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deeper

例えるなら、

鼻腔に冷たい空気がゆっくり流れるようなしんとした暗闇の中。少し身体を動かすたびに軋むベッドの上、今にも脳が真っ二つにかち割れそうな頭痛で目覚めて、涙目になりながらころげ落ちて、床の甘さのない冷たさにもう一度傷ついて、ただ苦しんで、もがいて、前が見えない恐ろしさに心底恐くて、掴んだもの全て私以外の場所に投げた。かるい音、おもい音、はじく音、われる音。どこかに当たった音だけが空間に返ってきて、果てしなくつづく途方もない空間ではないことだけ、かろうじて伝わる。それでも何も見えなくて、掴んで投げたものが何だったかもわからぬことに、自分にとって大切なものなんて何もなかったかもしれないことに、再び刺すような孤独を感じて泣き叫ぶ。思いつく限りのことばを並べて救いを求めるけれど、そのことばはどこにもこだましない。ただ、自分のみにくい声が耳から聞こえるだけ。自分だけが生きてることを証明するように、泣き叫びもがき苦しみ、そうやって何日何ヶ月何年も過ぎ去っていってしまってるような感じがする。最後に残ってた自分のか細い糸がようやく終わりを迎えようとしたとき、ふと床に散らばったビーズのような、宝石にはなれないものたちの小さな煌めきがあることに気づいて、その小さな光を這いつくばってひと粒ひと粒拾って、その光にはさまざまな色があること、あたたかさがあること、つめたさがあること、重みがあることを少しずつ実感する。ぎっしりと手ひらに抱えた光がどんどん大きくなって、それがまるで生きもののように自在に色や形を変え光る様子を、どこか不思議でどこか当然のように眺める。いつの間にか自分が立ち上がってることに気づいて、最後に足の裏を信頼して全体重を預けたのはいつだっただろうかと考える。何もなかったはずの空間にぽつりと、目の前に見慣れたスイッチがあるとわかって、自分の人差し指でゆっくりとそのスイッチを押す。電気がじんわりとでも確実に薄暗くついていって、ひさしぶりの明るさが衝撃となり眉をしかめる。振り返ると、真っ白な壁のとても狭い部屋にシングルベッドがひとつ置かれてるだけで、手のひらの重さと私の生きる音だけが、響く。

ような。