見出し画像

第4回⑤ 辻裕介先生

「医師100人カイギ」について

【毎月第2土曜日 20時~開催中!】(一部第3土曜日に開催)
「様々な場所で活動する、医師の『想い』を伝える」をテーマに、医師100人のトーク・ディスカッションを通じ、「これからの医師キャリア」を考える継続イベント。
本連載では登壇者の「想い」「活動」を、医学生などがインタビューし、伝えていきます。是非イベントの参加もお待ちしております!
申込みはこちら:https://100ninkaigi.com/area/doctor

発起人:やまと診療所武蔵小杉 木村一貴
記事編集責任者:産業医/産婦人科医/医療ライター 平野翔大

順天堂大学医学部を卒業後、1年もたたずにITスタートアップを起業をされた辻先生。共同創業者の上野彰大さんは、開発責任者であり、医療者とエンジニアの共同創業である点が特徴的だといいます。株式会社YOJO Technologies では、新たに立ち上げた東京・四ツ谷の薬局を拠点として、ITを駆使した様々な形態の医療を提供しています。現在の事業内容と、起業に至るまでの経緯についてお話していただきました。

辻裕介先生
株式会社YOJO Technologies 代表取締役
順天堂大学医学部卒業。医師。学生時代に複数社でインターンとして事業開発を経験。その後MD-PhDプログラムに採択され、順天堂医院にて臨床と研究に従事。2018年12月起業。「患者満足度世界一の医療機関になる」というミッションを実現すべく、LINEで医療相談や漢方をはじめとする医薬品購入・服薬フォローなどを一気通貫で提供するオンライン薬局『YOJO』を提供している。

ミッションは「患者満足度世界一の医療機関を創る」

 辻先生が会社で掲げるミッションは「患者満足度世界一の医療機関を創る」。「患者満足度」をメインに置いたのは、大学病院時代の経験がありました。現代は、エビデンスを重視した医療が主流です。エビデンスに基づいた医療を提供することはもちろん重要ですが、それが必ずしも患者さん個人の幸福につながるとはかぎりません。辻先生は、患者さん個人の主観的な幸福に徹底的にフォーカスした医療を提供したい、と強く感じたといいます。
 そして同時に薬局業界は、コロナの影響も相まって規制緩和・オンライン化が急速に進みました。オンライン診療、オンライン服薬指導、リモート薬剤師、電子処方箋、リフィル処方箋・・・しかし、実際には薬局業界でのIT活用はまだまだ進んでいません。このギャップに対して、辻先生は様々なプロジェクトを立ち上げてきました。
 例えば、LINEを利用した医療相談及び漢方・サプリ等を購入できるサブスク型サービスでは、不定愁訴で悩む女性を対象に、LINEを通じて薬剤師が徹底的に患者さんの症状や気持ちに寄り添い、必要な漢方薬を定期的に自宅へ配送します。現在、サブスク型サービスのLINEの登録者数は20万人を超える人気ぶりです。
このサービスは患者さんに新たな形態の医療を提供するだけでなく、医療者側にもメリットがあるといいます。薬剤師の資格を持ちながらも、出産や子育てを理由に店舗では働くことのできない潜在薬剤師が全国には数多くいます。自宅からオンラインで利用者である患者さんの相談にのるリモート薬剤師という働く機会を、潜在薬剤師に提供することができるのです。

学生時代で複数のインターンを経験、そして現在へ

  辻先生は、ご自身のキャリアについて「やっと目指すべき方向性がクリアになった」と話します。ただひたすらにがむしゃらだったという学生時代を振り返ると、学生時代に行ってきた多くの活動が現在のキャリアにつながっているといいます。講演では辻先生の大学在学中の取り組みについて、一つずつ教えていただきました。

・大学1年
 友人にたまたま誘われて参加した医療ビジネスコンテストにて偶然優勝。医療×ITに興味という分野を知る。これをきっかけに、以後様々な活動にチャレンジする。
・大学2年
 医療系学生向けをコワーキングスペース立ち上げ、様々なイベントを企画。医療系学生とスタートアップのマッチングアプリの作成。
・大学3年
 学生団体(医療ラウンジ)代表就任。教育系スタートアップにてインターンを始める。
・大学4年
 次第にやりたいことが明確になり、「患者さんに価値を届けたい」という思いから医療系ベンチャーにてインターンを始め、プロダクト開発にのめりこむ。
・大学5年 
 ベンチャーキャピタルにてインターン。シリコンバレーに2週間滞在し、バイオインフォマティクス系のアイデアを、事業立ち上げ寸前まで進める。

様々な経験をしたからこそ、伝えたいこと

 複数の企業でインターンを経験し、学生時代から様々な事業に携わってきた辻先生。今の会社についても、「医学部生時代の経験があったからこそ起業につながった」と語ります。辻先生はご自身のこれまでの活動を振り返ったうえで、Take home message として、以下の3つを伝えてくださいました。

①群れないで暇になる(外れ値であることを恐れない)
②別コミュニティに飛び出し、同じ外れ値の仲間をつくる(切磋琢磨できる関係)
③とにかく圧倒的なアクションをする中で徐々にオリジナリティを創り出す

 多くの医学部生は、部活の練習に打ち込み、試験前は試験勉強に追われ、卒業後は初期研修をする、という道を歩みます。集団がやることは決まっているので、集団の中にいると新しいことにチャレンジしづらくなってしまいます。しかし、集団とは少し異なることにチャレンジすると、同じコミュニティの中では外れ値になりますが、外のコミュニティにいけば、同じ外れ値の仲間がいるはずです。取り組んでいる内容は違っても、高いモチベーションをもって切磋琢磨できる仲間は必ず存在し、辻先生自身も、学生時代に様々なアクションを起こす原動力となったといいます。
そして、圧倒的なアクションをする中で、自分のやりたいことを見つけ、そこに旗を立てて全力でコミットしていったことが、現在の辻先生のキャリアにつながっているそうです。がむしゃらに動いていた当時はあまり意識できていなかったものの、今振り返るとこの3つのプロセスに則った行動をしていたと振り返ります。講演の最後は、「今後もこれら3つの要素を意識して、次の5-10年でものを成し遂げるために頑張っていきたい」と将来を見据えていました。

最後に

 視聴者から寄せられた「組織づくりやマネジメントにおいて心がけていることはありますか」という質問について答えていただきました。辻先生の会社で意識しているのは「全員経営者マインドセット」。数多くあるトップダウンの会社とは異なり、組織に所属する一人ひとりが主体的に物事を考え、主体的に行動するということを決めているそうです。各チームに適切な目標と枠組みだけを与え、経営者はプロセスには関与せず、各々が自走できるような組織作りを心掛けているといいます。現在では、経営規模の拡大に伴ってマネジメントが大変なこともありますが、辻先生の代わりにマネジメントができる幹部メンバーの育成にも力を入れているようです。

学生時代からの圧倒的な活動を糧に、卒後1年も経たないうちに起業を成し遂げ、着々と株式会社YOJO Technologiesの事業を展開されている辻先生。将来起業を考えている学生や、医療現場でのマネジメントに関わる先生方など、多くの視聴者のモチベーションとなるようなお話をくださいました。

取材・文:伊庭 知里(慶應義塾大学医学部3年)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?