2020年アメリカ大統領選挙レポート
ドナルド・トランプ大統領の1期目の信を問うアメリカ大統領選挙は、史上稀に見る激戦となった。
事前の調査では民主党のジョー・バイデン前副大統領がリードしているとのことであった。しかし、中西部を中心に激戦の州がウィスコンシン、ノースカロライナ、フロリダ、アリゾナ、ペンシルベニア、ミシガン、オハイオ、テキサス、アイオワ、ジョージア、ネバダなど10前後ある。そこの勝敗次第で結果は変わってくる。例えば、38人で全米で2番目に選挙人が多いテキサス州は、トランプ大統領がややリードしているものの、もし仮にここを落とすとなると当選の可能性は危うくなるだろう。また、選挙人18のオハイオ州も、1960年以降ここを落として当選した大統領はいないと言われている。個人的には、最後までもつれることの多い選挙人29のフロリダ州をどちらが取るかで勝敗が決まるのではないかと思っていた。
◼️11月3日投票開始
11月3日、アメリカ大統領選挙の投票が始まった。新型コロナウィルス流行の影響もあり、今回初めて郵便投票が認められた。中には投票日11月3日の消印までもが有効となっている州もあり、最終的な開票結果がわかるのは相当後ろにずれ込む可能性がある。郵便投票を行なう有権者には民主党支持者が多いため、トランプ大統領は郵便投票の開票を待たずに勝利宣言を行なう可能性もあると見られていた。
いずれにせよ今回の大統領選挙は波乱の可能性を含んでいる。
開票のほうが進むと、予想していた以上に激戦であった。郵便投票があるせいか、勝者がなかなか確定しない州が多いのである。
激戦州のうち、私が勝敗の鍵と予想していたフロリダ州(選挙人29)はトランプ大統領が獲得。テキサス州(選挙人38)もトランプ大統領となった。さらにオハイオ州(選挙人18)もトランプ大統領だ。トランプ大統領が順調に票を伸ばしているとの印象を受けた。
◼️アメリカ大統領選挙混迷
その後、郵便投票の票が入り始めると、バイデン候補がじわじわと追い上げを始める。ウィスコンシン州(選挙人10)とミシガン州(同16)を獲得し、選挙人264で当選まであと6となった。トランプ大統領もメーン州の残り1人を獲得し214。
こうした状況に対しトランプ大統領は、郵便投票に不正があったと主張し、集計の無効を求めて最高裁判所まで争うことを表明した。そして自身の落選は内戦を引き起こすまで主張したのである。
◼️バイデン候補当確
11月8日、トランプ大統領は勝利を宣言した。
しかしその直後、バイデン候補がペンシルベニア州(選挙人20)での勝利を確実とする。これで選挙人は274となり、過半数の270を超えて当選を確実なものとした。
バイデン候補も改めて勝利宣言を行なった。
最終的にバイデン前副大統領はネバダ州(選挙人6)、ジョージア州(選挙人16)も抑えて選挙人を306とした。トランプ大統領はノースカロライナ州(同15)とアラスカ州(同3)を取って選挙人232。前回2006年にトランプ大統領が獲得した選挙人は306人だったから、ちょうど逆の結果ということになる。
■2016年大統領選挙得票
前回、2016年の大統領選挙の得票を振り返ってみたい。
敗れた民主党のヒラリー・クリントン元国務長官の得票が、当選したトランプ大統領の票を約300万票も上回ったのである。敗れた候補者の得票が当選者を上回るというのは、2000年のゴア元副大統領以来の珍事。しかしながら選挙人数ではトランプ306vsヒラリー232と意外と差がついた。アメリカ大統領選挙は州ごとの選挙人を獲得する間接選挙であるからとはいえ、この結果には問題があるように思う。選挙制度見直しの時期に来ているのではないだろうか。
第三極ではリバタリアン党のゲーリー・ジョンソン候補、緑の党のジル・スタイン候補がいずれも党として最多の得票を挙げた。二大政党の候補者から相当な票が流れたようである。
◼️大統領選挙得票
今回の得票は次の通りになった。開票作業は現在99.19%でほぼ終わっている(後日、得票が確定したら修正します)。
バイデン候補の8000万票、トランプ大統領の7300万票というのは、大統領選挙における歴代得票の1位と2位となる。今回の大統領選挙、それだけ関心が高かったということである。
ほとんど報道されていないが、アメリカ大統領選挙には他にも多くの候補者が立候補している。二大政党の候補者以外にも7人の候補者が1万票以上獲得しているし、14人の候補者が千票以上を得ているのだ。
3位に入ったのはリバタリアン党のジョー・ジョーゲンセン候補。もっとも前回の同党の約400万票には遠く及ばなかった。
4位の緑の党のハウィー・ホーキンス候補も、前回の同党の約140万票から大きく票を減らしている。
5位に入ったのはロッキー・デ・ラ・フエルテ候補。前回の3万票から倍以上票を伸ばす健闘ぶり。
グロリア・ラ・リヴァ候補も前回の4万票から倍近く票を伸ばした。
逆に前回20万票を獲得した公正党(立憲党)のドン・ブランケンシップ候補が今回は大きく票を減らしている。
前回、反トランプを掲げて立候補したエヴァン・マクムリン候補が無所属ながら40万票を獲得するという健闘ぶりを見せていた。そんなこともあり、知名度の高いラッパーのカニエ・ウェスト候補がどこまで票を伸ばすか注目していた。ところが得票は約6万票とまったく振るわなかった。
知名度はあってもそれだけでは票には結びつかないということ。同様にジェシー・ベンチュラ元ミネソタ州知事もわずか2千票という惨敗である。
現在のところ得票で最下位なのは無所属のチョミ・プラグ候補、アジャイ・スード候補、ポール・ウィルモン候補、マーク・B・グラハム候補、社会主義者運動のジェフリー・マッカー候補、トランスヒューマニスト党のチャーリー・カム候補で、得票は0となっている。さすがに候補者自身と副大統領候補は投票しているだろうから、今後票は入ってくるのだろう。それにしても、わずか数票しか集まらなくても、一国の指導者になる夢を見ることが出来る、アメリカとは何て素敵な国だろう。
■選挙人投票
12月14日、アメリカ大統領選挙の選挙人投票が行われた。
結果は次の通り。
接戦だっただけにひょっとしたら選挙人投票での造反もあるかと思ったが、そんなことはなく、予想通りの得票となった。ジョー・バイデン前副大統領が第46代アメリカ合衆国大統領に就任することが確定した。バイデン新大統領の就任時78歳というのは、史上最高齢記録となる。また、カマラ・ハリス副大統領候補も、史上初の女性副大統領に就任することになった。
史上稀に見る混戦となった2020年アメリカ大統領選挙もようやく決着がついた。バイデン新大統領は、アメリカをどう導いていけるのか、その手腕に注目したい。
◼️トランプの抵抗
破れたトランプ大統領は、あくまで敗北を認めずに徹底抗戦する構えを見せている。バイデン候補が優勢となった頃から、選挙に不正があったとして各地で開票作業の中止を求めたり結果の無効を求める訴訟を起こしている。しかしながら、多くの裁判所はトランプ陣営の訴えに具体的な証拠がないとして退けている。
こうしたトランプ大統領の諦めの悪さには、共和党内部やイヴァンカ夫人ら家族からも批判が集まっているという。一方ではすでに政権移行の手続きも始まっている。今後トランプ大統領が逆転出来る可能性は皆無だといっていい。トランプ大統領は次の2024年大統領選挙に出馬の意向との報道もある。
〈追記〉アメリカ大統領選挙ジンクス
アメリカでは20年ごとに当選した大統領が任期を全う出来ない「テカムセの呪い」があるということは、以前紹介した通りである。それ以外にも、民主党が政権を奪還すると、日本の政権与党が政権を失うというジンクスもあるらしい。
1978年のカーター大統領誕生の際は、自民党は総選挙で過半数割れとなるものの、保守系無所属議員を取り込むことで、政権を維持した。しかし、1993年のクリントン大統領、2009年オバマ大統領誕生の際はいずれも自民党が下野し、政権交代が実現している。
ということは、現在の菅義偉内閣も危ないということだろうか?
このところ、菅内閣の支持率は下がる一方だ。12月12日には支持率40%、不支持率49%でついに不支持が支持を上回った。当初は10月にも解散の見方が強かったが、完全にタイミングを見誤ったと言える。来年10月21日に今の衆議院議員の任期が切れるが、果たして菅内閣はそれまでに立て直すことが出来るだろうか。なんだが、麻生太郎内閣の末期を思い起こさせる。麻生内閣も、解散の時期を見誤った末に、選挙で惨敗した。
ただ、麻生内閣当時は野党第一党の民主党に勢いがあった。その点が現在とは異なっている。9月に立憲民主党と国民民主党が合同し、新・立憲民主党が誕生したが、正直なところ自民党の受け皿となっているとは言い難い。例え自民党が過半数割れしたとしても、すんなりと立憲民主党政権が誕生するとは思いにくい。
共産党まで含めた野党の大連立政権となるのか。あるいは自民党が新たに日本維新の会を取り込むのか。はたまた自民党を割って出たグループが野党と組むことになるのか…。日本の政治は何が起きても決して不思議ではない。きっと何かがあると楽しみに待ちたいと思う。
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