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【SCP-JP】銃の作動機構に基づく《懐中銃教会》諸派の分類

はじめに(ライセンス表記および参照)

 この記事はフィクションです。実在の人物・団体・国家・宗教・思想・事件などの名称を使用したりモデルにしている場合もありますが、記事の内容自体は架空のものです。

懐中銃教会(The Holy Derringer Church)、ガンチャーチ 原著者 @wobe

「供犠の門」

「マズルビリーバーズ・バイブル」

(原記事削除済み、web archiveへのリンク)

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懐中銃教会ホーリー・デリンジャー・チャーチとは?

中心教義セントラルドグマの概説

 懐中銃教会とは、1865年4月14日のリンカーン暗殺に使用された雷管パーカッション式フィラデルフィア・デリンジャーを万物の造物主として信仰するアメリカ発の秘密結社カルト
 信徒はこの世界を造物主である銃から放たれた銃弾と規定しており、標的ヒッド・エンドに着弾することが造物主たる銃の望まれることと信仰している。逆に懐中銃教会信者が最も恐れるのは、その標的に到達することなく失速し落下してしまうこと。

『我々;懐中銃教会信徒は、放たれるべき銃弾である。万物の造物主たるデリンジャー、放たれた銃弾ブレット、そして標的デッド・エンドの三位一体。その銃もまた引鉄・撃鉄・銃身の三要素から成り、その弾薬もまた雷管・火薬・銃弾の三要素から成るものである。これは言わばヘーゲル式の、エンサイクロペヂの円環を成すものである』
(中略)
『では、標的・・とは何であるか? 我々は、一八六五年のリンカーン大統領暗殺事件に使用された、雷管パーカッション式フィラデルフィア・デリンジャー拳銃を万物の造物主と考える信徒である。いわゆる、世界五分前仮説の一種であると考えてもいい。では何故そこから世界が始まったか? それはまさしく、そこに標的・・が存在したからである。我々は狙いを定めて引き金を絞る。銃弾は撃鉄の叩く雷管によって点火され、膨張する火薬の推進力を得て銃口から飛び出す。銃身内部からの圧力を失った銃弾は、いずれ空気抵抗に失速し、標的に到達することなく落下するだろう。銃弾われわれは造物主より放たれ、標的に着弾することで初めて、三位一体の実現が図られる。それこそが造物主の望まれること。我々銃弾たる信徒は、標的に到達したときに、ようやくその意味や価値を持つものである。アーメン』

『ウェット・ガール』「番犬は眠らない」より

銃口閃光マズルフラッシュ:造物主たる銃・銃弾たる世界・標的の三位一体の信仰

 「造物主たる銃・銃弾たる世界・標的の三位一体の実現」という目標は信徒の間で広く共通して見られる信仰のようだ。しかし標的とは何であるか、造物主たる銃を発射したジョン・ウィルクス・ブースは信仰の対象なのか(初期にこの信仰は失われた)などの点に関する見解は一致していない。

 教義としては新プラトン主義やグノーシス主義における流出説をベースにしていると思われる。その考え方とは、神の光であるイデア界から遠ざかるに従って、世界はより薄暗く卑俗で野蛮なものになっていくというもの。

 この神の光を、銃の発砲における発射炎マズルフラッシュと解釈すると懐中銃教会の持つ世界観を理解しやすいと思う。放たれる銃弾は神の光マズルフラッシュから離れるに従って失速して放物線を描き、やがて地面を抉る。

 銃口Muzzleとは広く生物の鼻口部を意味し、「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった」(ヨハネ1:1, 共同訳)ように、すわなち銃口から神の言すなわち銃声を連想することは容易だ。
 続く「万物は言によって成った。成ったもので、言によらずに成ったものは何一つなかった。言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった」(ヨハネ1:3-5, 共同訳)もまた、懐中銃教会の持つ世界観を端的に言い表しているように思う。


本題:作動機構に基づく諸派の分類

 懐中銃教会ホーリー・デリンジャー・チャーチと名を冠してはいるが、世界には10億挺以上の銃が存在しているとされ、様々な種類の銃器が信仰の対象となる。その銃の設計思想や構造に信仰を見出す者も少なくない。

◆回転派(rotation, revolve, cycle)

 回転式ロータリーボルト回転銃身ローテイティングロッキング回転式弾倉リボルバーを重要視する一派。
 現代の銃は溝によって弾丸を回転させることで弾道を安定させる施条ライフルが刻まれているものが殆どなので、解釈如何によっては恐らく懐中銃教会の教義の中核ないし一大勢力を成しているものと考えられる。

 回転という要素に固執しているため、それは銃の動作=回転サイクルそれ自体にも及び、回転不良マルファンクションを忌避する傾向があると考えられる。また撃鉄ハンマーは半回転するが撃針ストライカーは直線的な運動のため、細かい信仰に差異が生じるように思う。

 回転派の信徒はロータリー式やリボルバー式など回転機構を用いた銃の回転・循環サイクルが、より大きな渦となって一つの世界革命Revolutionをもたらすと信仰している。政治思想的には左派に分類される。


◆反動派(reaction, recoil)

 拳銃や機関銃におけるショートリコイルなど、反動利用リコイル・オペレーションを重要視する。そのため、反動主義Reactionary新反動主義Neoreactionary Movementとの連動もある。この場合発射炎マズルフラッシュ暗黒啓蒙Dark Enlightenmentの光として解釈されうる。
 政治思想的には右派に分類される。

 信徒はオートマチック銃の黎明期に、リコイル式作動の機構を確立させたジョン・M・ブローニング設計の銃を使用する傾向にある。その意味でも保守的、復古的である。とはいえ、ブローニングの設計に全く影響を受けていない銃自体が少ないため、信徒は銃の出自や機構などをあまり気にしていないかもしれない。


◆圧力派(gas-pressure)

 オートマチック式の銃は火薬の燃焼・爆発エネルギーを基に動作する。弾丸を放つことによって生じる反動によって閉鎖機構を解除する反動利用式と異なり、ガス圧作動方式発射ガスをバイパスして閉鎖機構を解除する。また閉鎖機構を持たず金属製薬莢にかかる包底圧によって遊底を押し下げるブローバック式も存在する。

 これらの作動機構は誤った解釈によって同一視されやすく、「自動式はすべてブローバック作動している」と誤って解釈する吹戻しブローバック過激派や、ガス圧作動式とガス遅延式ブローバックの同一視などの異端信仰を産んだ。

 圧力派は火薬の爆発に伴う燃焼ガスのエネルギー・圧力を重要視する。銃身内の圧力=精神の抱える抑圧や内圧をバイパスすることで利用可能になると解釈する。すなわち抑圧を抱える人間をリクルートして、精神に風穴を空けることで利用可能な銃弾=テロリストに仕立て上げる術に長けている。


◆吹奏派(blow a brass)

 金属製薬莢brass金管楽器brass instrumentと捉え、薬莢の吹き戻しブローバック黙示録におけるラッパを吹くblow行為に相当すると解釈する。そのため、装弾数が7発のブローバック式拳銃(例えば.32ACPのワルサーPPKやFN M1910、.380ACPのモーゼルHScやベレッタM1934など)が信仰の対象となりやすい。

 また排出される空薬莢を世界(=放たれる弾丸)のために罪を背負って疎外Entfremdungされた救世主キリストと同一視する向きもあり、その場合はローラー遅延式ブローバックのMP5短機関銃やG3突撃銃の空薬莢に生じるフルートの痕跡聖痕スティグマータとして解釈する。また一般的には、雷管への打撃痕(撃針痕)も同様である。

 異端信仰という程ではないが、少数派の信仰としてブローフォワード派も存在する。

 ブリッシュ・ロック派はのちに吹奏派へと改修・改宗された。


◆正統派(orthodox, flash-hole)

 懐中銃教会信徒は雷管パーカッションフィラデルフィア・デリンジャーを世界の創造主と解釈している(世界五分前仮説の一種と考えてもいい)。そのため雷管パーカッション式以前の火縄マッチロック燧石フリントロックなどは、世界創生以前の旧典として解釈される。

 正統派は、これら前装式のマスケット銃に存在する伝火孔フラッシュホールによって神の光が伝播されると解釈する。
 これらは基本的に近代工業化以前の銃であり、現代の銃と比べあまり高い火力を持たないため、懐中銃教会の中では比較的穏健派とされる。特に施条ライフルを持たないマスケットなどの滑空銃の存在は、回転派ほどの革命志向を持たない。


各種信仰

◆逆子信仰(breech-baby)

 銃尾ブリーチの存在から、逆子breech-babyを重要視する。反動派と圧力派で逆子は閉鎖された銃尾locked breechを開放する解放者リベレーターとして解釈されうる。ただし吹奏派においては閉鎖された銃尾locked breechを持たないため、そこまで重視されない傾向がある。


◆雷管信仰(primer)

 雷管primerとは「第一の」を意味し、時に神と同一視される。雷管への打撃痕(撃針痕)聖痕として解釈される。

 異端の狂信者としてプライマーアクチュエーション原理主義が存在する。第一者たる雷管によってのみ駆動されるべきという考えを持っている。


◆抑制器信仰(suppressor)

 懐中銃教会の信仰=神の光/声は抑制されているべきだとする信仰。すなわち教会の教義は外部に伝わらないよう抑圧・秘匿されているべきという考えが強く、選民思想ないし密教的な性格を有する。抑声サウンド・サプレッサー派と抑閃フラッシュ・サプレッサー派に分かれることもある。

 性質上、信者には暗殺者や特殊部隊の出身者などが多いと思われる。


◆三点射信仰(3-round burst)

 懐中銃教会では三位一体の信仰が重視されるが、そのためという数字に完全性を見出す信者も多い(音楽の3拍子が完全を表す○で表現されるのと同じ)。コルトM16A2/A4、FA-MAS突撃銃、89式自動小銃、H&K製の銃器(G3、MP5、VP70、G36)、ベレッタ93Rなどにその痕跡が見られる。

 H&K G11ステアーACRAN-94など特異な機構によって超高速バースト射撃を実現する銃に信仰を見出す者も存在するが、多くは異端扱いされる。


異端信仰・過激派

◆ブローバック過激派

「オートマチック銃は全てブローバック作動している」という誤った解釈を信仰している。過激派としては最も信者が多いが、その多くは無知や誤解に基づいたものである。

 ブローバック式は反動利用式やガス圧作動式のような閉鎖機構を持たず、その遊底の開放を遅らせるのはあくまで質量・バネ圧遅延機構である。


◆プライマーアクチュエーション原理主義

 雷管は「第一者」を意味するプライマーと呼ばれ、時に神と同一視される。その雷管が作動原理の一部に組み込まれたプライマーアクチュエーションに神聖性を見出す。
 すなわちプライマーアクチュエーション原理主義者たちは、閉鎖機構を持ちながら雷管にかかる包底圧によって動作するプライマーアクチュエート式ブローバックを、諸派の諸教混淆シンクレティズムを象徴するものとして信仰している。
 しかしながら、雷管部分を特別に設計することで銃の作動の一部に組み込むことは、人間による神の支配あるいは人間側の驕りではないかとも解釈可能であり、異端信仰とされている。

 プライマーアクシュエーションの試作例は存在するものの、SMAWロケットランチャーのスポッティングライフルなど実用例は少ない。
 9x51mm SMAW弾の雷管として.22ホーネットの空包が使用されている。そのため.22ホーネットの空包を父なる神(雷管)と子なる神(薬莢)の融合として見る向きも存在する。


◆習合主義(作動機構シンクレティズム)

 細分化していく分派を統合可能な機構を持つ象徴たりうる銃だとして、複合的な機構を持つ特定の銃器に信仰を見出すものも居る。上記のプライマーアクチュエーション原理主義も、シンクレティズムの一種と言える。

 ガス圧作動方式ながら銃身を含む内部ユニットが反動によって後退するAN-94は、その複雑な機構で超高速二点バースト射撃を実現している。

 ウェブリー=フォスベリーマテバ・6ウニカなどの反動を利用して撃鉄を起こすオートリボルバーは、回転派と反動派の双方から信仰されうる。


無薬莢ケースレス弾薬原理主義(反金属薬莢派)

 金属製薬莢は現代のオートマチック式の根幹を成すものであり、時に子なる神イエスと同一視される。それは薬莢が火薬の爆発・燃焼を受け止め或いはフルートなどによって聖痕を受け、人類や世界のために疎外(排莢)されるからに他ならない。

 しかし旧約世界において救世主の存在は予言されていたが、信仰の対象はあくまで造物主たる父なる神(雷管)であった。無薬莢弾薬原理主義において金属製薬莢は、子なる神である救世主キリストとは解釈されない。

 自動オートマチック式において無薬莢を志向する急進派と、前装式時代の銃を志向する正統派で共通の信仰が見られるが、反動的に無薬莢へ回帰しようとする前者と正統的な旧約世界の信仰を保とうとする後者とで、その意味合いは少し異なっている。

 金属薬莢の発明以前には弾丸と火薬を一纏めにした早合や、ドライゼ銃などで使用される完全充足式の紙製薬莢が存在したが、これらは金属薬莢とは性質を異にするため排斥されない。


附記

Q. なぜSCP財団のサイトでやらないの?
A. 共同での創作行為や創作コミュニティにあまり良い思い出がないから

Q. なぜSCPファンダムに所属していないのにSCP関連の記事を書いたの?
A. たぶん銃オタクの私しか書けないだろうし書かないだろうなと思ったから

Q. オートマチック銃は全てブローバックするんじゃないの?
A. それは完全に誤った解釈なので、以下の解説を参照して下さい
遊底スライド・ボルトが後退する動作を全てブローバックと呼ぶのは正確ではない)

何か啓示が降りてきたら加筆・修正するかも

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