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ケンチク日和:カトリック松が峰教会

初見、「ここは日本か?!」と思うほど、本格的なロマネスク建築に驚いた。総大谷石の佇まいが荘厳で美しい。そして大きい。

宇都宮市の中心、東武宇都宮駅のそばにあるのは、1932(昭和7)年竣工。ロマネスク様式で、大谷石建築としては現存最大級の規模を誇る『カトリック松が峰教会』。設計はスイス人建築家マックス・ヒンデル(1887-1963)。弟の誘いで北海道に移住し、函館のトラピスティヌ修道院など教会建築を数多く設計。1927年より横浜に移住した。カトリック松が峰教会は、故郷チューリッヒにあるグロスミュンスター大寺院に思いを馳せながら設計を行ったらしい。日本では数少ない双塔を持ち、大谷石外壁にロマネスク様式の装飾が施されている。

教会の東側正面には2階に上がる階段が両端にあり、その形は大きく腕を広げてあたたかく招き入れるようなムードだ

躯体(くたい)は近代工法である鉄筋コンクリート造にし、地域固有の建材である大谷石タイルを組み合わせた、伝統とモダンが組み合わされた教会建築だ。

正確にはネオロマネスク建築やロマネスク・リヴァイヴァル建築と呼ばれている。11世紀から12世紀のロマネスク建築に着想を得、19世紀後半によく見られた建築様式だ。特にアメリカの大学などに多いらしい。

カトリック松が峰教会も当時としてはトレンドを抑えた、街のランドマークとなったことは想像に難しくない。八角トンガリ屋根の双塔はおそらく、街一番の高さであったのではないだろうか。建設には延べ36,000人の工員が投入されたそうだ。

階段も手すりも全て大谷石。階段の壁は“はつられた”表情のある大谷石。植え込みの敷石も砕かれた大谷石が敷き詰められている。大谷石のフルコースだ


『カン蛙』


増築されたエレベーター棟ももちろん大谷石が使われていて、目地も揃い一体感がある


2000年に増築されたエレベーター棟の上部側面に何やら彫刻が飛び出ている。この彫刻は、第3代主任司祭のアルマン・プジェ神父と深い親交のあった、宮沢賢治の童話「蛙のゴム靴」という作品に因んで2004年に製作されたもの。長靴を履いており、雨の日には口から水が滝のように流れ出るそうだ。なんとも愛嬌のあるガーゴイル(飾り樋)。

カン蛙の真下に宮沢賢治の詠んだ短歌が記されたプレートがある。

ガーゴイルの下に設置された『カン蛙(かんがえる)』の銘板


「さわやかに 朝の祈りの鐘鳴れと ねがひて過ぎぬ 君が教会」

“君”とは当時盛岡天守公教会のプジェ神父のこと。

左側がエレベーターの入口
カトリック教会の植栽によく使われるという『シュロの木』。成長がゆっくりなシュロがこんなに高くそびえるほど、長い時間教会に寄り添ってきたのだ
建物の形がよく分かる南西側からの長め
2007年に設置された野外トイレも大谷石造り。かわいい
 門を入ったところにある掲示板も大谷石でできている。ちょっと十字架風味
大谷石の荒々しいテクスチャ
 松が峰教会には派手なステンドグラスはない。しかしオレンジ色のガラスから室内に落ちる温かな陽光が想像できる
南側の花壇にはアメジストセージの花が咲き乱れていた。 花言葉は『家族愛』

取材時はコロナ禍ということで内部の見学は叶わなかったが、礼拝堂奥にはパイプオルガンや、大谷石で造られた祭壇などもあり、見どころも多い。定期的にコンサートなども開かれているようで、情報をチェックしてみてはどうだろうか。また、結婚式会場としても人気が高く、宇都宮市民ならば参加する機会もあるかも知れない。

アイボリーホワイトの大谷石とのコントラストも美しいが、教会の存在自体が“石の街”宇都宮に咲いた“ロマネスクの華”のようだ。

機会があればぜひ訪れて欲しい。

〈建築概要〉
所在地:栃木県宇都宮市松が峰1-1-5
設 計:マックス・ヒンデル 
施 工:宮内初太郎、安野半吾
建築年:1932(昭和7)年
構造規模:鉄筋コンクリート造二階建・双塔付 大谷石貼
1998年、登録有形文化財に登録

GoogleMap:カトリック松が峰教会


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