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Vampire Weekend『Only God Was Above Us』感想~「2020年代のロック」の一つの結論~

カートコバーン追悼記事目当てで購入した今月のロキノンで彼らの新譜がピックアップされていて、それもかなり絶賛されていたのを見て「ヴァンパイア・ウィークエンドかぁ・・・。セルフタイトルのやつしかしっかり聴いてこなかったけど新譜も聴いてみるか・・・」と軽いテンションでサブスクで一回通して聴いてみたのですが・・・

めっちゃいいやん!!!

と一回通して聴いただけで分かる、言葉に出来ないよさがそこにはあり、そのあと作業しながら何回も何回もループして聴き倒しました。

まず第一に言えることは「そこでそんな音入れるのか!!」と驚かされまくったということ。

少ない音数で名曲を作ることを「引き算の美学」っていうじゃないですか。
なら本作は「足し算の美学」と言うか。「あと少しくどくなったら駄作になる」という絶妙なラインで音数増やすことを止めてて、凄いとしか言いようがありません。

そしてクラシックロックと思ったらパンキッシュで、サイケと思ったら唐突にハードな部分がむき出しになったりする掴みどころのない不思議な音楽性。これが先述の巧みで驚かされる音作りと併せて、聴いてて飽きない要素を作っていると思います。

やけにかっこいいアルバムタイトルは

1988年5月1日付のニューヨーク・デイリー・ニュース紙で、航空機の屋根が剥がれるという事故が起きた「アロハ航空243便航空機事故」を報じたもの。見出しにある生存者の「Only God Was Above Us (=私たちの上には神しかいなかった)」という言葉がそのままアルバムのタイトルに起用されている。

https://www.hmv.co.jp/news/article/240209150

とのこと。かっこいい言い回しですね。飛行機事故から生存してこんなお洒落なことを言えるとは肝が据わりすぎてる気がしますが。

とにかく結論を簡潔に言えば大傑作。ロックのアルバムで最後に「これは歴史に残る傑作になるな」と確信できたのは確か1975の『Being Funny In a Foreign Language(2022)』なんですけど、この短いスパンでまたそう確信できるアルバムに逢えたのは嬉しいですね。

気に入った曲を何曲か紹介。


#1 Ice Cream Piano

大学を出て、いい子ちゃんバンドというイメージが拭えない彼らですが、今作では一曲目の初手から「ファックザワールド」。只ならぬ空気を纏いながらゆったりとした曲調で進み、一瞬静寂?と思いきや突然のテンポチェンジ。怒涛のストリングとサーカスの始まりのようなわちゃわちゃ感が耳を幸せにします。最後は不協和音。
僕はビートルズが大好きなのでなんでもビートルズを引き合いに出してしまうのですが、ミスターカイトを彷彿とさせる曲です。

#2 Classical

MVが面白い。

キャッチーなピアノリフが心を掴む、先行配信曲としてふさわしい名曲。
ベースはウッドベース。面白いリフを刻んでいて、聴いていてとても楽しい。そして何よりサビで放たれるスライドギターが聴きどころ!名演です。


#3 Capricorn

音割れしてる?と疑いたくなるくらいの音圧のサビのブラスが凄い。我関せずとゆったりと歌い上げるエズラとの対比がいい。
"Too old for dying young, too young to live alone"
めっちゃいい歌詞。「若くして死ぬというには歳を取り過ぎた。孤独で生きるには若すぎる。」エズラは40歳でこう歌っていますが、今24歳の僕でもそう思います。


♯5 Prep School Gangsters

今作の中ではかなりバンドサウンドに寄っている曲。
キャッチーなギターリフが特徴で、ハモリを巧みに使いこなしていてるのが魅力。3:05〜終盤にかけてギターリフが少し変わったり、荒々しいストリングスが参戦するのが本当にいい。


#7 Gen-X Cops

これも先行配信曲で、僕が今作で一番好きな曲。
少し穏やかではない曲調に乗せられた「(僕らの世代は)徴兵は避けたけど戦争は避けられない」「それは仕様によるもの。だから結果的にそれぞれの世代がそれぞれの謝罪をする」と今までにない切り口で社会を斬る歌詞。なかなか鋭い。2:06〜このあたりの不穏な音作りが好き。


#9 Pravda

これもかなり好きな曲。
まるでなにかのゲームのエンディングのようなイントロ。ヴァースに入り、電話機のようなエレピと口ずさみやすいベースが心掴みます。
一番のコーラスが終わると間奏でパーカッションが参戦。そのあとも色んな楽器が参戦し最後で爆発。
彼らなりの「飽きさせない音作り」を楽しめる至高の一曲。


#10 Hope

最後にふさわしい壮大な長尺の曲。
これまで世界の残酷さ、無情さを歌ってきた本作ですが、最後はその極めつけに"The enemy's invincible. I hope you let it go"と力強く歌い上げて最後まで「世界は残酷」と現実を突きつけて大団円を迎えます。

ファーストの最後の曲「The Kids Don't Stand a Chance」と似たような曲調で、メッセージもその続きと言えることが出来るのではというYoutubeのコメント(英語ですが)を見て、ほお?と思い二曲続けて聴いてみたのですが確かにそうかも。憎い演出。


というわけでヴァンパイア・ウィークエンドの新譜、「Only God Was Above Us」の感想でした。
彼らに限らずストロークス、アクモン、1975など「2000年代にデビューしたバンド」達が続けて一つの「境地」と言えるアルバムをリリースしているのを目の当りに出来ているのは非常に素晴らしいことです。次はどのバンドがここに到達するでしょうか。とても楽しみです。

それでは、よい音楽ライフを!

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