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とある若頭の高校生活②


○○が乃木高に転校してきて、早くも一ヶ月が経った



○「宿泊学習?」


日「うん、毎年3年生が受験に向けて気持ちを高めるっていう名目で行ってるんだ。って言っても1泊2日だし、単純に仲を深めるっていう目的の方がメインみたいだけどね」


○「へぇ、まあ教室で小難しい授業受けてるよりはよっぽど楽しそうだな」


日「それでそのグループを今日決めるみたいなんだけど、それが本当憂鬱で…」


○「あー…お前いじめられっ子だもんな」


日「"元"だよ!〇〇だって他に友達いないだろ!」


○「へっ、言うようになったじゃねえか」


あの一件以来ぐっと仲良くなった二人であった



その日のホームルーム、グループ決めの時間となった


○「なんでわざわざ男女混合なんだ?」


日「向こうで料理作ったりもするみたいだからね。材料運んだりとかの力仕事もあるみたいだし、それでじゃないかな?」


○「ふーん、なるほどね。勇紀は女の友達とかっていんのか?」


日「一応いないこともないんだけど、ちょっと問題があるんだよね…」


勇紀の視線の先を見ると、大勢の男子生徒が群がっている女子生徒二人の姿があった


日「あれの片方が僕の幼馴染の白石麻衣。見ての通り男子から人気で、噂ではファンクラブまであるらしいよ」


○「ファンクラブ!?そりゃ凄えな。…もう一人は…あぁ、隣の席の女か」


〇〇が言ったもう一人とは生田絵梨花


以前〇〇に教科書の読む場所を教えてくれた女子生徒である



○「…んで、問題ってのはなんなんだ?」


日「あー、それはね…」


〇〇と勇紀が話をしていると、人気者二人が近付いて来た


白「私たちも二人のグループに入れてもらえないかな?」


日「いいけど、二人ともあれだけ誘われてたのに、なんでわざわざ俺たちと?」


白「幼馴染のあんたがいた方が楽だし、それに絵梨花が設楽くんと仲良くなりたいっていうからさ」


生「ちょ、ちょっとまいやん!」


話に付いていけず一人ぽかんとする〇〇


生「設楽くん違うんだよ?変な意味じゃなくって、その…」


〇「?生田さんとは俺も仲良くなりたいと思ってたよ。授業中助けてもらったしな」


平然とそう言い放つ〇〇に、生田は顔を少し赤らめる


白「(…ねぇ、もしかして設楽くんって物凄い鈍感?)」


日「(うん、おそらく)」


○「何二人でコソコソ喋ってんだよ。そんなことより、クラス中の男子はなんでこっち睨んでんだ?」


日「それが僕が言おうとした問題ってやつ。人気者二人と、元いじめられっ子+超絶馬鹿の転校生が一緒だからね。嫉妬ってやつだよ」


○「なるほどねぇ… っていうかお前さらっと超絶馬鹿とか言いやがったな、殺す!」


勇紀にヘッドロックを決める〇〇を見て、白石と生田は楽しそうに笑っていた



白「絵梨花、良かったね、設楽くんと同じになれて」


生「え、いや別にそんなんじゃないから!なんか他の人とは雰囲気が違うなーって思っただけで…」


白「ふーん、そっか(笑)まあでも、なんか楽しくなりそうだね!」


生「…うん!」

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そして宿泊学習当日


日「おはよう。ちゃんと荷造り出来た?○○そういうの苦手そうだけど」


○「ああなんとかな。組の…ゔんっ!…家族が手伝ってくれたよ」


危うく口を滑らせそうになる〇〇だった


白「二人ともおはよ!」


日「おはよう。あれ、生田さんは?」


白「まだ来てないみたい。あの子ああ見えて結構ガサツだから、もしかしたら朝になって慌てて荷造りしてるのかも」


○「意外だな、あんまそうは見えないけど」



生「はあ、間に合った〜!みんなおはよ!」

噂をすればなんとやら、生田もやって来たようだ


白「遅いよ絵梨花〜、遅刻ギリギリだよ?」


生「ごめーん、朝になって慌てて荷造りしてたら遅くなっちゃった」


白「ふふっ、ね?言ったでしょ?」


完全に白石の予想通りだったことに、三人は顔を見合わせて笑った


生「ちょっとー、なんで笑ってるの?ねえー!」


生田だけは頬を膨らませて不満そうにしていた


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出発の時間になり、〇〇は座席に着く


白「設楽くん、隣いい?」


○「お、白石さんか。もちろん」


白「ありがと。…もしかして、絵梨花が隣の方が良かった?」


○「え…なんで生田さん?」


〇〇はキョトンとしている


白「…いや、なんでもないよ(はぁ… こりゃ本物の鈍感だわ…)」


バスが出発し、話に花を咲かせる○○と白石

白「…へぇ、二人はそうやって仲良くなったんだ」


○「あぁ、あいつがいなかったら俺は未だに一人だったかもしれないな」


白「勇紀はね、小学校の時によく男子にいじめられてた私をいつも助けてくれたの。喧嘩なんて出来ないのに、それでも向かっていってさ」


○「へぇ、その頃から無鉄砲なやつだったんだな」


白「そんな勇紀があんなに楽しそうにしてるの、久しぶりに見たかも。設楽くんのおかげなのかな、ありがとね」


〇「俺は何もしてねえけど… っていうか白石さんってさ、勇紀のこと好きなのか?」


白「は!?なんでそうなるの!?」


〇「いや、あいつの話してる時凄え優しい表情してるからそうなのかなって」


白「そ、そんなわけないでしょ!ただの幼馴染よ」


○「なんだ、俺の勘違いか」


白(なんでそれが分かって自分のことには気付かないのよ!)


人のことにはなぜか鋭い〇〇であった



そうこうしているうちに、バスは目的地の施設に着いた


衛「それじゃあ荷物を置いたら、昼食を各グループごとに作ってもらうのでまた集合してください!」


生徒たちは部屋に荷物を置き、再び外の調理場へと集合した


○「俺、料理なんかしたことないんだけど」


〇〇たちのグループは白石以外ほとんど料理した経験が無かった


白「まあ、今回作るのってカレーだし、そんなに難しくないんじゃないかな。私と絵梨花でルー作るから、二人はご飯の方お願い!」


○「了解」



○○と勇紀は慣れないながらも米を炊く作業に入った


○「それにしても、鍋で米を炊くなんて初めての経験だな」


日「僕は中学の調理実習以来かな?でもこういうのってなんか楽しいよね」


○「そうだな、確かに悪くないかも」


日「カレー作ってる二人はどうかな?」


白石は普段から料理をしているらしく、手慣れた手つきである


しかし生田を見ると、包丁の使い方が非常に危なっかしく、添える手も猫の手になっていない


○「いや危ねえって!」


あまりの手つきに見ていられず、◯◯は生田の元へ駆け寄った


○「生田さん代わって、俺がやる」


生「え、でも設楽くん料理できるの?」


〇〇は黙って頷く


包丁を握った途端に目付きが変わり、達人のような速さで食材を切り終えた


生「凄い」


日「〇〇やば…」


予想外の包丁捌きを見せた〇〇


○(刃物の使い方は昔から親父や岡田さんに叩き込まれてるからな。まさかこんな使い方するとは思わなかったけど)



四人「いただきます!」


日「うん、美味しい!やっぱ麻衣って料理上手いよね」


実際このグループが無事にカレーを完成出来たのは白石の功績が大きい


白「そんなことないよ!でも確かに、こうやってみんなで作って外で食べるご飯って美味しいよね!」


○「うん、美味い。たまにはこういうのも悪くないな。それでなんで生田さんは元気無いんだ?」


白「自分が思ってた以上に料理が出来なくてショックなんだって」


生「…おかわり」


日「食べるの速っ!」


○「凄えな、あの細え身体のどこにそんな入るんだよ」


生「…ごちそうさまでした。今日はこれくらいに抑えとこうかな」


とか言いながらもペロリと三杯をたいらげ、食べ終わる頃にはすっかり機嫌も直っていた生田であった



片付けが終わり、それぞれ談笑をしていた


○「確かこの後は山登るんだっけか?」


日「うん、山頂に学問の神様が祀られてる神社があって、お参りして下山したら今日は終わりらしいよ」


○「面倒くせえけど、まあ勉強よりは全然ましか」


白「それにしても、ちょっと雲行きが怪しくなってきたね」


生「天気予報では晴れだったんだけどね」


日「雨が降ってきたら大変だし、なるべく急ごうか」



グループごとに少し時間をずらしての出発で、〇〇たちのグループは最後の出発だった


2時間ほど歩き、〇〇たちは無事に頂上に着いた


お参りを済ませ、現在下山している途中であるが、生田の様子がおかしく明らかに遅れている


○「生田さん、ちょっと足見せて」


生田が足を見せると、足首が真っ赤に腫れ上がっていた


白「ひどい…」


○「いつからだ?」


生「行きの最後の方… でも全然大丈夫だから!」


日「いや、かなり腫れてる。むしろよく今まで歩けてたくらいだよ」


〇〇は生田の前にしゃがみ込んだ


○「俺がおぶって行くよ。二人は先に戻って怪我人がいるってことを伝えてくれ」


日「でも…」


○「いいから。生田さんをこの足で歩かせるわけにもいかねえだろ。俺は大丈夫だから、な?」


日「分かった。無理しないでよ」


勇紀と白石は、二人の荷物を持って先に下山していった



生「ごめんね設楽くん。私のせいで…」


○「気にすんな。馬鹿だけど体力だけはあるんだ、これくらいどうってことねえよ」


生田を背負い下山する〇〇だが、ここで心配していた事態が起こる


○「くそっ、降って来やがった」


初めは弱かった雨はあっという間に勢いを増し、容赦なく二人を打ち付ける


○「生田さん、これ被ってて。無いよりはまし程度だと思うけど」


〇〇は自分のジャージを脱いで渡すが、生田はなかなか受け取らない


○「暑かったからこれで丁度いいくらいだよ。俺は大丈夫だから」


そう言って無理やり被せる


生「ありがとう… 本当にごめんね」


○「いいって、それじゃ行くぞ」


下山の方が楽だとはいえ、普通に登って二時間掛かる道を人一人担ぎながら、それも足元が悪くなった道を歩くのは決して簡単なことでは無い


生田に心配を掛けまいと強がってはいたが、雨に打たれていることもあって確実に〇〇の体力は削られていた


○(組長になるためだけに学校行ってるってのに、なんでこんなに頑張っちゃってるんだろうな…)


日村との出会いや、今回一緒になった二人との関わりを通して、〇〇は変わりつつあった


「人を思いやる心」


力によって相手を支配することしかしてこなかった〇〇にとって、これまでには無かった感情である


○(ふぅ… 頼むからもってくれよ…)


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その頃、宿泊施設では


先に到着した勇紀と白石が先生に事情を話したが、この天気の中動くのは危険なため待機することになった


それにしても明らかに遅く、二人が到着してからもう一時間が経過した


衛「私、やっぱり探しに行くわ。この天気の中怪我人を背負って帰って来るなんて無茶よ」


白「ダメですよ!この天気、先生が行っても二次災害が起こりかねません」


衛「だからって、このままじっとなんて出来ない。生徒を守るためにそんなこと言ってられないでしょ。私、行くわよ」



〇〇たちを探しに行くため、施設を出て行こうとする衛藤




「…その必要はないですよ、先生」



そこには、生田を背負った〇〇が、ずぶ濡れで立っていた


日「○○!」


衛「なんて子なの、あの山道を本当に人一人背負ったまま帰って来るなんて…」


結局〇〇は、生田を背負ったまま2時間以上に渡って歩き続けた


衛「設楽く…」


○「…先生、生田さんの怪我見てやってください。頂上で見た時かなり腫れてたから、結構ひどいかもしれない。俺は大丈夫です」


衛藤の言葉を遮って〇〇はそう言った


衛「…分かったわ。生田さん、行きましょう」


生田は衛藤に連れられて救護室へと向かった



日「○○、大丈夫?」


○「…はは、悪い勇紀、さすがに限界だわ…」


〇〇は壁にもたれかかってそのまま座り込んでしまった


白「凄い熱!勇紀、先生呼んで来て!」


日「分かった!」



◯◯が目を覚ますと、救護室のベッドの上だった


衛「よかった、目を覚ましたのね。まったく、無茶し過ぎよ。あなたあれからずっと寝てたのよ」


時計を見ると、時刻は23時過ぎを指していた


帰って来たのが18時頃だったため、5時間以上ずっと眠っていたことになる


○「っていうか先生、ずっと付いててくれたんですか?」


衛「ついさっきまでは日村くんもいてくれたわ。『朝までいます!』って言ってたけど、消灯時間も過ぎてたしさすがに部屋に戻らせたわ」


○「勇紀が…」


衛「…あなたのイメージが少し変わったわ。正直、転校して来た時は少し冷めた印象を受けたけど、友達のためにここまでするなんてね」


○「変わった…んですかね。自分じゃあんまり分かんないです」


衛「意識もはっきりしてるみたいだし、とりあえず大丈夫そうね。私も部屋に戻るわ。明日は休んでていいから、出発までここで寝てなさい」


○「…うっす」


そう言うと衛藤は部屋を出ていった


日村が荷物を運んでくれていたため、〇〇はシャワーを浴びて着替え、再び眠りについた

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次の日


○「休んでろって言われたけど、もう身体もなんともないし暇なんだよなー」


コンコン


救護室のドアをノックする音がした


○「どうぞー」


入って来た人物の足には包帯が巻かれていた


○「あ、生田さん。怪我はどう?」


生「うん、結構腫れてるけど骨には異常なさそうだって」


○「そっか、そりゃ良かった」


生「昨日は本当にありがとね。設楽くんがあの後倒れたって聞いて心配だった」


○「あー、大したことねえって。ちょこっと疲れただけ」


生「…優しいね。あの時も自分が辛いのにずっと声掛けてくれてたし」


○「…そりゃあれだよほら、話し相手が欲しかっただけだ」


生「私、重くなかった?」


○「いやめちゃくちゃ軽かったわ」


生「嘘だ、重かったでしょ?」


○「じゃあ重かった。大盛りカレー3杯分」


生「あ、ひどい!設楽くん最低!」


○「生田さんが言ったんだろうが!」


生「っていうか、いつまでさん付けなの!?」


○「そっちだってくん付けだろ!」


生「〇〇!」


○「なんだよ!絵梨花!」


生「…ふふっ、なんかおかしいね」


〇「…ああ」


思わず吹き出してしまう二人


この宿泊学習を通して、ぐっと距離が縮まったようである


そして自分の心の中に芽生えつつある感情が何なのか、〇〇はまだ知らなかった

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帰りのバスの中、〇〇と絵梨花は何も言わず自然と隣の座席に座った


バスでも先程までのように楽しそうに話している


日「なんかあの二人凄い仲良くなってない?」


白「吊り橋効果ってやつなのかな?まあ、絵梨花の方は元々気になってたみたいだけど」


日「グループ決めの時も思ったんだけど、なんで生田さんが〇〇を?」


白「ほら、絵梨花って凄く純粋な子だからさ、設楽くんの他の男子とは違う独特な雰囲気に惹かれたみたい」


日「あー確かに、それは僕も何か分かるような気がする。不思議だよね、〇〇って」


日「あっ、あれ」


白「わお、本当に仲が良いこと」


勇紀が指差した方向には、絵梨花の肩に顔を預けて眠る〇〇と、〇〇の頭に顔を預けて眠る絵梨花の姿があった


日「…寝かしといてあげよっか」


白「…そうだね」


こうして、〇〇にとって初めての行事である宿泊学習は無事に終わりを迎えたのだった

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