陽炎のたつ日
ことばというものは
いつだって誰かからもらったものである
あるいは誰かから盗んだものである
しかしたいていは
誰かのことばをいちど咀嚼し飲み込み
腹の中でぐつぐつと煮込み
来るべき時に新たなものとして生み出されるもの
だから真っ当な人の口から出る
ことばには血が通っている
ことばがもともと誰かのものだったとはいえ
誰かのことばをひと噛みもせず
飲み込みもせず
ぐつぐつと煮込むこともせず
その口から出たことばは
全く新しいプラスチックの香りがする
ことばに血を通わせることのできぬ人が
血の通った人びとをどうやって動かせようか
そんなものは
恐怖や憎しみ 金や生活といった
基本的なものを操るために
力を得るほかない
ほのかに死とプラスチックの香りがする
この陽炎たつ土の上
血の通ったことばを吐く人はまだいるか
私は血の通った人で
そのことばをまだ吐いているか