見出し画像

令和だけどキノコのグロンギの話をする。

 最近見ている「仮面ライダークウガ」にキノコのグロンギが出てきた。名は「メ・ギノガ・デ」と言う。結構衝撃だったのでこいつの話をしたい。

メ・ギノガ・デ 怪人体(トレス)

 この記事を開いてくれた諸兄姉に説明はご不要かと思われるが、一応軽く説明するとグロンギとは変身能力を有する好戦的な古代人で、いわゆる怪人のことである。
 リント(現代人の先祖および現代人)を狩る、ゲゲルというゲームを行う傍迷惑な存在だ。元々人間と同質であるにもかかわらず、徹底して共存不可能な存在として描写されている。

 さてこのメ・ギノガ・デ(以下ギノガ)は他のグロンギと同様に怪人としての特殊な力を用いてクウガを苦しめるのだが、毒の胞子でクウガを死の淵まで追いやる・爆死の際に飛び散った手首から再生して暴れ回るなどグロンギの中でもトラウマ値の高い活躍をしている。

 しかし今回僕が語りたいのは彼が人間体になったときのビジュアルについてだ。
 "彼"と表現したことから分かる通り、ギノガは男性である(怪人図鑑での表記は「人間体は男性の姿」となっている)。
 しかしその格好は、長髪・リボン付きの白い帽子・ハイヒールといった女性的な装いで、僕ら現代リントの価値観では女装と表現される類のものだ。
 だが恐らくこれは女装では無く、単に彼のファッションセンスからくるものだと思われる。

メ・ギノガ・デ 人間体(トレス)

 グロンギ達は「ゴ集団・メ集団・ズ集団」などの階級に分かれており、ゲゲルを成功させることで上位の階級へ上がることが出来る。
 ズの上がメ、メの上がゴとなっていて、より上位の階級に上がるほど強く賢くなっていく。
 その為より知能の高いゴ集団は上手く人間に溶け込んでいるものの、メ以下の集団は正気を疑うような服装をしていることが多い。
 これはグロンギ達が人間とは違う文化を持つことを示す要素の一つとなっており、彼らの異様さを引き立てるのに一役買っている。

 ギノガの話に戻るが、彼もこういった理由……つまりは人外ゆえの"ズレ"として女性的な服装をしていると考えられる。
 また付け加えて言うならば、一人称が「僕」であることから性自認は男性のままだと推測出来るだろう。つまるところ彼はただお洒落をしているだけに他ならないのだ。

 興味深いのが彼が作中で一切、「オカマ」や「女装」扱いされていないことだ。
 これが何かと多様性の叫ばれる令和の世ならばむしろ当然と言える話ではあるが、仮面ライダークウガは2000年という平成初頭に放送された番組だ。
 僕自身平成初期の生まれなのでよく知っているが、当時いわゆるオカマと呼ばれる方々は存在そのものが冗談といったような扱いをされていた。
 猫撫で声と野太い声を使い分ける青髭で同性愛者の変態道化、それが当時の大衆にとってのオカマだった(もちろん真面目に性別違和について扱うものもあったはずだが、大衆向けでは無かった)。
 今にして思うと全く下品な時代だ。もっとも、冗談としてでもまだ受け入れられているだけ昭和時代よりいくらかマシなのだろうが。

 それがどうだろう、このギノガという男は。まるで滑稽な存在では無いのだ。
 不敵な笑みを浮かべ淡々とした振る舞いで殺人を繰り返す姿は理知的とさえ言えるだろう。それに加え容姿にも不自然に醜く見せようという作為も見当たらない。
 また彼は屈強な他のグロンギ達に比べて虚弱であるが為に仲間から罵倒されるシーンが見られるが、「相変わらず虚弱」「情けない奴」といった言葉こそかけられても、「カマ野郎」などといった揶揄をされることは無かった。これは彼らグロンギにとってまるで可笑しなことでは無いからだろう。

 これが如何に特異なことであるかを今の世を生きる諸兄姉に分かるだろうか。
 令和になって生まれつつある「多様性」の世界。それが平成の世で暴れた凶暴な怪物達に先越されていたとはなんとも皮肉な話である。

 「子供向けであっても子供騙しはしない」というクウガ制作スタッフのこだわりが垣間見える良怪人だと僕は思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?