バイト先のお客さんと付き合った話 8 本気だった

あの日以降も生田さんは毎日お店に来た。

生田さんは以前よりもフランクに話しかけてくるようになり、たまに安めのお菓子を渡してきてくれることもあった。

(ちなみにお菓子には必ず「がんばれ!」とか「お疲れ様!」などと書かれていた。字が結構下手くそだった。)

その光景を見た同僚たちに

「付き合ってるの?」

と聞かれた。もちろんその度に否定していた。

生田さんに誘われ、生田さんの仕事帰りに夕飯を食べに行くことも増えた。

一緒に過ごす時は必ず面白い話をたくさんしてくれるし、私が振る話にもよく笑ってくれる人だった。
レジ越しに接客だけしていたあの頃は知らなかったけど、彼は基本的にいつもニコニコしている人だった。

本当に優しくて柔らかくていい人で、私のことを心から好きなんだろうなというのが伝わってきた。
罰ゲームなんかではなかったのだ。

食事が終わるといつも家の近くまで送ってくれて、別れ際には必ず

「好きだよ」

と言って去って行く彼。

「ありがとうございます」

としか返せない私。

内股でてくてく歩く彼の後ろ姿をいつも見えなくなるまで見送っていた。

そろそろ見えなくなるな、という時に必ず振り向いてこちらに手を振ってくれるところもかわいかった。

食事に行くたびにとてもいい人だなと感じるし、きっとこの人と一緒にいたら楽しいのだろうなと思った。
着実に彼のことを好きになっていくのがわかった。

しかし、付き合う気にはなれなかった。

それは何度も書いている通り、彼がものすごくおしゃれでかっこいいからだ。

明らかに不釣り合いで彼に相応しくない自分が恥ずかしくて申し訳なくて、付き合おうとは思えなかった。

私の誕生日近くにご飯を食べに行った時、サプライズでケーキを出してくれた。

店内には、私が当時好きだったゆずの某バースデーソングが流れた。
おそらく彼がリクエストしてくれたのだろう。

私はケーキを出された瞬間気が動転して、ただアワアワするだけだった。

ケーキに刺さったろうそくを消した瞬間、店内のBGMが変わった。

「そんなに泣かなくていいんだ そばにいるよ」

という歌詞が流れ始めた。(これもゆずの曲)

おそらく生田さんは私がケーキを出された瞬間泣くことを想定していたのだろう。

私は驚くだけで泣いてはいなかった。
気まずくて申し訳なかった。

その後は2人で記念写真を撮ってもらい、ケーキを分け合って食べた。

そして帰り道にまた告白された。

私は思いの丈を正直に話した。

「生田さんは本当に優しくていい人だし私のことを好きなのもすごく伝わってくるし、正直かなり好きになってるんだけど、あなたみたいなかっこいい人と私が釣り合う気がしなくて付き合う気になれません」

すると彼は泣き出した。

「俺生まれて初めて人のこと好きになったのに…別に釣り合う釣り合わないなんてどうでもいいのに…俺があのこちゃんを好きであのこちゃんも俺を好きならいいじゃん…付き合ってください」

泣く彼を見てなぜか私も泣けてきた。

そしてあっさり流されてしまった。

「わかりました、私でよければぜひ…お願いします」

こうして無事付き合うことになったかと思いきや、彼がさらに泣き出し

「これ言ったら付き合うの撤回されそうなんだけど…言わなきゃいけないことがある…」

と言ってきた。

一気に不安感に襲われた。

続く

関係ないけど最近は巻き髪のやり方を覚えてまあまあ楽しい。なんか自分がかわいく見える。こうして日々成長していくのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?