第2回② 坂本壮先生
救急の若手医師・研修医教育といえば有名な坂本先生。自分を「松坂世代の男」と紹介されました。
順天堂大学卒業後、順天堂練馬病院が初期臨床研修医を初めて置いた世代の研修医であり、そこから救急・集中治療・地域医療に尽力し、今は生まれ故郷でもある千葉の銚子地域、国保旭総合病院の救急科で現場業務と教育を担われています。
なぜ坂本先生が「研修医教育」にフォーカスしたのか。その理由・想いについて語ってくださいました。
もし、あなたの目の前で「人が倒れた」らどうするでしょうか。
医療者であればこの様な時に何をするか、は当然身についています。しかし完璧にできているかと言われるとそうではありません。時には院内の心停止が、心停止後に発見される事があります。
院外となると、更に状況は難しくなります。まだまだ小中学生が倒れた担任を救命した、というのがニュースになるくらい、一般の方々にとっては「特殊なこと」です。AEDが正しく使われていないシチュエーションも多くあります。
そんな中、坂本先生の専門である救急・ER(Emergency Room)は「あたりまえのことをあたりまえに」のプロであるといいます。
「『人を救う』という医療のほとんどは、決して最新の研究ではなく、至って基本的なこと。だからこそこれができていないと命を救えなくなる。」そう語る坂本先生は、まさにその基本を徹底して指導しています。
医療は高度化し、便利な検査・診断・治療ツールが日々出現しています。アクセスも改善しています。しかし診断エラーはなかなかなくならないのが現状です。検査に異常がないから「怖い病気はないです」と医師は話すものの、患者の主訴や症状は改善できていない、というのも日々見られている光景だと坂本先生は訴えます。
だからこそ、検査の前に、「患者を診る、患者の話を聞く」ということが大事。そしてそれを最も実践的に行う場所が救急・ERであり、その最前線にいるのが「初期臨床研修医」、いわゆる研修医です。
しかし救急・ERでの指導はなかなか体系化されていません。指導医は日替わりで、フィードバックの体制が確立していないことも少なくありません。更に救急・ERは迅速な判断と治療が要求される場所であり、診断エラーも多くなります。
初療にあたる研修医を育てることは、この「当たり前を当たり前にできる」ということの最適解であり、同時に研修医の診療の質が高まれば、救急・ERでの自分の仕事を楽にすることができます。この時間で本を書いたり、院外へ発信したり、他のスタッフの教育や、予防・啓蒙活動に力を入れることができる、それが坂本先生が研修医教育に取り組み続ける理由だといいます。
今、地元である国保旭中央病院で診療にあたる坂本先生。地元の旭に戻った理由を、「将来、自分の家族が倒れたら、運ばれる病院はしっかりしててほしいから」だと語りました。そして研修医の指導においては、「彼らに自分の大切な人を安心して診てもらえるように」を意識しています。
最後に、医学生・若手医師に対して、「成長の3つのポイント -step by step-」としてポイントを示しました。
エラーから学ぼう
自分・他人のエラーは学びのきっかけであり、成功例ではなくエラーから学ぶことが大事
“If”と自問自答を!
例えば「今もしCTがなかったら、どう診断したか?」などと自問自答し、様々なシチュエーションへ対応できる学びをする
“Why”を意識し考察を!
「なぜ今自分はこの行動をしたのか?決定をしたのか?」を考え、その理由と論拠を考え続ける
そして、「医療現場にスーパードクターがいても診療の質は大きく変わらない。みんなが変わることで変わる。」と励ましのメッセージで10分の情熱的な話を締めました。
坂本先生には医学生・若手医師から様々な質問が出ました。
まずは「どうやって診療科目を決めたのか、なぜ救急にしたのか」という質問。
「将来は地元に根付きたいという思いはあった。しかし研修2年間やっているとかっこいい科がある。自分は整形外科に引っ張られそうだったが、研修病院に救急集中治療科・closedICU(要参考)があり、入院から退院までの全てをみていた姿に、『将来の目標に活きる』と思い選んだ」と答えられました。
次に「今後の10年間の目標」についての質問に対しては、「教育は5年地道な事をすると変わると言われており、国保旭中央病院でも、自分が育てたメンバーが指導側になるようになってきた。あと数年は同じ活動を継続し、もっとメンバーが育ってきたらまた次の活動を考えたい」と、まだまだ教育に携わっていく思いを語ってくださいました。
最後に「自分が成長できる環境を見つけ、選ぶには何が大事か?」という自らの進路に掛けた質問が出ました。
これに対し坂本先生は、「ずっと自分のためにやってきて、それが誰かの為になっているという感覚を持っている。初療を担っている初期研修医が成長すれば、自分が楽になる、という感覚だったり、同じ説明を繰り返すなら文字に起こした方が色々な人に届き、更に自分へのFBも届く、という感覚でやってきた。まずは自分の為に色々やってみて、それができる環境が大事」と答えられました。
「地域や人のため」に活動しつつ、「自分の想い」を実現する坂本先生。その背中に感銘を受けた若手も多かった講演だったと思います。
取材・文:平野翔大(産業医/産婦人科医/医療ライター)
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