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2019年参議院埼玉県選挙区補欠選挙レポート

 埼玉県知事選挙に立候補して当選した大野元裕・前参議院議員の失職に伴い、参議院埼玉県選挙区補欠選挙が10月10日公示、10月27日投票で行なわれることとなった。


 今回の参院補選の啓発ポスターも「翔んで埼玉」とのコラボ。ポスターには「『また選挙か…』だと? 大切な一票を無駄にするなー!!」と書かれている。確かに埼玉は今年は選挙の当たり年。4月の統一地方選挙前半戦(県議選)、統一地方選挙後半戦(市議選&市長選)、7月の参院選、8月の県知事選に続いて実に5回目となる。

◼️立候補者は?


 参院補選に真っ先に立候補を表明したのは上田清司・前埼玉県知事で、立憲民主党と国民民主党が支援することとなった。上田前知事が退任した埼玉県知事に大野元裕参院議員が就任し、その大野議員が辞職した参院議員に上田前知事が挑戦するということで、両者が立場を入れ換えての立候補ということになったわけだが、これには批判が相次いでいる。というのも、大野現知事が参院議員を辞職したのは、7月の参院選の後だったからである。もし仮に参院選の前に辞職していれば、補欠選挙を参院選と同時に行なうことが可能になる。定数4に1名加えた5名を選出し、最下位当選の議員が大野現知事の残りの任期の3年を務めることになる。ところが補選が参院選と別に実施されることになった結果、22億円ものお金が余計にかかってしまうこととなったのだ。

 埼玉県知事選挙はかなりの激戦となったが、自民党は独自候補の擁立を断念。公明党も自主投票とするということとなった。そのため、誰が出ても知名度も高く実績もある上田前知事が圧倒的に有利な状況である。

 前回2015年の県知事選挙の結果は次の通り。

当選891,822上田 清司 67 無所属・現(維新の党、民主党県連支持)
  322,455塚田 桂祐 58 無所属・新(自民党県連推薦)
  228,404柴田 泰彦 62 無所属・新(共産党推薦)
   49,884石川 英行 52 無所属・新
   32,364武田 信弘 61 無所属・新

 上田前知事が自民党推薦候補にダブルスコア以上の大差で圧勝している。

 知事選出馬を断念した行田邦子・前参院議員が立候補するという噂もあったのだが、結局それもなかった。一説には行田前参院議員が知事選出馬を断念する代わりに、参院補選で自民党が支援するという密約があったとの話であったのだが…。もしそれが事実なら、行田前参院議員は自民党から見事に梯子を外されてしまったことになる。
 同じく県知事選に浜田聡候補を擁立して落選したNHKから国民を守る党(N国党)も候補者擁立を進めていた。当初は知事選同様浜田氏を擁立する予定であったが、上田前知事以外に立候補の動きがなく、一騎討ちとなれば批判票を取り込むことで勝算があると、候補者の差し替えを検討し始めた。立花孝志・N国党代表は、30代前半の女性の擁立を提案していたため、7月の参院選に埼玉選挙区から立候補していたYouTuber“えびぴらふ”こと佐藤恵理子(えりぃ)氏(33)を立てるのではとの憶測もあった。佐藤候補は参院選では、知事選での浜田候補を上回る80,741票を獲得している。また、秘書への暴言・暴行が問題となって自民党を離党した豊田真由子前代議士に声をかけているとの情報も流れた。上杉隆・N国党幹事長が後になって語ったところによると、N国党は豊田前代議士の他、県知事選で落選した青島健太氏や、歌手のさいたまんぞう氏らにもオファーを出していたとのことである。


 ところが、補選公示直前に、立花代表自身が立候補するという仰天のプランを打ち出した。これは極めて異例である。というのも立花代表は7月に参議院議員に当選したばかり。それがわずか3ヶ月で参議院議員が参議院を辞めて参議院補欠選挙に出る。何もしなければ6年の任期の残っている立花代表だが、今回の補選は大野元裕・現埼玉県知事が持っていた議席であるため、当選しても任期は3年になってしまう。いったい何を考えているのか…。

 いくら立花代表が高い知名度を誇っていても補選で上田前知事に勝って当選することは極めて困難である。N国党の議席は次点だった浜田聡氏が繰り上げ当選するため減ることはないが、立花代表が得た予算委員会のポストはふいになる。 N国党内部でも上杉幹事長始め多くの反対があったようだ。

◼️参院埼玉補選公示

 10月10日公示日、予定通り2名が立候補した。

立花 孝志 52 NHKから国民を守る党・前
上田 清司 71 無所属・新(立憲民主党県連、国民民主党県連支持)


 自民党、公明党が自主投票としたが、共産党と社民党も上田候補が改憲に意欲的であることから支援せず自主投票としている。しかしながら、自民党所属の国会議員や地方議員が少なからず上田候補の支援に回り、実質的には与野党相乗り候補となっていた。

 上田候補を応援する超党派の議員の中に市議会会派「新しい風」の多田光宏・志木市議がいた。多田市議はもともとは2016年4月にN国党3人目の地方議員として当選している。N国党の古参メンバーであったのだが2019年4月に除名されている。
 多田市議がTwitterにアップした写真を見ると、N国党と統一会派「みんなの党」を組む渡辺喜美参院議員が上田候補に為書を送っているようである。どうやら立花候補は、身近な人たちからも相当の反発を食らっているようだ。

◼️選挙ポスター比較

 参議院議員埼玉県選挙区補欠選挙のポスター掲示板を眺めてみたが、そのポスターは面白い程に対称的である。


 上田候補のポスターには赤字で「即戦力」という文字があるだけ。確かに衆議院議員3期、県知事4期の経歴は何よりも強みである。


 それよりも気になるのが写真。ずいぶん修正してない? 御年72歳にはとても見えない…。


 一方の立花候補のポスターには、「既得権益をぶっ壊す!」という言葉を掲げられ、「消費税は5%にします」などの具体的な政策をも記されている。N国党の政策は従来「NHKをぶっ壊す!」だけであるのだが、今回は現実的な路線に切り替えたことで、売名だけではなく本気で勝負に打って出ている印象を受ける。
 また、候補者名とほぼ同じ位の大きさで掲示責任者として堀江貴文氏の名前が書かれていた。N国党は先日、堀江氏を次期総選挙の公認候補と決定したが、これはそのための布石だろうか?


◼️上田清司候補

 両候補の街宣をウォッチしてきたが、その選挙戦も両者対称的であった。
 上田候補は県知事選で大野元裕候補が行なっていた、1つの駅に終日張りつく形の選挙戦を行なっていた。


 私が訪ねたこの日は大宮駅東口にいた。街宣車にも「即戦力」の文字が描かれている。


 地方議員が代わる代わる応援演説を行ない、上田候補自身は道行く人に名刺を配り、時に語り合っていた。なるほど、こうした気さくな態度が、根強い人気を保つ理由なのだろう。


◼️立花孝志候補

 続いて北朝霞で立花候補の街宣を見た。


 多くの聴衆を集めての街頭演説。聴衆の数は上田候補を遥かに上回っている。街宣車には立花代表とN国党の丸山穂高代議士が上がり、熱く語っている。上田候補が与野党の実質的な統一候補であることを批判。また、上田候補を立憲民主党の枝野幸男代表が支援したことを受けて、次期衆院選では埼玉5区にN国党から刺客として堀江貴文氏を立てるというプランを明言した。


 演説を一通り終えた立花候補は、マイクを丸山議員に委ねると、街宣車の下で支持者との写真撮影に応じていた。


 一瞬自分もお願いしようかとも思ったのだが、かなりの行列になっていたので諦めた。


 ところがこの立花候補、補選の最中にも関わらず、11月10日投票の神奈川県海老名市長への出馬を表明したのである。確かに当選は極めて困難な情勢ではあるが、これでは端から当選する気があるのかと疑ってしまう。立花候補はこれまで船橋市議、葛飾区議、参議院議員と3度当選を果たしたいるが、いずれも任期を満了せずに次の選挙に立候補している。これではまるで、単に選挙をやりたいだけなのではないかとすら思えてくる。

◼️参院埼玉補選投開票結果

 こうして迎えた10月27日の投票日。予想通り上田候補が圧勝した。 

当選1,065,390上田 清司 71 無所属・新
     168,289立花 孝志 52 NHKから国民を守る党・前


 20時の投票終了と同時に上田候補に当確が出る圧勝ぶりだった。もっとも破れた立花候補も参院選や知事選の際のN国党候補者の得票をはるかに上回る得票を挙げており、一応は健闘したと言っても良い。

 投票率は20.81%とかなり低かった。32.31%だった埼玉県知事選をかなり下回っている。ちなみにこの20.81%というのは、国政選挙では4番目に低い投票率だという。

17.80% 1991年参議院埼玉補選
19.40% 1987年参議院神奈川選挙補選
20.70% 1987年参議院大阪補選
20.81% 2019年参議院埼玉補選

 上田候補の圧勝ムードもあって選挙戦が盛り上がらなかったことが、投票率が低かった何よりの理由だろう。立花候補もある程度の批判票は集めたようであるが、風頼みのN国党には厳しい得票率だった。もっとも出口調査の結果では、立花候補がN国党支持者の9割の票を得ただけであったのに対し、上田候補は各政党の支持者の9割の票に加えて無党派層の票の9割も得ている。仮に得票率が上がっていても立花候補が勝つのは厳しかったであろう。

 上田清司候補は当面は無所属で活動することを宣言している。ただ、上田候補はもともと自民党所属で改憲にも前向きとされるため、将来的な自民党入りも囁かれる。
 立花候補はこれで国会から去ることになった。次は宣言していたとおり11月10日投票の海老名市長選挙である。立花候補のことであるから、必ずやまた這い上がってくるに違いない。

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