※ 当たり前のようにネタバレを含みます

・最近、本を読むことにハマっている。
以前読んだ吉本ばなな氏の『はーばーらいと』は書店で偶然見つけて手に取ったが、本書は前評判を聞いた上で書店に向かった。

・『母という呪縛　娘という牢獄』というタイトルの通りの事が終始記載されている本書。
2018年3月に実際に起こった事件の話で、医学部9浪の娘が母親を殺害しバラバラにして遺棄したというもの。

・娘であるあかりが、1人で思い詰めてしまった事が本当に不幸でならないと思った。きっと優しいんだろうなと思う。母の執着と束縛を受け入れ、30年以上も我慢し続けられるくらいには。

・私は理解できない。幸せなので。
でも解ろうとすることはできる。母がいるので。

・私は母の立場は未経験なので、経験がある娘の立場であかりの気持ちを考えてみる。幼い頃から選民思想（公立中学は馬鹿、医者は偉い）を植え付けられ、職業選択の自由はなく、不満を言うことは禁じられ、成績が追いつかないことを本人の努力不足だと決定づけられる。

もうこの辺りから厳しい。

そもそも選民思想なんて持っていて何一ついいことはない。そんなもんを思考の上の方に置いていると、相対する人の中身がわからない。立派な学歴と社名を保有していても中身が終わっている人なんて山のようにいる。

「不満を言うことは禁じられ、成績が追いつかないことを本人の努力不足だと決定づけられる」
この厳しさを受け入れるには、母と娘という関係値は辛すぎる。他人ならいざしらず、実の母に言われると、優しい娘にはどうしようもできない部分だっただろう。
もっと偏差値を上げ、母の期待に応えたいと頑張るのに、頑張りすら認められなかったら何をしたらいいのか。

・母の頭でっかちに振り回され続けた娘…なのかもしれないが、この本の言い分を信じるなら、母は何かしらの医療にアクセスする必要があったのかもしれない。メニエールとかじゃない種類の何かがあったかもしれない。そしてここまで放置されてしまった事を重大な問題としなければいけない気がする。

・それとも母は、自分の成し得なかったことを娘に重ね強要したのか？

…それなら何となく腑に落ちる。
祖母（あかりから見た場合であり、あかりの母から見たら母親）は、アメリカで裕福に暮らしている（アメバアと呼ばれているのはウケる、何なんだその呼び方）。配偶者は歯科医。

一方、娘である自身はビルの管理会社に勤める冴えない（私はそんな事ないと思う）男と結婚。名前を書けば入れる様な大学出身（と旦那のことを罵る）。
パートも人間関係がうまくいかず辞め、もう娘を育てていく事にしか可能性を見出せなかったのだろう。娘が国立医学部に合格して、周囲の鼻を明かしたかったのでは。滋賀大の医学部医学科が無理なら京大の看護でもいいから入れ、そこで妥協してやる、と言い放つ場面があるが、入試難易度が正しく理解できていない様に見受けられる。

・母としても決して幸せな半生では無かっただろう。子どもを育て上げ、程々に自立してくれたら自分の好きなこともっとできるじゃん。なんでそこまで構うかな。暴力を振るって言いたいことを言うのはそんなに楽しいのか？私はやったことないけど後戻りできなくなるくらい気持ちいいんか？そこまで落ちたら知能のない動物と変わらんけど。

・唯一救いだな、と思った部分は、事件を裁く中で出会う人にあかり自身の気持ちを『理解される』場面が訪れること。
まさか理解されるとは、と衝撃を受けていることで、あかりがどれだけ孤独に耐えてきたのかがわかる。
でも、その理解される場面が訪れるのが遅すぎた。母親をバラして埋めないと、その人たちに辿り着けないの大分ハードルが高い。
父親だけは、頑張ればそれなりに話せたのではと思うが母親が暴れまくってる以上難しいか。

・人って置かれた環境そのものだなとつくづく思う。説明したいけど、言語化できるようで、私には難しかった。親の収入とか、教育・文化へのアクセスとかそういうのを言いたいんじゃなくて…
自分自身がここを居場所と思える面積について話をしたい。難しいよぉ…助けてタローマン！（ここでNHKが誇る大人気キャラクター登場）

・この本は暫く辛いな…という場面と気持ちの吐露が続くが、最後はちゃんと僅かばかりの未来が見える。教誨師の話しを通してキリスト教に関心を持ったりしている。
そして最後にはこう綴られている。
－ 刑期を終えたら、世話になった父や、弁護士の先生や、高校の先生にお礼の気持ちを伝えたい。
　そのときはお酒も少し、飲んでみたい。
　それがいまの、ささやかなのぞみだ。

このささやかなのぞみが、ちゃんと受け入れられますよう。