見出し画像

励ます会はこちらです。

 鼻水が出る。目も赤い。どうやら来てしまったようだな、花粉の時期がーー。市販の薬を飲むと眠くなるし、喉が乾燥するし、胃も痛くなる。やはり耳鼻科でちゃんと処方してもらいたいのだが。

 我が町の耳鼻科はとても流行っている。誰もが声をそろえて言う。「耳鼻科といえばあそこよ。名医よ」と。しかし冷静になれ。そもそも我が町には耳鼻科はそこしかないのだ。それだけのことだ。患者は弱い。ビビりである。医者に怖いことをされなかっただけで「名医」ということになる。「おすすめよ」なんて言う。するとわざわざ隣町からも患者がやって来る。アホか。
 そんなこんなで我が町の耳鼻科はいつでも絶賛混雑中なのである。数年前に花粉症の薬をもらいに行ったときも、ほんの1~2分の診察のためにどれだけ待たされたことか。

 どうでもいい話をするが(いつもだな)、そのとき、退屈な待ち時間をちょっぴり興味深いものにしてくれたのが、診察室から漏れ聴こえてくる医者の「声」であった。いわゆる「イケボ」というやつだが、声フェチの私は好みの声を聴いて一気にテンションが上がってしまった。若いとき音楽業界にいたので、例えば電話口などで人の声を聴いてもなんとなく相手の顔が想像できる。楽器と同じく人間の声も骨格などによってだいたい決まるものだ。それで「どうやらここの医者はイケメンらしいぞ」と、当たりをつけて待っていた。するとそのとおり、いざ診察室に入ってみると、彼はなかなかのハンサムであった。目鼻立ちの整った優しそうな紳士である。市民よ喜べ。我が町の耳鼻科医はイケメンであるぞ。

 ーーが、つるっパゲであった。残念ながら声だけでは髪の毛の量までは分からない。人生は思いどおりにいかないものである。本人こそ悔しいに違いないのだ。顔も良く、背も高く、医者という職もあり、人々から慕われ名声も金もある。なぜ髪の毛がないのかーー。

 いつだったか、兄がボヤいていた。
「今の時代、ハゲは病気扱いらしいよ」と。
「え、お兄ちゃんそれどういうこと? ハゲはハゲでしょう?」
「いや、病気らしい。治療せにゃいかんのだ。病気というからにはきっと、こじらせたら死ぬんだろう。俺なんかどうするよ、もうこんなにおでこが広くなっちゃってるし、俺、死ぬのかな。死因はなんなんだ? 死因ハゲか?」

 そんな男性特有の悩みを爆笑して聞いていた時代が懐かしい。気が付けば私も40を過ぎ、抜け毛の多さにゾッとすることがある。笑ってる場合ではない。あちこち見回すと、女性でも後頭部がハゲあがっている人はたくさんいる。
 昔の人に比べて現代人はハゲが多い、ということでは決してないだろう。ハゲ率は変わらないはずだ。健康を害してはいけないとか、美を損なってはいけないとか、他人より若く見えなくてはいけないとか、そういった歪んだ長寿社会が「ハゲ」にスポットライトを当てただけのことである。頭皮ケア製品にはじまり治療やら植毛やら、ハゲビジネスに踊らされ過ぎてはいけない。

「男は髪の量じゃない、ハートだ!」というハリウッド俳優(こいつもハゲ)の名言もある。くよくよしたってしょうがない。髪の毛がふさふさでも夢も希望もない人間はたくさんいるし、みんなどこかが欠けているのだ。他人の悩みに目を向けてみれば、結局は平等である。

 励まし合っていこうぜ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?