バイト先のお客さんと付き合った話 9 衝撃の事実

言わなきゃいけないことがある、と言ってから生田さんはしばらく泣いて何も話さなかった。

「何ですか?教えてください」

と言っても泣き続けて一向に話し始めてくれない生田さん。

ますます不安になる私。

しばらく彼を見つめていてようやく口を開いたと思ったら、

「本当に嫌われちゃうかもしれないから…」

とだけ言った。

「大丈夫だから話してください。何ですか?」

と返すも、また無言で泣き始めてしまった。

この時点で時刻は22時。
付き合おうという話をしてから既に1時間が経過している。

正直この時点で、生田さんの話を聞きたいという気持ちに「明日一限なんだよな…」という気持ちが侵入し始めていた。
劣等生とはいえ、私は一応大学生なのである。

私は

「本当に大丈夫だから!何だとしたって嫌いにはならないので!早く話してください!」

と若干急かすような物言いをしてしまった。

それでも生田さんは

「でも…本当に怖い…」

と言うだけだった。

嫌われるかもしれない、付き合うことをやめるかもしれないというレベルで言えないこととは何なのだろうと考えてみた。

一瞬前科持ちとかそういう感じのものかと思ったが、こんな優しい人が何か悪いことをするとは思えなかった。

隠し子がいる説も考えたが、話を聞いている感じ彼は確実に童◯だ。

だとすると何だろうと考えた結果、持病による余命宣告とかそのあたりの類のものだと推測した。

そう思った瞬間、悲しくなってきてちょっと泣けた。

しかし、いつまで経っても言おうとしないこの状況に苛立っている自分がいたのも事実だ。

泣きながら苛立つというわけのわからない状態。

そして気づけば時刻はもう22時30分。
もうそろそろ言ってくれと思っていたところにようやく生田さんが口を開いた。

「俺…アトピーだしM字ハゲなんだ…服と髪型で…隠してるんだけど…」

そう言って嗚咽を漏らして更に泣き始めた。

「え?」

「嫌いになった…?」

てっきり余命宣告の話かと思っていた私は拍子抜けして

「え、それだけ?」

と言ってしまった。

「それだけ?なんて言わないでよ、本当に悩んでるんだから」

「ご、ごめんなさい、でも本当に気にならないしそんなことで嫌いになんてなりません」

すると生田さんは

「本当?!!」

と言って、泣いてぐしゃぐしゃになった顔を上げて私を見た。

「本当です」

「よかった、すごい優しい人が彼女になってくれた、あのこちゃんを好きになってよかった、嬉しい、本当にありがとう、一生大切にするから」

と言って泣きながら笑って抱きしめてきた。
ものすごく華奢な体だなあと思った。

そうして23時過ぎにようやく解散した。

おしゃれでかっこよくてアトピーでM字ハゲのよく泣く彼氏ができたんだなあと考えながら、明日の一限に向けて急いで帰った。

続く

関係ないけど新しい靴を履いたことによる靴擦れと疲れがやばい。どれだけ年齢を重ねても靴擦れの改善方法を見つけることができない。

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