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小西彦治の華麗なる選挙遍歴

 最近一部で注目されている人物に小西彦治氏がいる。なぜこの人が注目されているのか。それはとにかく選挙に出まくっているからである。

 小西候補は2月18日投票の長野県松川町長選挙に立候補していた。その前は2月11日投票の和歌山県印南町長選挙に出馬していたばかりだ。その一週間前の2月4日投票の山形県舟形町長選挙にも出ていた。1月21日投票の長野県荒市長選挙、1月28日投票の三重県川越町長選挙、と連日のように選挙に立候補しているのである。当然ながらその全てにおいて落選している。
 2023年は9回の選挙に立候補して落選していたが、今年に入って早くも5回目の選挙である。

 私が選挙に興味を持った1980年の終わり頃はいわゆる“名物候補”が大勢存在していた。右翼界の大物の大日本愛国党総裁・赤尾敏。“オカマの健さん”こと雑民党の東郷健。他にも品川司(日本民主党)、深作清次郎、重松九州男(日本世直し党)、三井理峯、高田がん、etc.etc.
 最近でも発明王のドクター中松義郎、“唯一神”又吉イエス(光雄/世界経済共同体党)、スマイル党総裁・マック赤坂、不動産王の羽柴誠三秀吉といった人物がいる。1950年代から60年代にかけては肥後亨が「肥後亨事務所」といった団体から各種選挙に大量の候補者を送り込むといったこともあった。
 これらの候補の目的は当選と言うよりは“宣伝”あるいは“売名”といった趣があった。政見放送という公共の電波を通し、自らの主張を宣伝する。また、特定の陣営に対しての選挙妨害を行なうようなこともあった。さらには選挙運動に必要な証紙や葉書を他陣営に横流しすることで稼いでいるとの噂もある。

 しかしながら、小西彦治候補の場合、立候補するのは専ら地方の首長選挙。政見放送などは当然あるはずもなく、宣伝効果はほとんどない。大抵の選挙には現職が立候補しているから勝算はまずない。それどころかほとんどの選挙において小西候補はろくに選挙運動を行なっていないのである。告示日にポスターを貼った以外は、現地入りすらしなかった場合もあったらしい。いったい彼はどのような目的があるのだろうか。


◆小西彦治とはどのような人物か

 そんな小西彦治候補とはどのような人物なのか。
 小西候補は1971年11月8日兵庫県伊丹市出身で、現在52歳。兵庫県立伊丹高校、神戸大学大学院法学研究科修士課程修了とある。不思議なことに高校と大学院は経歴に載せているにも関わらず、出身大学の名がどこにも記されていない。

 元プロボウラーで、1999年にプロ入り。2010年までプロとして活動し、2000年のプロボウリング新人戦では18位の成績を残している。

 その他、中古車販売やキャットブリーダー、コンサルタント業、学習塾、自転車教室などを歴任しているという。

 そんな小西彦治候補が初めて選挙に立候補したのは35歳だった2007年4月22日投票の兵庫県伊丹市議会議員選挙だった。定数28に35人が立候補。最下位当選が1,432票という中、わずか793票しか取れず惨敗に終わった。

 2011年4月24日投票の伊丹市議会議員選挙では、小西候補はみんなの党の公認を得る。全国的にみんなの党が躍進する中、小西候補は2,546票を獲得。7位で当選した。
 しかし当選から1ヶ月後の5月24日、小西市議はみんなの党を除名処分とされてしまう。当時みんなの党の兵庫6区支部長だった杉田水脈氏(現・自民党代議士)によると、小西市議は市議会会派「新風いたみ」の結成にあたり、「政策のすり合わせを行わず」、党の公約と異なる掲げる議員と会派を組むと表明した。そのため杉田支部長は小西市議に離党を促したものの、小西市議がそれに従わなかったため除名処分となった。

 任期満了を目前とした2015年4月、小西市議は県議に鞍替え出馬した。維新の党の公認を受け4月12日投票の県兵庫議選に川西市及び川辺郡選挙区から立候補した。自民党現職が政務活動費の不正受給問題が明らかになった事を受けての突然の立候補で、地元の伊丹市ではない選挙区からの出馬となった。定数3に5人が立候補。小西候補は「政務活動費を不正使用した議員がまだ残っている。ノーを突きつけないといけない」と訴え、13,924票を獲得。最下位ながら見事当選を果たし、自民党現職は落選となった。

 そんな小西県議もまた、2015年には自身の政務活動費の不適切支出が指摘され、約28万円を県に返還することとなっている。

 2019年の県議選に小西県議は出馬しなかった。その代わり4月21日投票の伊丹市議会議員選挙に日本維新の会公認で立候補。2,127票を獲得し市議に返り咲いた。

 2023年は再び県議選に鞍替えしている。いったいどういう心境であったのだろうか。大石欣則・元神戸市議のブログに、小西市議の決意表明が載っていた。

ご報告
 本日、定例会最終日、私小西彦治は議員辞職を致しました。
理由は以下のとおりです。
 今期4年の任期は令和5年4月30日迄となっており、本日議会閉会日を迎えて以降は、統一地方選があることから、議員としての公務で出席する場(委員会等)がありません。
議員報酬を頂きながら、政治活動と選挙活動に奔走する日々を過ごすことに自分としては違和感を感じており、『だったら議員辞職しよう。』という運びになりました。
 本来、身を切る改革を掲げている政党が、この機会に統一地方選を迎える現職議員はこれをすれば良いのに・・・、と思うところではございますが、私はそういった意味で辞職をします。来期は考えて頂いて、全国的に行うと相当な財源を行政に還付したことになります。身を切る本気度を見せて欲しいところですね。
 政治活動は引き続き行っていくのですが、3月31日~4月9日迄は県議会議員選挙が行われますので、市議会議員候補予定者は一切の政治活動を行うことが出来ません。
 そこで小西は、尼崎の県議選で私は参政党を支持しています、というテイで無所属にて立候補をする予定です。
 どこまですそ野を拡げることが出来るのか。私財を100やら200(万円)やら投入してでも、党を陰ながら応援する立場です。
またはサポートする方々にとって、どうなのかを問い、自らは政治家として活動を続けていくしかない、そのような考えに至りました。
 『誰もやらないなら、だったら俺がやる。』
 準備もギリギリで、選挙期間中のみの闘いになりますが、出来る限りやり切ろうと思います。

 どうもしっくりこない。ずいぶんと自分勝手な理由のように思える。

 4月12日投票の兵庫県議会議員選挙に、小西市議は選挙区を尼崎市選挙区に変えて立候補した。定数7に9人が立候補。小西候補は最下位当選が12,920票のところ、わずか2,737票しか獲得できず最下位で惨敗に終わった。

 引き続いて小西候補は、4月23日投票の伊丹市議会議員選挙に立候補した。この時の統一地方選は、参政党(さんせいとう)が躍進した選挙だった。小西候補は参政党の党員となったものの、公認審査では落ちてしまう。そこで、同じく公認審査に落ちた姫路市議選に立候補する長崎章浩候補と共に「参政党(まじわりせいとう)」なる政治団体を立ち上げた。

 ポスターや選挙公報でも参政党(さんせいとう)と意図的に区別がつかないようにしていた。

2023年伊丹市議選選挙公報

 参政党(さんせいとう)の神谷宗幣事務局長(現・代表)は両候補に対し警告文を送ったとの事であった。

 結局、この選挙で小西候補はわずか420票しか取れず、当選には遠く及ばない結果で惨敗に終わった。長崎候補も100票で最下位。参政党(さんせいとう)と混同させる作戦は不発に終わったようだ。そう甘くはない。しかし小西候補は2023年の兵庫県議選と伊丹市議選のどちらでも供託金没収点を上回わることに成功している。そのため県議選60万円、市議選30万円の供託金が返還されたばかりか、ビラやポスター、街宣車などの選挙運動の公費負担が認められた。ひょっとしたらこのことで小西候補は味をしめたのではないだろうか。2023年9月以降、次々と選挙に立候補していくことになる。 

◆選挙荒らし誕生

 小西彦治候補が選挙に出まくるようになったのは2023年の夏頃からだった。8月の三重県松阪市長選挙を皮切りに、次々と選挙に出馬している。 それぞれの選挙での得票は次の通りである。

〈三重県松阪市長選挙〉(8月27日告示・9月3日投票)

2023年松阪市長選選挙公報

当選34,184(82.75%)竹上 真人 61 無所属・現③
     7,121(17.25%)小西 彦治 51 無所属・新

〈岡山県総社市長選挙〉(9月24日告示・10月1日投票)

2023年総社市長選選挙公報

当選20,190(89.90%)片岡 聡一 64 無所属・現⑤
     2,268(10.10%)小西 彦治 51 無所属・新

〈京都府精華町長選挙〉(10月10日告示・10月15日投票)

2023年精華町長選選挙公報

当選7,408(75.68%)杉浦 正省 75 無所属・現③
  2,380(24.31%)小西 彦治 51 無所属・新

〈長崎県時津町長選挙〉(10月24日告示・10月29日投票)

2023年時津町長選選挙公報

当選5,607(49.32%)山上 広信 62 無所属・新①
  5,273(46.38%)山脇  博 61 無所属・新
   488(4.29%)小西 彦治 51 無所属・新

〈福島県大熊町長選挙〉(11月2日告示・11月12日投票)

2023年大熊町長選選挙公報

当選3,307(89.35%)吉田  淳 67 無所属・現②
     394(10.65%)小西 彦治 52 無所属・新

〈三重県いなべ市長選挙〉(11月19日告示・11月26日投票)

2023年いなべ市長選選挙公報

当選10,933(82.39%)日置  靖 64 無所属・現⑥
   2,336(17.61%)小西 彦治 52 無所属・新

〈福島県矢吹町長選挙〉(12月19日告示・12月24日投票)

当選5,243(89.73%)蛭田 泰昭 65 無所属・現②
     600(10.27%)小西 彦治 52 無所属・新

 10月以降はほぼ2週間に1度のペースで選挙に出馬している。当然ながら全ての選挙で落選となった。
 小西候補が立候補した選挙はすべて首長選。北は福島から南は長崎県まで、居住している伊丹市とはまったく縁もゆかりもなさそうな地である。長崎県時津町長選を除くと、全て現職との一騎討となっている。どうやら無投票当選となりそうな選挙を狙って、告示直前に立候補を表明するというのが1つのパターンのようである。
 供託金は市長選100万、町長選50万で、これだけでも500万円に上る。ところが、3人が立候補した時津町長選を除き、小西候補の得票は全て供託金没収点(得票の10%)を超えていた。つまりそのうち450万円は返還されているのだ。
 さらに、小西候補は「選挙運動の公費負担」を狙っているのではないかと囁かれている。供託金没収点を超えた候補者には選挙運動の資金の一部が公費によって返還される。具体的には選挙運動用自動車の使用、ビラの作成、ポスターの作成の費用である。小西候補はこれらの費用を得ることで儲けているのではないかと噂されている。
 どういうことか。例えばポスターであれば、実際にかかった費用ではなく、公費負担額の限度額を請求することで利鞘を得るというものである。こうした噂はNHK党にもあり、NHK党は自前の「ネット選挙株式会社」でポスター印刷を安く行ない、公費負担額の差額を収入としているという。2021年の船橋市議選では、ポスター代の公費負担額の上限は833円であったが、使われえたポスターは1枚10円もしないようなクオリティのものであった。

 「vistacar0924のブログ」によると、小西候補のポスターの印刷責任者は「アートデザイン」となっているが、実際にその住所にあるのは「整体院エイト」とのことであった。

 また、小西候補の伊丹市議時代の政務活動費報告書には、「アートデザイン」の代表として「原博義」の名前があるという。この原博義氏は2019年参院選兵庫選挙区などに「NHKから国民を守る党」公認で立候補したことがある人物。「選挙ドットコム」の2019年宝塚市議選のプロフィール欄にも「整体院エイト院長」とある。

 どうやら小西候補はポスター制作を原博義氏に依頼することで、利益を得ているらしい。そして、そのノウハウはNHK党に由来するものであったというわけなのだ。
 小西候補は伊丹市議時代から原氏にポスター制作を依頼している。ポスター制作で利益を得るのは既に現職議員からのことだったのではないだろうか。
 小西候補は知名度も徐々に高くなっている。「X」などでは今や「公金チューチュー」「選挙ゴロ」といった言葉で表されるようになっている。

◆2024年の快進撃

 小西彦治候補の快進撃(?)は2024年に入っても変わらない。2024年になってまだ50日程しか経過していないが、既に5回もの選挙に出馬。しかも1月21日以降は5週連続で選挙に立候補している。

〈長野県須坂市長選挙〉(1月14日告示・1月21日投票)

2023年須坂市長選選挙公報

当選10,114(76.59%)三木 正夫 74 無所属・現⑥
    3,092(23.41%)小西 彦治 52 無所属・新

〈三重県川越町長選挙〉(1月23日告示・1月28日投票)

2023年川越町長選選挙公報

当選3,459(81.71%)城田 政幸 69 無所属・現③
     774(18.28%)小西 彦治 52 無所属・新

〈山形県舟形町長選挙〉(1月30日告示・2月4日投票)

2023年舟形町長選選挙公報

当選2,537(88.99%)森  富広 63 無所属・現③
     314(11.01%)小西 彦治 52 無所属・新

 結果は当然すべて落選であった。しかし供託金没収点の10%はいずれもクリアしており、選挙ビジネスは順調かと思われた。

◆選挙ビジネスの破綻

 舟形町長選挙に落選した2日後には早くも次の選挙として和歌山県印南町長選挙への立候補した。しかしこの頃からマスコミなどでの注目度も高まってきたと思われる。一部の選挙ウォッチャーの間では「今週の彦治」なるキーワードが用いられるようになっている。

〈和歌山県印南町長選挙〉(2月6日告示・2月11日投票)

当選3,634(90.24%)日浦 勝己 73 無所属・現④
     393(  9.76%)小西 彦治 52 無所属・新

 小西候補は当初、印南町長選挙には立候補しない方針であった。「日高日報」の取材にも「本巣市長選に立候補する方向で進めている」と回答している。それが一転して、告示前日に出馬を表明した。

 日高日報は小西候補を「印南のまちに何のゆかりもない新人出馬」と報じるなど、小西候補の立候補には否定的な様子が見て取れる。また、小西候補は「5日間の選挙戦は毎日、伊丹の自宅から通う」とも語っていたが、実際にはポスターを貼りに2日程来ただけだったという。Vistacar0924によると、地元の声も小西候補に否定的どころか、小西候補が選挙ゴロであるとの情報すら把握していたというのである。

 どうやら小西候補の悪名は立候補先でも知れ渡っているらしい。その結果、小西候補の得票は10%に届かず、供託金没収となった。小西候補が供託金を没収されるのは、10月29日投票の長崎県時津町長選挙以来2度目。一騎討では初となる。

 小西候補はすぐさま、長野県松川村長選挙に立候補を表明した。しかし、印南町長選での供託金没収はショックだったらしく、選挙戦術の変更を余儀なくされた。

〈長野県松川村長選挙〉(2月13日告示・2月18日投票)

当選3,807(91.56%)須坂 和彦59 無所属・新①
     351(  8.44%)小西 彦治 52 無所属・新

 これまでのほとんどの選挙で、小西候補は多選の現職に挑むという形で批判票を吸収してきた。それが今回、一騎討ちとしては初めて、新人同士の対戦となった。(3人立候補した時津町長選を除く)
 そういった事情もあり、小西候補には10%に届かないかもしれないという危機感があったのではないか。そのため連日のように現地で街宣活動を行なっていたようだ。

 しかし結果はまたしても10%に届かず供託金没収だった。松川村長選は小西候補にとって初の村長選挙。村というのは閉鎖的な面があり、選挙もやる前から結果が出ていることが多い。実際、松川村でも、村長選が行なわれたのは20年ぶりだったという。端から小西候補には勝てる(供託金返還される)見込みが低かったとも言える。5期目を目指す76歳の現職市長が無投票当選となった岐阜県本巣町長選挙あるいは、2期目を目指す65歳の現職市長が無投票当選となった山形県大江町長選に出ておくべきだったのではないだろうか。

◆小西彦治はどこへいく

 果たして小西彦治候補はこれからも選挙への出馬を続けていくのだろうか。ここまで悪名が広がってしまうと、今後はなかなか供託金没収点を超えるのも困難になってくるかもしれない。そういえば今週は久しぶりに小西彦治候補が選挙に出ていない。なぜか寂しさを感じる。彼は次はいったいどこの選挙を狙うだろうか。 
 小西候補は今後は「3ヶ月以上住んで、じっくりと腰を据えて選挙に挑む方針に切り替える」との話もある。そうなるとより供託金没収点のハードルの低い地方議会選挙に狙いを切り替えるのかもしれない。

 これからもこの「栄光なきドン・キホーテ」では小西彦治候補の動きに注目し追っていきたいと思っている。あいにく私自身はまだ小西彦治候補本人をウォッチすることが実現出来ていないが、いずれは直接会いたいと思っている。

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