.
 -早期の腎代替療法(RRT)の回避などができる可能性.


【Methods】

・フランスの26施設のICUで,下記に示すような患者を現場の医師の判断で登録.
・pH≦7.20,PaCO2≦45,HCO3≦20の重度の代謝性アシデミア患者が対象
 ※重炭酸ナトリウムの有効性が示されている消化管や尿への重炭酸ナトリウム喪失は除外.
・pH≧7.30になるように4.2%重炭酸ナトリウム静注,投与速度は125〜250mL/30分の範囲内.

【Results】

結果①28日生存
重炭酸ナトリウム群で高い傾向にあったが有意ではなかった(P=0.09).
結果②AKI患者における28日生存
有意に重炭酸ナトリウム群で改善(P=0.03).
結果③腎代替療法の導入
有意に重炭酸ナトリウム群で減少(P=0.0009).
 ※対照群での主なRRT導入理由は,高Kとアシデミアであった
 ※重炭酸ナトリウム群での主なRRT導入理由は,Cr上昇とUN上昇であった
結果④昇圧薬のfree days
重炭酸ナトリウム群で改善傾向だったが有意差はなかった(P=0.1).
結果⑤AKI患者における昇圧薬のfree days
有意に重炭酸ナトリウム群で改善傾向(P=0.022)
その他
重炭酸塩群では,代謝性アルカレミア、高ナトリウム、低カルシウムが対照群よりも有意に多かった.しかし,生命を脅かす合併症は報告されていない.

■この結果を受けた,メイロン®使用に関する私の考え

・とりあえず,AKIのpH<7.20にはメイロン®使用してみていい,と思われます.28日生存が改選しているんですから.ただし,前述したナトリウム負荷には十分注意が必要です.

高カリウムやアシデミアによるRRT導入も避けることができる,ということなので,侵襲性の観点などからRRTを避けたいような症例では,早期のメイロン®を検討してもいいかもしれません.

・副作用の中の電解質異常で,低カルシウム血症は,やはり十分に注意すべきです.


■記事の総まとめ

アシドーシスに対するメイロン®の使用は

‣高Cl型(AG正常型)アシドーシス,pH<7.2 はエビデンスあり
‣メタノール・エタノール中毒(AG上昇型アシドーシス)はエビデンスあり
‣カテコラミン不応例では前向きに使用を検討
AKIのpH<7.20では28日生存を改善した報告があるので,使用を検討

ただし,注意すべき副作用として

‣過剰なナトリウム負荷
‣血清カルシウムイオンの低下

には十分注意.


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