夢透かし

300人を超える規模のクイズ大会で、4問連続正解し、60万円を手に入れた。内訳は現金30万とペチャンコになった高級時計、それに10万円分の子供銀行券だった。僕以外にもう1人正解者がいて、2人とも同じ景品だったので、当然

「話が違うだろこれ!」

ともう1人が抗議しようとしたが、今の僕は所持金を1万円割っていて、この30万円は非常にありがたかった。余計な反抗をして取り上げられるよりは大人しく受け取って生活費に充てたかったので、

「やめとけよ、何されるかわからないぞ」

と言うと、

「お前はずっとそうだな、他人に遠慮して50点の結果が得られるなら一歩引いて、その後どうなるかを忘れようとする。それを「大人になった」と思い込んで大事を回避したつもりでいる。」

図星ではあったが、それよりも人と揉めるのが嫌だったので

「グサ〜!」

とおどけて見せたまま会場を後にした。そして真顔のまま出入り口の扉を開けたところで目が覚める。

自分の状況が悪い時、僕は高確率で幸せな夢を見る。今回も後味こそ悪いものの、今の自分にとって随分都合の良い夢だった。こういった夢は悪夢と違ってかなり鮮明に記憶に残るので、夢だと分かりつつも財布を開いて確認してしまう。そして漫画のように肩を落とす。
金が無いことを確認する時にわざわざ財布をひっくり返したりしない。生活の質を小銭で計る人間は、先立つ金に追われていない。札だ。札の枚数を数える。1,000円以下の中で解決する物事も失敗する物事も無い。

「何とかしないと」

と思った。家賃分の金が無くなり、返済まであと数日、というところでようやく足が動きだす。貯金をモチベーションに動くのはもう無理かもしれない。
10社近くに返済をしているおかげで、「何とかしなきゃ期」が月のうちに3回ある。1万2万で乗り越えられる低いハードルを目指して走った先に5万6万の少し高めのハードルがあるから、何とか助走をつけられる。
そう考えると、借金が無い状態とはハードルが一切無いマラソンのようなものにしか見えない。ハードルが無いと視界が開けて他の走者が見えてしまう。ずっと先に「社会」があり、たまに自転車やバイクで追い抜かれている。彼らはスタート地点で黙々とマシンを作っていて、僕はその少し先の給水所に10年近く居座っていた。

ちょっと前までは自転車やバイクに乗る人間がチヤホヤされていたが、最近では勢い余って逆走した人間がチヤホヤされている。

せめて次の給水所までの地図があれば頑張れるかもしれない。それも距離次第だが。

はあ、もう1パチの甘デジしか打てねえわ。去年と全く変わらない。

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