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小説 梅の木と美しい人

梅の花と桜の花の違いも分からなかった幼かった私。
11歳の私たちはお花見と言って、梅の木の下で友達とままごとみたいなピクニックをした。パイの実やハッピーターンなど、各々がお菓子を持ち込んで。
二月末のその時間は寒かったはずなのに、私たちは夢中でお菓子を食べて笑い話をした。少女漫画の話や学校の嫌いな先生の話。男子のうざいところ。

その時強い風が吹いて、梅の花が舞い上がった。向かいに座っていたリカちゃんの方を見ると彼女はそれらをじっと見ていた。
花びらが彼女の前を舞い落ちる。
透き通るように白い肌、長いまつ毛と黒い瞳、微笑を浮かべ、桜の花びらを目で追っている。
私はその時、初めて同い年の友達を女だと思った。美しいと思った。
なんだかそれが嫌で私は目を逸らす。

それから3年後、学区が違って中学校は別々になったリカちゃんを久しぶりに駅前で見かけた。
ニキビ面でテニス部の練習で日焼けした、筋肉のある私と正反対の少女が、綺麗な女の人がそこに居た。
私は声をかけることができず、また目を逸らす。

リカちゃんはすごく早く妊娠して、この街を去っていた。それから先のことは噂話ばかりで本当のことは分からない。もしかしたら妊娠のことも真実は分からない。

でも、私は梅の花を見る度にリカちゃんを思い出す。勝手に壁を作り、距離を取った自分がとても恥ずかしくなる。それが罪悪感から来る感情だと大人になって気づいた。

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