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【PPP】ディバイダーの仕組みについての考察(7/29追記)

7/29追記内容:ジュリアン・ジェインズ『神々の沈黙』をベースとした追加考察を行いました。書籍の内容中心ですが興味があればどうぞ!

脳科学的側面から考察したディバイダーの仕組み

PPPでピースブレイカー隊員の脳に埋め込まれていたディバイダーがどのように作用していたのか、まずは脳科学的な側面から考察しました。

脳についてはまだまだわかっていないことも多く、ネットの海から参考にした情報の精度については保証はできません(気は使いました)。
医学用語と私の妄想のオンパレードです。それでも興味持って付き合ってくれる方は先へお進みください。


【脳の情報伝達の仕組み】

脳には1000億個の神経細胞(ニューロン)があります。この細胞1つ1つの神経繊維(軸索)上を電気信号が伝わって、神経細胞から別の神経細胞へと電気信号が流れていくことで情報を伝えます。
ちなみに各神経細胞の間には隙間が空いていて、この隙間では電気信号を化学物質に変換して情報伝達が行われています。
こうして脳内では神経細胞同士によって複雑なネットワークが作られて情報のやり取りが行われています。

詳しくは下記あたりを参照ください。
ニューロンについて
神経細胞の解説

【脳に埋めるチップについて】

現実世界でもイーロン・マスクのNeuralink社で脳に埋め込むチップの開発が進んでいますね。
電極が入っているこのチップを神経インプラントとして脳表面(皮質)に埋めることで、脳の電気信号を受け取って接続先のコンピュータの操作を可能にしています。
Neuralink社がサルの脳にチップ埋めてコントローラーを使わずにゲームをプレイさせた実験では、チップは運動の計画と実行に関与する運動皮質の手と腕の領域を支配する部分に2つ埋め込まれていました。1024個の電極が脳の電圧を増幅してデジタル化し、これをBluetooth経由でデコードアプリを実行しているコンピュータに送信することで操作を可能にしていました。
Neuralink社創業が2016年、2019年にチップの開発情報を公開、サルの実験動画公開は2021年ですから、PPPにおけるディバイダーや翻訳チップ、記憶チップなどの参考にした可能性は十分あると思います。
下記あたりが課題かな?と感じますが、PP世界の技術力ならある程度は改善してるだろうと推定します。
・安全性
・電極周囲の神経細胞からの電気信号しか受け取れない
・周囲の神経細胞からの不要な電気信号(ノイズ)の低減、各電気信号の識別
・解析データ量と処理にかかる時間

主な参考サイト
ニューラリンク社の実験に関するニュース記事その1
ニューラリンク社の実験に関するニュース記事その2
ニューラリンク社HPのブログ

ここまでの前提条件を踏まえた上で、ディバイダーの話です。

【ディバイダーとは】

作中での説明は大体以下の通り。
・ピースブレイカー隊員の脳に埋め込まれた特殊なチップ
・精神を分割する装置
・自分を別の人間のように認識して、罪悪感を委ねることができる
・宗教的興奮の科学的再現でもある?再現度もある?(ここちゃんと聞き取れていません汗)
・神に従うように行動の全てを砺波に委託する

精神を分割して自分を神の視点で見る形(意識は0ではないけれど自分を他人のようにしか認識できない)になり、自分の行動(身体の支配権)は砺波に委ねる、ということでしょうか。
これらの情報から、ディバイダーの作用を下記のように考えました。

「ディバイダーは脳の様々な電気信号を識別して受け取って増幅し、砺波(ジェネラル)へ送信する。また、外部から受信した情報を憑依先の脳の各部位へ適切な電気信号を送ることで伝える。つまり、罪悪感など精神の一部の情報をジェネラルに委ねたり、ジェネラルと連動した砺波の脳の司令を電気信号として受け取って、憑依先の脳へ司令を出し操る

図にすると↓みたいな感じです。わかりにくくてすみません。間違いや不足があれば随時修正します。

図1. 砺波とジェネラル、ディバイダーを埋めた隊員間の
情報伝達イメージ

ではディバイダーは脳のどこでどの範囲まで作用していたのでしょう。

【ディバイダーが埋め込まれていた部位】

志恩さんがボカモソと思われる遺体の脳から分析した結果がこちら。目視でだいたいこの辺、くらいの精度です。

図2. ディバイダーが埋め込まれた位置

左脳に1つ、右脳に2つ。脳地図を見た感じ、多分下記の領域付近だと思われます。
①運動野(一次運動野・運動前野の間付近)
②一次体性感覚野(頭頂葉)
③視覚前野(後頭葉と頭頂葉の間付近)

順に説明します。

※脳の構造については手間かけて申し訳ないのですが下記リンク先等を参照ください。(著作権や許諾の問題上画像を直接貼るのは躊躇われるため)
可能なら脳の構造図を見ながら続きを読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
脳の構造参考① 参考②

①運動野(一次運動野・運動前野の間付近。)
一次運動野は手足・顔・体幹の運動を司ります。運動指令を脳幹や脊髄へ出力する主要な領域です。
運動前野は運動の計画・準備を担う領域といわれていて、一次運動野に司令を送っています。頭頂連合野からの視覚情報を元に動作選択をするのもここ。
(一次運動野以外の領域をまとめて運動連合野とか高次連合野と呼ぶこともあるようです。一次運動野を運動野と記載しているサイトもありました)
運動の指示は砺波が出していると思われるので、ディバイダー①は一次運動野を中心に、運動をコントロールする運動野全体の制御をしていると考えます。

主な参考サイト(見失った引用先は見つかれば更新します)
運動野等について
一次運動野について

②一次体性感覚野(頭頂葉)
一次体性感覚野は触覚情報を処理する皮質領域で、手指で触れた物体の形状などを判別するときに重要な役割を果たすことが示されています。
もっと硬い説明だと以下のようになります。
「視床中継核を経由して入力する末梢からの体性感覚情報を処理し、二次体性感覚野、頭頂連合野、運動野等に対象物の触識別や運動制御に必要な体性感覚情報を出力する重要な一次感覚皮質である」
※体性感覚:触覚、温度感覚、痛覚の皮膚感覚と、筋や腱、関節などに起こる深部感覚から成り、内臓感覚は含まない。
一次体性感覚野は一次運動野の後ろなので、ディバイダーがこの位置にあるなら運動野への作用も可能かもしれません。
ディバイダー②は触覚、感覚に関する知覚を中心に運動の制御も行っていると考えます。

また、上から見たディバイダー①②の位置とペンフィールドの脳地図を照らし合わせると、ディバイダーは脳の顔や手の制御を中心とする領域にあるようです。
※ペンフィールドの脳地図は人間の身体のさまざまな部位の機能が、運動野(ディバイダー①付近の領域)と体性感覚野(ディバイダー②付近の領域)のどこに対応しているかを表す脳地図です。
ただ砺波は全身の動きを制御していたので、あくまでも複雑な動きを要求する顔と手が制御の中心である、というだけの認識で良さそです。

参考サイト
ペンフィールドの脳地図①
ペンフィールドの脳地図②

③視覚前野付近(後頭葉と頭頂葉の間。側頭葉や脳梁にもそこそこ近く見える)
後頭葉は視覚情報の処理を中心に行います。まず一次視覚野で視覚情報から形や色、動き、奥行きなどの情報を抽出し視覚前野へ情報を送ります。
視覚前野は、一次視覚野から送られた視覚情報を処理、統合し、物体の認識や空間認知を行います。
後頭葉の前の部分に位置する頭頂葉(頭頂連合野)は、様々な機能を持った多くの領域からなり、主に体性感覚野からの体性感覚情報、後頭葉からの視覚情報などがそれぞれ統合される高次感覚野領域、更に側頭葉からの聴覚情報含め複数の感覚種情報が統合される多感覚領域があります。
(余談:側頭葉には聴覚野があり、音の情報は一次聴覚野から同じく側頭葉にある聴覚連合野へ送られて音情報が処理されます。この聴覚野もディバイダー②③の割と近くにあるので、聴こえもある程度カバーしていそうです)
脳梁は右脳、左脳でそれぞれ処理された情報を統合する役目を持つ、数億本の神経軸索の束です。

以上よりディバイダー③は視覚情報を中心に処理していて、運動、体性感覚、聴覚情報などの統合や処理を行っていると考えます。脳梁にも近いので左右の脳の情報統合もしているかもしれません。

主な参考サイト
一次体性感覚野の話
後頭葉の話①
後頭葉の話②
頭頂連合野の話
運動前野、一次運動野、一次体性感覚野まわりの話
脳梁の話

こうして見ると、ディバイダーが埋められた位置はちゃんと考えられている気がしてきました。
ではここまでまとめて幾つか疑問が浮かんだので、次は自問自答コーナーです。

【ディバイダーに関する疑問あれこれ】


Q1. ディバイダーが左右バラバラで3ヵ所入っているのはなぜ?

右脳は視覚情報をもとにした作業や、顔の識別、立体展開図の推測、大きさと形による分類といった仕事が得意です。左脳は、言語で思考し、分析や理論性をつかさどります。また、右脳は左半身の運動機能を、左脳は右半身の運動機能をつかさどっています。なので、先述したNeuralink社の実験では、サルは運動皮質の左右両側にチップを埋め込まれていました。
じゃあディバイダーは左右対称で入っていないけど大丈夫なの?という疑問が出てきます。
これについては、恐らくディバイダー①と②で左右の運動野と感覚野の機能制御はカバーできるんじゃないかなと考えました(運動野と感覚野は隣接してますし)。ディバイダー①②が左右1つずつなのは、ディバイダー同士が近すぎることによる電波干渉を防ぐためかもしれません。またディバイダー③が右脳にある理由ですが、視覚情報が後頭葉から頭頂葉に移動して処理されるルートがあるので、頭頂葉のディバイダー②と同じ側にある方が視覚情報処理の負荷や遅延がより少なくて済むんじゃないか、と考えました。
あとは大半の右利きの人にとって優位脳である左脳の側頭葉には言葉を聞いて理解する言語処理などを行うウェルニッケ野(ウェルニッケ中枢)があって、憑依時にコントロール不要な神経からの電気信号のノイズが増えるからでは?と考えました。これはかなりこじつけ。

全身運動の司令を出すのは砺波ですし、左右どちらかに届いた電気信号は脳梁を通じて左右の情報を統合したり橋渡ししたりすればいいので、左右対称でチップが入っていなくても問題ない、というカラクリなら筋が通るかなという感じです。

参考サイト
右脳と左脳の違いについて①
右脳と左脳について②
ウェルニッケ野について

Q2. ディバイダーが埋まった領域以外の制御について、例えば音はどうやって聞き取っているのか?
先ほど余談でも触れましたが、音は耳から入って一次聴覚野まで行き、そこから脳の各部位へ情報が伝わっていきます。恐らくディバイダー①②あたりが側頭葉の聴覚野からそこそこ近いので、砺波は音情報も受け取れているのではという予想です。
そう考えるとディバイダーの制御範囲は結構広いような気がします。範囲は広いけど脳全体まではいかない感じでしょうか。

Q3. ディバイダーが広範囲の脳を制御したり信号を読み取ったりしているなら、記憶も読み取っている?
記憶には短期記憶と長期記憶があり、短期記憶には前頭葉と海馬が連動して…と説明すると話が逸れてしまうのでこの辺は割愛します。
記憶には、思い出すのに意識が必要な顕在記憶と意識が不要な潜在記憶があります。顕在記憶はエピソード記憶(経験した出来事の記憶)と意味記憶(学習で獲得した記憶)に分かれていますが、砺波に読まれたら困るのはこれら顕在記憶の方です。
憑依された本人が意識的に記憶を思い出そうとしない限り、読まれたら困る記憶情報を砺波に持っていかれることはないので、記憶が筒抜け…ということはないように思います。
1期13話の脳波モンタージュでも、朱ちゃんが記憶を思い出して記憶に関わる信号をキャッチして増幅して槙島の画像を得ていました。なので想起によって記憶に関する電気信号が発生しない限りは、ディバイダーにも記憶は読まれないと思って良いと思います。
もし記憶を読み取れたら甲斐の潜入捜査はもっと早くバレているはずです。記憶が読まれていないとする他の根拠としては、ディバイダーは憑依先の記憶を覗き見ることか主目的で開発されていない、甲斐の場合はディバイダーか機密作戦用記憶チップに記憶を覗かれないための細工をしていた、等が考えられます。

Q4. ディバイダー起動中憑依された人の意識はある?
「自分を別の人間のように認識する」との発言から多少の意識はあると思われます(生きている場合のみ)。ただコントロール権は砺波が握っているので、狡噛さんと志恩さんの会話で出たような神の視点……もしくは夢の中で自分を離れた視点から見ているような感覚に近いのではないでしょうか。心や身体の痛みはきっとジェネラルに委ねてるので憑依中の苦痛は少ないかもしれません。ただ砺波の支配が外れた後は、負荷がかかった脳のダメージやそれまでに自分に起きた心身の痛みで苦しいだろうなと思います(鎮痛剤飲む甲斐のシーンのような感じかな?辛い…)。

Q5. ディバイダー起動中、憑依先の脳や砺波の負荷はどんなもんなの?
どちらもかなり負荷がかかっていると思います。ディバイダーが作用する範囲が結構広そうなので、相当な量・パターンの電気信号を脳に送っているはずです。でも電気信号はディバイダーから出るので、離れた脳の部位ほど制御の精度が落ちて難しくはなるはず。
また同時に、憑依先の脳で発生した電気信号の情報もかなり広範囲から吸い上げていると思います。砺波がコントロールしてる視覚、触覚、全身運動だけでなく、感情とか精神の一部あたりまで。
こうした情報の送受信を、砺波は複数人同時に操り行っている(もしくは瞬時に別の人間へ切り替えながら行っている)と思われます。とても砺波1人の脳内で処理できる情報量ではありません。ここはシビュラと同様、脳を並列接続して演算処理能力を拡張したジェネラルが補っているのでしょう。それでもコントロールは砺波が行うし、相当な負荷がかかることに変わりはありません。憑依中の砺波、北方列島で汗だくですしね…
なので、ディバイダーは少しでも負荷を押さえて必要な動きをより高精度で支配できるよう、メインで操りたい視覚、運動、知覚に関わる部位に入っているのかもしれません。

参考サイト
記憶と海馬について
記憶について
海馬について
茂木健一郎の記事
記憶想起に関する研究の記事
潜在記憶と顕在記憶について
エピソード記憶と意味記憶について①
エピソード記憶と意味記憶について②

【おまけ:翻訳チップについて】

翻訳チップの作用原理(電気信号を脳に送り、脳の信号を読み取る)はディバイダーと同じと考えます。違うのは埋め込まれた部位と役割です。
では翻訳チップはどこに埋め込まれているのでしょう。恐らく、聞き取った音声の言語理解や処理の補助をするので、左脳側頭葉の聴覚野やウェルニッケ野の近くじゃないかなという予想です(図2の青丸参照)。
もし複数ヵ所に埋めているとしたら、他には前頭葉の、運動性言語中枢があるブローカ野の近くでしょうか。
ディバイダーとは部位が違うため、運動野や感覚野、後頭葉等からは遠いです。
甲斐も「範囲と時間は限定される」と言っていました。クラッキングによって本来設計されていないパターンで、想定されていない領域へ電気信号を流すことになるので、ディバイダーよりもノイズや負荷が大きく長時間は無理なのかもしれません。範囲というのはコントロールできる脳の範囲のことかな…?
クラッキングで乗っ取った素顔の人間は確か3人。グローツラング号の眼鏡の外務省職員、海外情報センターの連絡通路で自害した職員、矢吹。3人とも憑依中のボカモソや甲斐と比べても顔面の動きが乏しかったように思います(わかりやすいのは眼鏡職員ですが、この職員は死後時間が経っていて単に脳細胞の損傷が激しいせいという可能性もあります)。いずれにしても、ディバイダーほどの精密な顔面や身体の制御は難しいでしょう。

参考サイト
言語中枢などその他脳のつくりと働き
聞こえの仕組み

【まとめ】

ここまでだらだらと考察を書き殴ってしまったので、最後にディバイダーの仕組みについてまとめておきます。

脳の電気信号を混同することなく識別して受け取って増幅し、砺波(やジェネラル)へ送信する。罪悪感など精神の一部の情報をジェネラルに委ねたり、身体が受け取った情報を砺波に伝えたり。
・ジェネラルや砺波からの司令など、受信した情報を脳の各部位へ電気信号を送って伝える。
・電気信号の送受信はディバイダー周辺の脳のそこそこ広範囲まで対応できるようだが、脳への負荷が大きい。
・砺波はディバイダーを通して他人に憑依し、全身運動、触覚などの感覚、視覚を中心にコントロールする。
・負荷の大きい憑依中の情報処理については、砺波はジェネラルの補助を受けている。また、砺波自身も精神の一部をジェネラルに委ねている。

次回は翻訳チップのクラッキングと聞こえの仕組みから補聴器と難聴について掘り下げていき、矢吹の難聴の種類や砺波が矢吹に憑依した場合の聴力について考察を展開したいなと思っています。
→考察しました! 【考察第2弾リンク】
興味があれば覗いてみてください。

ここまで読んでいただいた方、かなり疲れたと思います。
本当にありがとうございました!

追記:ジュリアン・ジェインズ『神々の沈黙』を踏まえたディバイダー考察


唐之杜さんと狡噛さんの会話で出てきたこちらの書籍にも、ディバイダー考察のヒントがありました。
制作陣も間違いなく参考にしている本書。そのヒントとなりそうな内容に絞って紹介します。
絞ったとは言っても、考察の根拠が一通りわかるようにかなり引用が多く長いです。なんならほぼ引用ですし追記の方が長いという(笑)。
それでも大丈夫そうでしたらお進みください。

注) 1976年に刊行された書籍で引用文献もかなり古いため、上で私があげた考察や引用先と一部食い違ってくる可能性もありますが、ここでは本書の内容をベースに考察を展開します。
なお、『』は一字一句そのまま引用した箇所、()内のページ数は引用先または参照先です。見出しのフレーズは引用せず私が勝手につけています。

【神々の沈黙から見る、ディバイダーが埋められた位置の考察の根拠】

まずは考察のための根拠となる内容を紹介します。

〈二分心〉(p96〜109)
神々の沈黙で出てくる〈二分心〉仮説は、『遠い昔、人間の心は、命令を下す「神」と呼ばれる部分と、それに従う「人間」と呼ばれる部分に二分されていた(p109)』というものです。それぞれ、主観を持たず神々の声(人々が聞いた声)を出していた部分と、私たちの主観的で意識ある心、といったところでしょうか。

〈二分心〉の人間の脳では何が?(p128〜151)
この〈二分心〉の人間の脳で何が起きていたのかについて、ジェインズは第一部第五章「二つの部分からなる脳」で解説していました。
「二つの部分からなる脳」とは、体の右半分を支配する大脳の左半球(左脳、一般的に優位半球)と、体の右半分を支配する右半球(右脳、一般的に劣位半球)のことです。
※本書では右利きの人=左半球に言語野がある人を想定して話が掘り下げられています。

言語野は大きく分けて三つあるとジェインズは説明しています。一つ目の補足運動野は左前頭葉の最上部にあって、おおむね発話に関与。二つ目は左前頭葉の後下部にあるブローカ野、三つ目は左側頭葉の後部にあり頭頂部分も含むウェルニッケ野です。ジェインズは『正常な言語活動にとって最も重要なのはウェルニッケ野だ。ウェルニッケ野の皮質はかなりの厚みを持ち、細胞は大きく、細胞どうしの間隔も広くとられているため、内部でも、また外部とも、連絡が行われていることは想像に難くない。どこまでをウェルニッケ野と考えるかについては意見が分かれるが、この領域が意味のある意思疎通に重要であることは、誰もが認めるところだ。(p130)』と述べています。
そして、言語野が全て左半球に存在しているのはなぜなのかが掘り下げられています。言語に必要な神経学的構造は右半球にも同じように存在していますが、それらの領域を刺激しても、左半球の時のような「失語的停止」は見られす精神機能に生じる障害は少ない。一件大切な機能がないように思える右半球の言語野にあたる領域の重要度が比較的低いのはなぜか、何らかの機能があったとは考えられないだろうか?この疑問に、推測の域を出ないが明確だ、と下記のように答えていました。
『当時(=文明時代)、人間の言語が一つの半球だけで司られていたのは、もう一つの半球が神々の言葉のためのものだったからではないか。(p132)』

これが正しいとしたら〈二分心〉の声が劣性である右側頭葉から左側頭葉に伝わるような経路があるはずだろう。ジェインズは人間の側頭葉には専用の連結部、脳梁よりずっと小さい前交連があり、これこそが両側の側頭葉を結びつける小さな架け橋だと考えます。『ここで神々が人間に語り、その神々は人間の意思作用であるがゆえに従われたのだ。(p133)✱』
✱原注の内容も興味深かったので紹介しておきます。『〈二分心〉間の伝達だけが前交連の働きだと言うつもりはない。この交連は下方側頭脳回の後方部分の多くを含む、両側頭葉のほとんどを交互に連結している。この領域は後頭葉から下へ伸びる強力な線維の組織とつながっており、視覚認識の機能にとっては特に重要だ。(p606)』

そしてこの仮説を二つの形で詳述しています。
①(有力な方):神々の発言はウェルニッケ野に相当する右半球の領域で瞬間的にまとめられ、それが前交連を通り、左側頭葉の聴覚野に「話しかけ」たり「聞かれ」たりしていた
②(有力じゃない方):幻聴によって聞こえる声は本人の言葉と同じように左半球に起源があるが、その感覚や方向性、本人との異質な関係は、右側頭葉による。つまり右側頭葉が刺激を前交連やおそらく脳梁膨大(脳梁の後端)を通して左半球の言語野に伝え、そこから「聞こえる」というもの
有力かどうかに関わらず両説において重要なのは、訓戒的な体験を融合するのは右半球の機能で、右半球でウェルニッケ野に相当する領域の興奮が、神々の声を引き起こしている、という点です。

この仮説を裏付ける証拠として五つの知見があげられています。
1)両方の半球が言語を理解する
2)右半球には神々の声に似た機能の名残がある
3)二つの大脳半球はそれぞれが独立して機能できる
4)二つの大脳半球の認識機能の違いは、人間と神との違いを反映している
5)脳は環境によって形作られる余地が大きく、主に学習と文化の影響で〈二分心〉の人間が意識を持つ人間へ変化した可能性がある
このうち二つ目と四つ目の知見に関する記述が興味深かったので一部紹介します。

2)右半球には神々の声に似た機能の名残がある
この項では次のような文章があります。『神々の声は当然、はっきりと声に出して離す必要がなく、喉頭や口唇も不要だったので、右半球もしくは、いわゆる劣位半球側のブローカ野と補足運動野に相当する領域はある程度除外して考え、ウェルニッケ野、つまり側頭葉の後部に相当する領域に限定して見ていけばよい。もしこの領域に刺激を与えたなら、いにしえの神々の声が聞こえるのだろうか。もしくは何らかの名残り、つまり三〇〇〇年前にはその機能は神々が人間の営みについて指図することだったと考えられるようなものが。(p136〜137)』
神々の声を聞き取る部分をウェルニッケ野に限定して見ていたようです。この後でジェインズは、ペンフィールドとペローの有名な実験でおおいに刺激を与えたのがまさにこの領域だった、と述べて実験内容を紹介していました。

4)二つの大脳半球の認識機能の違いは、人間と神との違いを反映している
〈二分心〉の脳のモデルが正しいとすると、人間の側に必要な機能は左(優位)半球にあり、神々の側に必要な機能は右半球により顕著に現れていると考えられる、とのことです。現代人にもこうした機能の違いの名残があると考えていけない理由はないとしています。
『神々のおもな機能は、新しい状況下でどう行動するかを考え、指示することだ。神々は問題を見極め、そのときの状況や目的に沿って行動を準備する。その結果、複雑な〈二分心〉文明が生まれ、(中略)諸事を大がかりな構想の中にまとめ上げること、左半球の中にある言語的・分析的領域にいる神経学上の人格に指令を与えることなど、本質的に異なる様々な部分を総括していた。したがって今日、右半球に残っている機能は組織化に関するもので、文明社会における経験を選別し、まとめ、個々の人間に何をすればよいのか「告げ」うるパターンに変えることと考えられる。『イーリアス』や旧約聖書、そのほか古代の文献に登場する神々からの様々なお告げを精読すると、それが裏付けられる。過去や未来の異なる出来事が選び出され、分類され、しばしば比喩の統合を伴いながら新しい形にまとめられる。それゆえに、この機能は右半球の特徴と呼ぶべきだろう。(p147)』
そして、臨床観察の結果はこの仮説に一致する、と述べています。

更に、〈二分心〉における神々の声が特定の状況下で何をしなければならなかったのかを考えれば、右半球に残っている可能性のある機能を更に推測できるとしています。
経験を選び出してまとめ、行動への指令に変えるには、神々はある種の認識をする必要があったはず、と。いつの時代の人間にとっても重要なのは、相手の表情の判断で、特に友好的かそうでないかの認識が大切と述べています。〈二分心〉の人間が見知らぬ人物を見た時、友好的か敵対的かの判断は神側にとって生死のかかった重大問題となる、といいます。
この仮説に基づいたジェインズの実験では、左右で表情が違う鏡写しのイラストを見て、どちらの顔が楽しそうに見えるかと被験者に尋ねました。結果、視野の左側から顔の表情を判断する傾向にありました。もう一つ紹介されていた実験では、視野の左(=右半球)に示された顔写真の方が表情を比べる精度があがりました。臨床実験の結果も傾向が一致していて、顔の認識も表情の認識もおもに右半球の機能であることがわかる、とのことでした。
そして、新奇な状況下で友好的/敵対的な相手を見分けるのは、神の機能の一つである、と。

【上記を踏まえた、ディバイダーの位置の考察】

ここまでの内容をまとめると下記のような感じでしょうか。
神と人間に分かれた二分心を持つ人間の脳では、神の機能を持つ右半球のウェルニッケ野付近から神の声による指令が出され、人間側の機能を持つ左半球のブローカ野付近がこの指令を受け取り従った。
これを神→砺波、人間→ピースブレイカー隊員、と考えるだけで構造が見えてきませんか。
そして既にお気づきかもですが、左半球のブローカ野と右半球のウェルニッケ野は、それぞれ図2のディバイダー①と③の場所にとても近いです。これで、①と③については、ディバイダーの左右をどう決めていたのかという説明がつきます!
また、ディバイダー③がウェルニッケ野にも近い上に視覚情報を処理する後頭葉付近にあるというのも、「顔や表情の認識は主に右半球すなわち神の機能として重要だった」という本書の内容から頷けます。
※顔情報の処理は複数の脳部位によって形成されるネットワークで行わるのですが、ディバイダー③の位置と機能なら、顔の認識は十分にできそうに思えます。私もじっくりは読めていないのですが、この辺詳しく知りたい場合はこちらの論文(と論文の孫引き先)が面白いかもです。
なお、ディバイダー②がある一次体性感覚野付近については、本書に説明はなさそうです。が、以前私が考察した「②は触覚など大事な知覚情報や近くの聴覚野から音の情報を吸い上げていそうな位置にある」「左半球にあるとディバイダー①に近すぎる」ことに加えて、本書の内容から「神の機能を担う右半球にある」「神からの指令を受け取る人間側(左半球)ではなく、神が情報を受け取って処理する右半球にある」と考えれば、ある程度説明はつきそう、という感じです。

【神々の沈黙から見る、憑依と憑依中の意識についての考察の根拠】

こちらもまずは考察の根拠となる書籍の内容から紹介します。

〈二分心〉の名残り(p384〜396)
〈二分心〉から意識へ移行する長い歴史の中で、〈二分心〉の名残りを最もわかりやすく留めていたのは、〈二分心〉が消えなかった人々でした。中でも注目すべき一つとして、制度として神託を伝えていた者たちとしています。制度としての神託でよく知られるギリシアの神託、デルポイの神託について触れています。デルポイの神託とは、神託の地デルポイのアポロン神殿で、高位の巫女達の口から伝えられる神託のことです。
巫女達がどのように神託を告げたのか説明するため、ジェインズは〈二分心〉の一般的パラダイムを提示します。これは、意識が薄れる現象には様々な種類があるが、どれも古い精神構造の名残りを留めると考え、それらの現象をひとくくりにしてみたときに背後に共通する「構造」のことです。
次の四つの面があるといいます。

一)「集団内で強制力を持つ共通認識」集団内で信じられていること、つまり文化全体の合意に基づく期待や掟を指す。これに従って、一つの現象に特定の形が与えられ、その形の中で人々が実行すべき役割が決まる。
二)「誘導」限られた範囲に注意を集中させて意識を狭めるために、はっきりと儀式化された手順。
三)「トランス」一と二の両方への反応として現れ、意識の希薄化や喪失、アナログの〈私〉の希薄化や喪失を特徴とする状態。トランス状態になることによって、帰属集団が受容あるいは許容あるいは奨励する役割を果たす。
四)「古き権威」トランスに入って交信したり結びついたりする相手。普通は神だが、人間の場合もある。後者となるためには、その人間が、トランス状態になる者に対して権威を持つことを本人もその所属する文化も認めている必要がある。また、「集団内で強制力を持つ共通認識」によって、その人間がトランス状態を支配しているとされていることも前提となる。

〈二分心〉の現象を分析すると、論理的構造が明らかになるともに、脳神経の構造、脳の複数の領域間にどんなつながりがあるかも見えてくるため、ジェインズは〈二分心〉の一般的パラダイムを「構造」と呼びました。
その構造は、〈二分心〉の脳のモデルのようなものかもしれず、第三部(タイトル:〈二分心〉の名残り)で取り上げる現象には全て、脳の右半球の機能が何らかの形で関与しており、しかもそれは、意識ある通常の生活を営んでいるときとは違う働きであることが予想できそうだとしています。『そうした現象のうちには、右半球の一部が繰り返し優位に経っているものすらありうる。その現象にかかわる脳神経の仕組みは、九〇〇〇年にわたって〈二分心〉を選んできた自然選択の名残と考えられる。(p394)』
そして、〈二分心〉の一般的パラダイムがデルポイの神託に当てはまるのは明らかだと言っています。

神託がたどる六つの段階(p399〜400)
ギリシア人の精神がおしなべて〈二分心〉だった状態からおしなべて意識ある状態に移行するについて、神託という〈二分心〉の名残りとその権威も変化し、ついには、神々の声が途切れ始め、神託はなかなか得られなくなった。ジェインズは、こうした移り変わりは一つの大まかなパターンがあり、神託が一〇〇〇年の歴史を通して衰退していく過程を六つの時代にわけました(「集団内え強制力を持つ共通認識」が弱くなるとともに〈二分心〉が消えていく六つの段階とも言い換え可)。

一「特定地域における神託」
もともとは、たんに特定の条件を満たす土地が神託地となった。具体的には、畏怖の念を抱かせる景色があったり、かつてそこで重要な出来事が起きていたり、波、水、風といった幻聴を誘う音があったりしたために、神託請願者がみな神々の声をじかに「聞く」ことができた場所。(一部抜粋)
二「神託者による神託」
ついで、特定の人物や神官しか、その場所で神の声を「聞く」ことができなくなる。
三「訓練を積んだ神託者による神託」
次は、神託者が長期にわたって訓練を積んだり、手の込んだ「誘導」を行ったりしないと、神の声を「聞く」ことができない時代に入る。この段階までは、神託者は「自分自身のまま」で神の声を伝える。
四「神懸かりになった神託者による神託」
遅くとも前五世紀にはこの段階に入る。神託者はそれまで以上に訓練を積み、より手の込んだ導入を行った上で、神懸かりになって狂える口で身をよじりながら神の声を伝える。
五「神懸かりになった神託者の言葉を解釈して伝える神託」
集団内で強制力を持つ共通認識が弱まると、神託者の言葉が聞き取りにくくなり、そのため、神託者を補助する神官が、自らも「誘導」の手順を経た上で神託者の言葉を解釈して伝えざるをえなくなる。
六「不安定な神託」
ついにはそれすら難しくなる。神の声はときどきしか聞かれなくなり、神懸かりになった神託者は奇矯な振る舞いをし、解釈も不可能になる。こうして神託の歴史は幕を閉じる。

神託が最後まで生き残った場所はデルポイでした。

「憑依」とは(p411)
ジェインズは〈二分心〉の一般的パラダイムを〈二分心〉の名残りと呼んだ。『意識の範囲の狭まった、あるいは意識を喪失したトランス状態は、少なくとも神託の第四段階移行については〈二分心〉とまったく同じとは言えない。この段階以降は、神託を告げる者もその言葉も完全に神の側に支配されており、本人は何が起きたのかを後から思い出せない。(p411)』こうした現象を「憑依」といいます。

憑依と脳(p411〜428)
憑依が突きつける問題は大昔の神託に限定されず、現代でも起きているし歴史を通して起きてきました。『メソポタミアやイスラエル、ギリシアを放浪した預言者達の少なくとも一部は、たんに幻聴で聞いた神の声を伝えていたのではなかったと思われる。預言者の発声器官から神の言葉がじかにきこえてきて、預言者自身は自分が何を話していることすら自覚できない上、後になっても何も覚えていないのだ。(p411)』
これを意識の喪失と呼ぶとすると、これは意識の喪失ではなく、別の新しい意識に置き換わる現象と言えないだろうか、とジェインズは疑問を投げかけました。
憑依の問題について、ジェインズは次のように述べています。
『憑依された預言者が語る言葉は、厳密な意味での幻聴ではない。意識があるにせよ、なかばないにせよ、あるいは本格的な〈二分心〉時代のように完全に意識がないにせよ、声はその人間だけに聞こえるのではないのだ。外に向かって語られ、本人以外の複数の人間がそれを聞く。憑依されるのは正常な意識を持つものに限られ、憑依が起きている間、本人は意識を失っている。(p414〜415)』
〈二分心〉で聞いていた幻聴と憑依による発話という二つの現象が関連している理由について、ジェインズは次の三つの点で関連が認められないだろうか、としています。
(一)どちらも社会において同じ機能を果たしている。
(二)どちらも同じように、権威ある言葉を伝える。
(三)初期の神託についてわずかに明らかになっていることから見て、特定の神託地については、もともとその場に居合わせた誰にでも神々の声が聞こえていたのが、しだいに少数の特別な人間が神に取り憑かれる状態へと変化したと考えられる。
『だとすれば、憑依とは〈二分心〉が姿を変えたもの、〈二分心〉から枝分かれしたものということだけは言えそうだ。誘導の儀式と、集団内で強制力を持つ独特の共通認識と、訓練によって身につけた期待とが相まって、特定の人物の精神が、〈二分心〉の神の側に支配されたように見える状態を生んだのだろう。古い精神構造を呼び戻すためには、しだいに発達してきた意識をこれまで以上に消し去って、人間の側の働きを抑える必要があったのかもしれない。その結果、神の側が発話そのものの主導権を握るようになったのだ。(p415)』

こういう精神状態の時、脳の中では何が起きていたのかについて、ジェインズは次のように触れています。
『第一部第五章に示したモデルを踏まえるなら、憑依の最中には両脳半球の優位性のバランスが乱れ、右半球の働きがふだんよりいくらか活発になっていると考えるのが自然だ。では、デルポイの巫女が神懸かりになったときに頭皮に電極をつけたら、右半球、とくに、右の側頭葉のあたりでの脳波の動きが速く(したがって、働きが活発に)なっていて、憑依との相関関係が見出だせるだろうか。(p415〜416)』
おそらく見出だせると思う、とジェインズは言っていました。少なくとも、両半球の優位関係が変化している可能性がある、と。『巫女になるための訓練としてまず行うのは、「誘導」の手順がもたらす複雑な刺激を受けて左半球よりも右半球を多く働かせることだとも考えられる。巫女が顔を歪めたり、狂乱の態となったり、眼振を起こしたりするのも、右半球が異常な干渉をするから、左半球による抑制が解かれて右半球が自由になるからだとすれば説明がつくのではないか。(p416)』

そしていくつかの憑依の例に触れ、考察を展開したあと、ジェインズはこう述べています。
『以上のことから、人間の神経系について重要な、しかし気がかりな問題が浮かび上がってくる。私は第一部第五章の脳神経モデルが的外れでなかったのは確かだとおもう一方で、本書の考察はモデルからどんどん離れていっている気がするのだ。現代の憑依現象すべてにおいて、右半球の言語中枢が「明瞭な」発話そのものにかかわっていることはまず考えられない。医療の現場で得られた数々の事実から見ても、そうしたことが起こるのはきわめて稀な症例だけだろう。
むしろ、〈二分心〉と現代の憑依とでは、脳内で別のことが起きていると考えたほうがよいかもしれない。前者の場合は、実際に右半球で言葉が形作られて右半球から幻聴が聞こえていたが、後者の場合は、通常どおり左半球で明瞭な言葉が組み立てられて、それを右半球が操っている、あるいは導いているのではないだろうか。言い換えれば、ウェルニッケ野に相当する右半球の領域が、左半球のブローカ野を働かせることによって、トランス状態と人格喪失を引き起こしているのだ。このように、脳内で左右の境界を越えた制御が起きることが、正常な意識を失うという現象の根底にあるのかもしれない。(p427〜428)』

【上記を踏まえた、憑依と憑依中の意識についての考察】

脳科学的側面からの考察では、憑依中の意識については「多少の意識はありそうだけど、神の視点……もしくは夢の中で自分を離れた視点から見ているような感覚に近いのではないか」という風に述べていました。
神々の沈黙における憑依のニュアンスを考えると、砺波に憑依されている時はトランス状態(=意識の希薄化や喪失、アナログの〈私〉の希薄化や喪失を特徴とする状態)と人格喪失を引き起こしているのかなと考えることもできそうです。意識は希薄化されていたのか完全に喪失していたのかについては、煇の発言だと前者な気がしますが判断が難しいです。「神託を告げる者もその言葉も完全に神の側に支配されており、本人は何が起きたのかを後から思い出せない」「憑依が起きている間、本人は意識を失っている」などの記述から考えると、憑依中は意識がなく、憑依が終わった後には憑依中の記憶はなく思い出せない、という可能性も考えられます。このあたりは、制作陣が現代医学の側面と神々の沈黙のどちらに重きを置いて設定を考えたかによりそうです。
※アナログの〈私〉:自分自身の比喩。「想像」の中で私たちの代わりに「動き回り」、私たちが実際にはしていないことを「する」(p83)。

そして〈二分心〉でも(現代の)憑依でも、右半球のウェルニッケ野と左半球のブローカ野がそれぞれ関わっていて、いずれにしても右半球のウェルニッケ野が主導権を握っていることには変わりなさそうです。
そこでふと思い出したのが、ディバイダーがオーバーロードした後、煇と砺波が煇の身体で闘っていたシーン。オーバーロード後に制御を取り戻した右手で銃を撃とうとする煇を、砺波は左手で止めようとしていました。左半球(人間)が操る右手vs右半球(神)が操る左手の構図。右半球のウェルニッケ野に近いディバイダー③の主導権が、ギリギリまで砺波(神)側に残っていたのかな、なんて見方もできるのかなと思いました。単に煇が右利きだっただけのような気もしますが。
ちなみに「オーバーロードした!」って言っている時に左目の色が変わっていて憑依が起きていることを表していましたが、左右の目の支配については、これまでに紹介した脳の半球と身体の左右と同じ考え方ができないので掘り下げません。演出かな〜くらいに考えています。すみません。

以上追記考察でした。(殆どが本の内容の紹介じゃないか!しかも追記が本編の倍!)
引用ベースとはいえ個人の解釈ですので、一つの解釈として楽しんでいただけていたら幸いです。
ここまで本当にありがとうございました!
感想、意見、疑問ありましたらコメントやリプ等いただければ幸いです。

神々の沈黙では、古代文明や神、哲学、宗教、脳科学、心理学と多岐に渡る要素を含めて、意識に関する仮説と考察が展開されています(全部は読めてません(!)が多分そういう本です)。PSYCHO-PASS抜きにしても面白いので興味ありましたらぜひ!

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