CASE 7 東郷清丸 前編


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 こんにちわ!久々のDONCAMATIQは、良質なポップソングを次々と生み出し続けるメガネと赤がトレードマーク、東郷清丸さんです!コロナ禍のインタビューはリモートで。ついついお話し過ぎてしまい、今回も前編と後編にわけてお届けします〜!

モニター要塞。良い環境を手に入れた!

(画面越しに)すごいですね。モニタースピーカーがたくさんあるようですが……。

東郷清丸(以後、清丸) はい、今はたまたまいっぱいあって……。えっと、ちょっとこの設備について勝手に話しはじめちゃってもいいですか?

 ありがとうございます。ぜひ聞かせてください。

清丸 えっと……、元々僕が制作で使っていたのはPCとハードオフで買ったYAHAMAのモニタースピーカーだけだったんですけど、少し前にこの古い民家に引っ越して来たんです。ここのオーナーさんが音響好きで、趣味の家として使っていたらしいんですが、使わなくなったので人に貸すことにしたっていう場所で。結構ラフな方で、オーナーさんがここで使っていたモニタースピーカーを、「もう売っても捨ててもいいから」って言って置いていってくれたんです。だから大きいものから小さいものまでいっぱいあるんですよ。

 へー!そうなんですね。それは良い場所に巡り会えましたね。

清丸 はい。置いていってくれたものを繋いで音を出してみたら、「低音ってこんなあるんだ」って思ったりして発見がありました(笑)

 良いですね。うらやましいです。

清丸 状態が良い物というわけではないし、音がすごく良いかと言うとそうでもないと思うんですけど、でもモニタースピーカーが大きいだけで知らなかった低音が見えるなあと思って。こんなに違うんだって思いましたよ。

 それは良かったですね〜。

清丸 ただ、すぐ側を東急東横線と目黒線が走ってて。だから音を録るのにはあんまり向いてないんですけど、多少大きい音を鳴らしても大丈夫。特に日中は大丈夫ですね。

 いいなー音が出せるのは本当にうらやましいです。過去のインタビューでもそこで苦戦している人、ほとんどでしたよ。

清丸 僕も音を出してみてビックリしました。今までヘッドフォンでしか音楽を聴いたことなかったので。

 色々面白そうなので、この流れで機材のことを伺っていっても良いですか?

清丸 はい。

 SoundCloudなどに公開している音源は結構打ち込みが多いですよね?あれは全て『Native Instruments Maschine MK3』とのことですが……。

清丸 全部『Maschine MK3』です。はい。今はほとんど『Maschine MK3』を使ってます。DAWも。

 あ、DAWも『Maschine』を使っているんですか?

清丸 はい。今はほとんど『Maschine 2.0』で。えーっと、あの、どうしよう、昔からちょっと遡っていいですか?

 あ、ぜひぜひ(笑) 楽しいです。

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バスケ少年東郷清丸、音楽への道

清丸 高校生の時にバンドを始めたんですが、入学祝いで8トラックのMTR『ZOOM MRS-8』を買ってもらったんです。

 入学祝い!

清丸 はい(笑) ただ、買ってもらったんですけど、当時の僕はMTRが何なのかってそんなに良くわかってなかったと思います。「なんか録音ができるらしい」ということだけは知ってて。

 ほおー。

清丸 買ってもらったMTRはパッドも3×3くらいで付いていて、自分でドラムのシーケンスを組めたんです。1トラック自分で作れて、キャノンもフォンも2系統入力があって、ていうやつで、最初の頃は使い方を学ぶためにアジカンの曲を自分でコピーするっていうことをしてました(笑)

 えらい。

清丸 友達とコピーバンドも組んでたので、そこでも使ってみました。それがー、2008かな?2006年くらいですね。

 MTRの存在は、どういう経緯で知ったんですか? 作曲がしたくて調べたとか?

清丸 うーん、自分から親に「入学祝いで欲しい」って言って買ってもらったはずなんですけど、なぜそこにたどり着いたのがはっきり覚えていなくて……。多分、『BUMP OF CHICKEN』とか『ASIAN KUNG-FU GENERETION』が好きだったので、インタビューとかラジオで「最初はレコーダーを買ってどうのこうの」みたいな話していたのを聞いて知ったんだと思いますね。

 あ〜、なるほど〜。

清丸 高校生になってコピーバンドをする前までの僕は、ずっとバスケをやっていて、高校でもバスケ部に入ってバスケをやっていくつもりだったのが、引っ越しの時に親のギターが出てきて。その時「あ、ギター面白そう」と思ったんですよ。元々音楽も好きでしたし。合唱とか。

 ふむふむ。

清丸 当時はバンプとかアジカンにドハマリしていたので、親のギターを使って教本片手に彼らの曲を練習して、それが助走のような感じになり、友達とバンドを始めました。

 バスケ部はやめて、軽音楽部に入ったんですか?

清丸 そうですそうです。だからMTRを買ってもらった時は、録音がどんなものかなんてよく知らずに音楽を始めました。

 そうなんですねー。その後高校3年間は軽音楽部でバンドを続けて?

清丸 そうです。皆で演奏することだけを続けてました。それで、まあ高校生活は終わるんですけど……やっていくうちに機材への興味はどんどん湧いていったので、軽音楽部の中にある機材だけで、どこまでデカい音が出せるのかチャレンジしたりしてました。

 なんだか楽しそうですね(笑)

清丸 文化祭だと、体育館で演奏できたりするんですけど、生音プラスPA通したヴォーカルマイクの音だけだと、体育館で音を出すには全然物足りないんですよ音が。っていう先輩たちのライブをみて、なんかちょっとやだなーと思ったことからデカい音を出すチャレンジは始まりましたね。PAの本を買ってみたり。(『PA入門 基礎が身に付くPAの教科書』)

  えー!ははは、そっちですか(笑)

清丸 「これ誰も使ってないけど、隅っこの埃かぶってるのはパワーアンプじゃないのか?!使ってみよう!」みたいな。

 (笑)

清丸 っていうので色々研究した結果、自分が3年生の代で一番デカい音を出すことに成功して、アンコールをやってる時にスピーカーから煙が出るっていう事件がありました(笑)

 えー、漫画みたい。本当にそういうこと起きるんですね。

清丸 煙が出て焦げ臭くなって、先生から滅茶苦茶怒られて(笑)

 そりゃそうでしょう(笑) でも、MTRにしても爆音にすることにしても、飛び込む思い切りの良さがとっても清丸くんの良いところって感じがします。

清丸 そうですね、まずやってみるっていうことは大事にしてます。

 煙事件の時は、清丸くんがPAをやったんですか?

清丸 そうです。本を読んで学んだことをやってみるっていう。

 すごい。良い高校生ですね〜。

清丸 PAとかマイキングの本とか読んでました。

 清丸くんは、作曲やレコーディングの方よりも先に、PAやエンジニア的なことに興味があったんですね。

清丸 はい。友達のバンドがライブをする時に、僕が思う良い感じに整えてみたりとかしてました。そういうことが好きだったんです。でも、僕以外音のことに誰も興味が無いから、ありがたがられることもなかったですけど(笑) そんな感じでやってましたね。

 面白い高校生だ……。

バンド青年東郷清丸、さらなる精進への道


清丸 大学行って、大学でも軽音楽部入ったり、高校からバンドを一緒にやってた友達とライブハウスに出始めたりとかして。

 その頃のバンドの編成は?

清丸 最初は3ピースでしたね。僕がギターヴォーカルで、『Analogfish』とか『eastern youth』みたいなことをやろうとしてました。

 それは、オリジナル曲ですか?

清丸 あ、オリジナルで、はい。実は『出れんの!?サマソニ!?』に出演しました。

 あっ、そうなんですか!

清丸 2010年です。

 2010年、なんというバンド名で?

清丸 はい。そん時は、『MICANN』っていうバンドだったんですけど、『太平洋不知火楽団』とか『THEラブ人間』とかも出てました。

 へえ〜!

清丸 そう、その年に出てたんですよね。

 すごい、やっぱりお友達からは驚かれたんじゃないですか?

清丸 出れるとそうですよね。『太平洋不知火楽団』なんかはFUJIROCK FESTIVALの『ROOKIE A GO GO』も出てたので、なんか二冠みたいな感じで。

 もうその頃には将来音楽をやってきたいと思っていたんですか?

清丸 その時はもう、やってくだろうと思ってたんですよね。

 おお。

清丸 はい。でも、ただそう思ってただけなので、どうしていくかとかは全然考えてはなくて、結局大学を卒業する頃までノープランでした。

 なるほどー。

清丸 今は普通ですけど、その頃は学生とかが気軽に音楽イベントを企画したりする、多分ちょっと前夜みたいな時で。ライブハウスもまだノルマ取って当たり前でしたし、そこでバンドを育てて育ってみたいな……。

 うんうん。

清丸 そういう空気があったんで、ノルマをめちゃくちゃ払ってましたね。

 はははは(笑)

清丸 はははは、ノルマ貧乏だった(笑) バンド三昧で、ノルマをめっちゃ払ってたから、すげえバイトしてるのにお金がないみたいな状態。

 はいはい(笑)

清丸 だから機材の話に戻るんですけど、録音ってマイクを買うとか、色々お金かかるじゃないですか。だから、全然そっちの方向に思考が行かなくなってしまって。バイト代はスタジオ代かノルマ代かみたいな感じだったんで。

 皆、涙を飲んで支払っていた時代がありましたね……。

清丸 レコーディングをお願いしてやってもらったことはあったんです。レコーディングスタジオに行って。地元に面白いエンジニアさんが構える個人のスタジオがあったんで、そこへ行ったんですけど、メジャーデビュー前の『パスピエ』とかがそこで録っていたりとか、そこのおじさんがすごく面白くて。

 へえ〜!

清丸 その方は録音のことというよりも、どうグルーヴを合わすかみたいな感覚的な技術を教えてくださって。「メトロノームは裏で取って体感したほうが良いよ」とか「2拍3連っていうのがあってね……」とかっていうのを、結構みっちり教えてくれて、優しい人でした。

 ああー、いいですね。

清丸 それでいよいよバンドがもっと楽しくなったこともあって、録音よりもライブばっかやってる感じになってましたね。

 ちなみにその時の録音物は販売用?ですか?

清丸 手売りしてました。だからそういうところもノープランすぎて(笑)

 聴きたかったです(笑)

清丸 「なんか音源あったほうが良いんじゃないの?」って言われたから作ったって感じでしたし(笑)

 わからないですよね。何から始めたら良いかなんて。今はネットに音源をアップして、ライブはしていなくても有名になっちゃったりするケースもありますけど。誰も教えてくれなかったしなあ〜。

清丸 そうそう。一つずつやっていってどんどん楽しくなりました。

 ザ・バンドって感じですね。その後はどうなったんですか……?

清丸 えーっと、実はMTRをもう一回買ったんですよ。中古の『YAMAHA AW-16』。エフェクトも内蔵で、当時すでに、その頃2011年、12年?くらいなんですけど、もうその時点で相当古い。

 2002年とかの製品ですかね……?

清丸 そうだと思います。で、それと、別に使わないけど、今でも持ってるこのドラムマイクセット、『AKG DRUMSET SESSION I』。一番安いやつ。

— え、なんでドラムマイクセット?(笑)

清丸 2012年だか13年に買いました(笑) ノルマ地獄でライブをただ闇雲にやってた時期を経て、大学卒業間近になってきたらとちょっと色々考え出して。「ノルマってなんだろう?」とか(笑)

 気がついたんですね。

清丸 ははは(笑) 世間的にも「これって、なんか自分たちで出来ること多くない?」みたいなことに気づき始めた時期で。

 うんうんうん。

清丸 色んなバンドのセルフRECの音源が増えてきたり。当時『よしむらひらく』さんが僕すごい好きで対バンもしてたんですけど、よしむらさんが〈宅録の人〉としてVictorからリリースしたんですよ。

 すごいクオリティが高いですよね。宅録。そうか……。

清丸 そう、『宅録』っていう制作スタイルをの意識しだしたのはその時からですね。それで、自分のバンドも自分たちで録ろうと思って、入力の多いMTRの、なるべく安いものを探して買って、マイクもなるべく安いやつだけど買って、で、モニターヘッドフォンていう概念を知り……。

 一気に加速した!(笑)

清丸 ははは(笑) 

 ドラムマイクセットっていうのはそういうことだったんですね。短期間に一気に必要なものを揃えて、という……。

清丸 はい。

 その時の情報源って何でした?

清丸 インターネットでしたね、完全に。

 レビューを読んだりして?

清丸 あ、そうですね、あれば。試聴とか使用レビュー動画とか今は多いですけど、当時はそういう動画もまだなかったんで。

 そうですよね。その頃はまだDAWは検討しなかったんですか?

清丸 あ、パソコンを持ってなかったんですよね。

 あ、そうなんだ!

清丸 そうなんですよ、そう、音楽制作用のためにPCを買うのはだいぶ後だったんで。持ってたのは、卒論書く用の1円で買えたミニノートくらい(笑)

 (笑) ありましたね、そういうの。

清丸 それにその時の僕は、〈打ち込み〉も全く知らなかったので。極端に言えば、ドラムとベースとギターの音しか知らなかったようなもんですよね、ほとんど。鍵盤もシンセもよくわかってなかったんで。バンドメンバーに途中からキーボーディストの友達を招き入れましたけど、その子もその時はピアノ経験があるくらいだったから……。

 その頃、どんな音楽を聴いてましたか?

清丸 えっと、その頃は、『Vampire Weekend』『Dirty Projectors』とか『Feist』。特に『Feist』は僕、未だに一番好きレベルの好き度です。

 へー!そうなんですね。Feist良いですよね。初期のFeistの手触りがある感じ、音が完全にハイファイなわけじゃない感じが好きでした。

清丸 大学後半になってようやく洋楽を聴くようになって、作る音楽も変わりました。それと同時に「宅録をやってみたい」と思いはじめたけど、単純にバンドの曲が作れればそれで良かったので、PCとかDTMとか必要性を感じてなかったんですよね。

 バンドで演奏する範囲内だったら、実機があれば確かに間に合いますもんね。バンドの曲作りはどうやってたんですか?分担?家にメンバーが集まってとかですか?

清丸 曲は僕が全部作ってたんです。ドラムのフィルとかフレーズ、ベースラインも。

 それを、メンバーに伝える時は、どうやって伝えていたんですか?

清丸 弾きます(笑) 口伝というか実演で見せる。そうやって曲をたくさん作っていると、メンバーもその手法に慣れていたんで。

 ドラムは……?口で?

清丸 ドラムは、僕は叩くのも好きで。

 叩けるんですね!すごい。

清丸 そんな感じでやってましたね。

大学卒業後、新しいステップへ

清丸 大学卒業後、僕もメンバーも社会人になって、しばらく経ったらみんな生活が安定してきたんですけど、同時に盛り下がってきていて。元々音楽をゼロから作りたい欲求があるのは僕だけで、他のメンバーは「楽しくてやろう!」というスタンスで。まあ、それはそれで良いから、そしたら僕は別で「一人でもやってみよう」と思って。そこでやっと『MacBook Pro』と『Logic Pro』を買いました。4、5年前のことだと思います。

 あ、じゃあ本当に最近ですね。

清丸 うん、経ってないですね。今も同じのです(指差して)。そろそろ替え時だなって思いながら2年くらいは経つんですけど。はい。

 ちなみに Macだったら整備品で買ったほうが安いですし、長持ちしますよ。Macの整備品は一回不良あって戻ってきたものを入念に直した機体なので逆に頑丈みたいですよ。

清丸 それはすごいなー。チェックしてみよう。去年『SHE IS SUMMER』さんに曲を作って提供したんですけども、その時3〜4分の曲を『Maschine 2.0』で作っていて、そん時は再生中にいじるとブツブツブツ!って……。「これが僕のPCの限界かー」と思いました。

 買い換えましょう〜。メモリのほうどうですか?

清丸 今は8GBで、今のところメモリを上げたいとは思ってないんですけど、でもこの制限があるからあんま作ってないような気がする時があるというか……(笑)

Machineとの出会い

 そういえばDAWで『Maschine』を使っている人、周囲では見たことがないです。

清丸 僕もないですね(笑)トラックメーカーの人はよく使ってるイメージですが。2018年くらいに買ったんですよ。急に「もっと音楽のスケッチをたくさん作るべきじゃないか」と思って。

 それって『2兆円』を出す前ですか?後ですか?

清丸 出した後ですね。出した翌年くらいの夏かな。

 『2兆円』は収録曲数が異常ですよね(笑)

清丸 そうなんですけど、もっと作りたくて。例えば『LogicPro』のUIはタイムラインがメインじゃないですか?色々調べてみたら、セッションビューの方がどうやら自分に合いそうだと思って。それで『Maschine』に出会いました。

 そうなんですね!

清丸 あとは、とにかくパッドが叩きたかったんですよ。指ドラムで打ち込みたかったので、『Maschine』だとDAWも出来て、しかも究極PCを触らなくてもそこで完成させられるっていう手軽さが「すごい、これは良いかも」と思って。『Native Instruments』のシンセだったり、サンプルパックが一緒に付いてきて。今も音が好きだなって思いますね。

 あ、『Native Instruments』のシンセ音源が付いてくるんですか?

清丸 そうです。付いてくるやつと、あと元々入っているサンプル集の音も使い勝手も良くて。編集しなくても良い音なので、あとはフレーズを打ち込めば聴ける物になるっていう、手軽で良いんですよ。

 『Maschine』についてもっと伺いたいんですが、ちょっと『Logic Pro』を使っていた頃の話に戻りますね。『Logic Pro』最初に買ってから『2兆円』までが『Logic Pro』期、という感じですか?

清丸 そうですね。バンドメンバーがいなくても、ちょっとした音楽制作を出来たら良いだろうと思って『Logic Pro』を購入しました。プラグインを買わなくても音源が充実している『Logic Pro』が良いと思って。しばらくはバンドを仮想空間でやってる感じでしたね、自分で。

『Logic Pro』期

 ドラムの打ち込みをし始めたのも『Logic Pro』から?

清丸 そうですね。最初はMIDI鍵盤でドラムを打ち込んでました。ベースとギターは、オーディオインターフェースに直でつないで弾いて録音してました。それと、『MacBook Pro』とMIDI鍵盤をメインで使用してました。

 それらを使って、ひとりで曲を作っていたんですね。

清丸 そうです。映像のお仕事をしている友達が多かったので、たまに「音楽を作ってくれないか」っていう依頼を受けたりして制作してました。

 プロフィールを見たらすごくたくさんだったので、驚きました。

清丸 あー、そうですね(笑) 匿名な感じでもやってたので、もっとあります。

 依頼された時も、基本はベースとギターとかは生でドラムは打ち込み?

清丸 ドラム、ピアノとかオルガンの音みたいなのも打ち込みで。簡単な効果音として。

 『2兆円』って、やっぱりそう言った経験の流れでDAWの手応えというか、やっていて楽しい!という感情があって曲がどんどん出来たんですか……?

清丸 『2兆円』の後半の膨大な曲たちは、『MacBook Pro』を買ってからの集大成というか……。友達のお仕事で作らせてもらった曲もあり、友達の自主制作動画に当てた曲もあり。音源を発売する時にアルバムに収録しようと思って作った純粋なオリジナル曲は9曲です。

 あ、じゃあ全部そのために作ったというわけじゃないんですね。

清丸 そうです。あだち麗三郎さんに録音・ミックスをしてもらったけど、「せっかくだったら曲数がめっちゃ多いほうが面白いんじゃない」「これまで作った曲を集めたら、もう一枚のCD一枚分に収まるから、じゃあこれを入れよう」って、そんな感じでしたね。とっておいたプロジェクトデータを引っ張り出してきてただ書き出すっていうだけの……。

 マスタリングは?

清丸 『2兆円』はアルバムオリジナルの9曲は風間萌さんがマスタリングしてくれました。だけど、その過去の『Logic Pro』で録った曲たちはマスタリングも何もしてないですね。

 え、そうなんですね!(笑)  これまでの機材遍歴、制作方法遍歴を聞いて、それを踏まえて『Maschine』に話を戻すのですが、2ndアルバム『Q曲』や最近の作品になればなるほど、『Maschine』を使ってるのが良くわかる音楽性になっていると思いました。少ない音の組み合わせで、サスティーンやアタックを考慮することで曲を構成している印象というか……。そうなったのには、清丸くん趣味が変わるきっかけみたいなものってあったんですか?作りたい音楽のイメージが変わった、聴く音楽が変わったとか……。

清丸 そうですね。多分一番大きいのは『Unknown Mortal Orchestra』だと思います。

 アメリカのバンドですよね。

清丸 ローファイの感じがあって、ドラムがシャッフル、バンドだけど踊れる感じに感銘を受けました。それまで僕はロキノン畑で生きてきたので、8ビートでジャーンっていう感じしか知らなかったんですけど、「どうやらそういうもの以外にも沢山音楽があるぞ!」っていうことに気づいて、そのうち『Unknown Mortal Orchestra』とか大好きな『Feist』の影響で、やりたい音楽が変わりました。

 そこにシフトするタイミングが、『2兆円』を出した後?

清丸 そうですね。まあ『2兆円』を作っている時にはもうシフトしたいと思ってたんですけどね……。

 ふむふむ。その後『Machine 2.0』にして、今どのくらい経ちました?

清丸 えーっと。2年位経ちましたかね。でもあの、『Maschine 2.0』で完結させる必要はないと思ってます。

 完結?

清丸 結局、発売するくらいのクオリティーにするには、人に録音もミックスもお願いするし。とにかくスケッチをたくさん作るために『Maschine 2.0』を選びました。それができれば良いんです。僕はとにかくドラムのフレーズとベースのフレーズのカッコいい組み合わせを作れれば良い思ってるから。あ、そうそう。『Maschine 2.0』はタイムラインでオーディオを録音できないんですよ。

 あ、そうなんですか?

清丸 はい、だからこれ単体では歌入れとかは出来ないんですよ。

 そうなんだ。

清丸 はい。『Logic Pro』のプラグインとして立ち上げて、一緒に流すことはできるんですけど、『Maschine』単体ではそういうことは出来なくて、だから『M-AUDIO Fast Track』を補助として繋げて使ってます。単体だとあくまでサンプラーという使い方しか出来ないんですよね。

 なるほど〜、……あ、『Maschine』ってそういう画面なんですね!はじめて見ました。

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清丸 面白いですよね。縦軸がリズムの集合体で、パターン1,パターン2のフレーズ、パターン3と作れて、それが横にいくつか並んでいます。モード切り替えで、パターンをタイムライン上に並べることができたり……。あとオートメーションとかもないですね。

 でもなんか、ざっくりしていて良いですね(笑)

清丸 そうそうそう。めちゃくちゃざっくりしてるんですよ。だから本当にちょっとだけ変えるだけなのに、ほぼ同じようなパターンを一個コピーして作って、ハット一個だけ抜いていくとか(笑)

 面白いなー。

清丸 なんか今そうだ、話していて思い出したんですけど、PCをまだ持ってないバンド時代、曲作る時に思いついたドラムのフレーズをドラマーにエンドレスで叩いてもらってました(笑) 

 サンプラー代わりみたいな(笑)

清丸 そう、僕がアイデアを思いつくまで(笑)

 (笑)

清丸 『Logic Pro』だった時は、サイクル再生?モードでループさせてたんですけど、『Logic Pro』サイクル再生は、音をどんどん重ねていくのには不向きだと思うので、それがストレスで。再生しながら録音もできて、それが固定されて、次のループではまた新しいことできるってのが僕には合ってます。

 なるほど。トラックメーカーっぽいのかも。

清丸 そうかもしれないですね〜。

 ドラムとベースのカッコいい組み合わせを作りたいとのことでしたが、となると曲作りの時はリズムから作ってます?

清丸 だいたいリズムですね。それか歌メロかのどっちか。でもリズムと歌メロが一緒になってる場合が多いですね。

 頭の中で?

清丸 頭の中で、はい。

 では、歌メロある場合は『Logic Pro』で『Machine』を立ち上げて?

清丸 それが実は、歌メロは録音して記録までしないんですよね。頭にあるものをスタジオで集まった時に突然歌うだけ。

 え、じゃあ歌詞とかコード進行とかは?

清丸 歌詞もコードはい。

 え、じゃあ、歌メロを忘れないってことなんですか?

清丸 大体忘れないですね。

 す、すごい!

清丸 あ、でもちょっとカッコつけたかな(笑)

  (笑)

清丸 メモ録をする時もありますね、ボイスメモで。でもメロディがよっぽど良い曲とか、バッて思いついたのは忘れないですね。

 すごい。歌詞はどのタイミングで考えますか?

清丸 歌詞は一番最後ですね。

 じゃあ、スタジオでバンドと合わせる時にリズムとメロディが噛み合うのをはじめて聴くっていうことですか?

清丸 そうですね。

 曲のスケッチをたくさん残したい意思はあるのに、歌メロはなぜ記録しようとしないんだろう(笑)

清丸 なんでだろう(笑)

 (笑) 感覚的にちょうど良いからしないんでしょうけど。

清丸 あ、でも今は気兼ねなく声を出せるので、これからはやるかもしれないですね。

 あ、これまでの環境的に声を出しにくかったっていうのがあったということもありそうですね。なるほどなるほど……。

機材の良し悪しは難しい……

清丸 ポップガードも最近はじめて買ったくらいですよ。Amazonで2000円くらいの。金属のメッシュの。

 ポップガードは持っていなかったんですね。声も出せるし、ポップガードも買ったから、今後は制作法も変わってくるかも?

清丸 そう、そうなんですよ。それにちょうど新型コロナウィルスの影響でライブがどんどんキャンセルになって。だけど自宅から最低限、音楽を届ける環境を作ったほうが良いかなと思って。しばらく前にすごく安く入手した『audio-technica AT2020』と、友達に貸してたオーディオインターフェースを返してもらってその環境を整えました。

 みんな色々工夫してますよね〜。

清丸 そうですね、制作環境、少しずつアップグレードしていきたいとは思ってるんですけど、例えば『audio-technica AT2020』とか、宅録で使用するマイクはもっと良くしたほうが良いのかとか。色々考えてるんですけど、何が良いのか違いもわからないしって……。

 変えたとしても違いを実感するってなかなか難しいですよね……。『Billie Eilish』も、最初は共作者の彼女の兄が『audio-technica AT2020』を使っていて、「この値段で一番良いマイクだ」って言っていましたよ。

清丸 へえ〜、そうなんですね。

 先ほどポップガードをはじめて購入したとおっしゃってましたが、ポップガードやリフレクションフィルターがあると、それだけでマイクの性質が変わったりするので、もしかするとマイク自体を変えるよりも、先にポップガードやリフレクションフィルターを試してみると変化を実感できるんじゃないでしょうか。マイクは環境との相性もありますし、よっぽど高い物に買い替えたりしないと違いを実感できないケースもありますし……。

清丸 そうですね、試してみます。ちなみに『Q曲』をレコーディングした時、用賀にあるスタジオATLIO葛西敏彦さんにエンジニアをしてもらったんですけど、その時はビックリしましたね、音の良さに。

 おお、それは、結構良いマイクだったんですか?

清丸 そうそう、値段聞くとすごい高いやつで。「一生使えるよ」って言ってましたけど。……なんてやつだったか結局わからず仕舞いなんですけど(笑)

 (笑)

清丸 ヘッドホンもすごく良いやつを出してもらったんですけど、それは解像度が高すぎて、逆に自分のピッチが取れなくて。そのことにもビックリしました。それでちょっと粗目のヘッドホンに変えてもらったら、すごい上手くいくとか……。

 ヘッドフォンは普段から制作で使うよな使い慣れている物の方が良いと思います。

清丸 本当にビックリしました。聴こえすぎちゃってみたいなことを経験したり、すごい良い経験をしたなって。

 普段の制作でも良いモニターヘッドフォンを使ってみたら良いのかも。葛西さんとのレコーディングで色々機材が欲しくなったりしたんじゃないですか〜?

清丸 まあそうですね。あだちさんもこだわって色々機材仕入れてるし、葛西さんのスタジオもすごくて刺激を受けたけど、あのー、何でしょう、僕からすると予算規模がとにかくすごすぎて手が出せなくて(笑)、「まじで欲しい!」って人は、なんとしても入手すると思うんですけど、僕はそれより今あるものでやろうと思うところがあって。というか最近はもう、開き直ってるというか、持ってる人に頼めばいいやっていう(笑)

 (笑) 確かに。結局完成させる時はスタジオに行きますもんね。

自分にあった制作方法を探す

清丸 で、そうだ、もう一つ制作で工夫していることあってですね。MIDIギターってソフト知ってます?

 ん?MIDIぎたー?

清丸 『MIDI Guitar 2』っていうソフトがあって、ギターのオーディオの入力でピッチを自動検出してMIDIに置き換えてくれる便利ソフトなんですよ。

 え、何それ便利!

清丸 僕は、鍵盤は弾けないんですけど、『Q曲』のレコーディングの時に葛西さんに一つ「良いプラグインシンセがあるよ」って教えてもらったのが『Arturia Synclavier V』で。音が僕の好みにフィットして、その時はじめてプラグインシンセを単体で買ったんです。

 ほお……、『Synclavier』は特徴がありますよね。『Frank Zappa』のアルバムで『Synclavier』だけを使ったものとかありますよね。(『Francesco Zappa』 / 1984)

清丸 らしいですね。あの胡散臭いデジタル感が欲しかったんですよねー。SoundCloudにアップしている音源で結構シャリシャリしたシンセの音は、だいたい『Arturia Synclavier V』です。

 結構ヘビロテ?

清丸 もうそれしか(笑)

 それをギターで入力しているということですか?

清丸 そうです。鍵盤が弾けないから思う通りにならなくて、すごい良い音が出そうなのに出せない!っていうもどかしさがあったんですよ。

 なんかちょっとわかる……。

清丸 そこから色々調べていくうちに、ギターでMIDIを操る方法に出会いました。めちゃくちゃ詳しくなって、最初は『Roland GR-30』を使って、そこからMIDI出力とかしてました。一時期それでライブもやってましたし。ギターシンセは僕、めちゃめちゃ突き詰めてたんですよ〜。

 ライブで採用していたんですね、すごい。どうでした……?

清丸 『Roland GR-30』をつけて、GKケーブルって専用のケーブルでMIDIを発信してくれるんですけど、その方式でやるとタッチのニュアンスが全く反映されないんですよね……。ちょっと頑張ってくれるんですけど、どうしてもリモコンを操作している感じになって、楽器を演奏してる感がないんですよ。

 あ〜、そうなんですね……。

清丸 生の弦だと指弾きのニュアンスを出せるけど、ギターシンセだとそれが全然追従してこないから、なんかほんとに操作、演奏してるより操作している感じになって結局あんまりしっくりこなくて。で、最近はライブ用の生演奏用のエフェクターで『Meris Enzo』っていうシンセを使ってます。ギターのオーディオを読み取って、この中でピッチ検出してくれるから、このタイプのほうが弾いてて楽しい感じがあって。和音もいけます。

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 なるほど。『MIDI Guitar 2』は、レイテンシーとかはどうですか?

清丸 レイテンシーは全然、大丈夫です。気にならなかったです。

 えー、それはめちゃくちゃ良いですね。その手のもの、YouTubeで紹介動画を見ているとついつい欲しくなるんですよ……(笑)

清丸 わかります。シンセって、ギターしか弾かない人にとっては本当憧れです。鍵盤が弾けなくても、『MIDI Guitar 2』があれば、曲にシンセの音入れようって気になれます。あ、でも、すごい誤入力が多いんで、基本的にはでシーケンス自分で弾いた後にちまちまと。

 あ、修正するんですね。

清丸 はい、ゴミみたいのが結構あって(笑)

 ノイズとか?ギターのちょっとしたタッチの……。

清丸 ノイズですね。弦離した時のノイズとか。一応そういうのを敷居値で調整できるゲートもあるんですけど、どうやってもゴミは入りますね〜。

 手間も少しかかりますね。

清丸 そう、だからちょっとでも鍵盤が弾ける人は使わないだろうなって思います。

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東郷清丸(とうごうきよまる) 1991年横浜生まれ。その場に流れる目に見えないムードを、音と言葉でかたちにする。どんな音楽を作っても必ずどこかに東郷清丸の匂いがするのは、ジャンルではなく未体験の耳心地を追い求めているから。2017年に1st Album「2兆円」2019年には2nd Album「Q曲」を発売し、ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文が主宰する音楽賞APPLE VINEGAR -Music Award-2020にて特別賞を受賞。https://kiyomarization.com


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