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参政党宣言

 6月23日、第26回参議院議員選挙が公示され、7月10日の投票日に向けての選挙戦が繰り広げられている。比例代表区には15の政党・政治団体が候補者を擁立し確認団体となった。そんな中でひときわ話題となっているのが、今回の参院選が初挑戦となる「参政党」である。
 ネットを中心に話題を集め、今回の「台風の目」と予想する人もいる。


◆参政党とは

 参政党は2020年4月に結成された政治団体である。元大阪府吹田市議会議員で2012年には自民党公認で総選挙に出馬した経験もある神谷宗幣・事務局長を中心に結成された。現在のボードメンバー(お世話役)には神谷氏の他、川裕一郎・石川県議(副事務局長)、松田学・元維新の会代議士(共同代表)、赤尾敏・元大日本愛国党総裁の姪で「日本のこころ」から2017年総選挙に出馬した赤尾由美氏(共同代表)、医師の吉野敏明氏(共同代表)が名を連ねている。5人のボードメンバーによる集団指導体制で、「ゴレンジャー」にもたとえられている。他にも、保守派の論客である武田邦彦・元中部大特任教授らが参院選候補者(比例区)に名を連ねており、顔ぶれだけ見ると、かなりの右寄りの政党であると思われる。
 参政党公式サイトによると、参政党は「仲間内の利益を優先する既存の政党政治では、日本がダメになってしまう」という危機感を持った有志が集まり、ゼロからつくった政治団体とのことである。

 党の「綱領」には次のようにあり、やはり右翼色が強いことがわかる。

1、先人の叡智を活かし、天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる。
1、日本国の自立と繁栄を追求し、人類の発展に寄与する。
1、日本の精神と伝統を活かし、調和社会のモデルをつくる。

 また、「子供の教育」「食と健康、環境保全」「国のまもり」を「3つの重点政策」とし、さらに「人のきずなと生きがいを安心して追求できる“社会づくり”」「国民に健康と食の価値、元気な超高齢社会で“安心できる生活づくり”」「豊かさ上昇曲線の“経済づくり”」などを10の柱として掲げている。しかしながら「個々の具体的な政策は、今後、党員自ら立案し、追加・更新 していきます。」とあり、具体的な政策はこれからといった感じである。
 7の柱には「日本らしいリーダーシップで“世界に大調和を生む外交づくり”」というのがあった。「大調和」という言葉どこかで聞いた言い回しだと思ったが、これは宗教団体「生長の家」が好んで使う言葉である。何らかの関係があるのだろうか。

 それはともかくとして、参政党にはどことなく胡散臭さが漂う。例えば、参政党のボードメンバーでもある医師の吉野敏明・共同代表は、熱烈な反ワクチン論者のようである。

◆国政政党への道

 参政党は8月21日に「国政政党誕生パーティ」を開催する予定だという。まだ結果が出る前であるが、これはあくまで「予祝」なのだという。つまり前祝いをすることにより理想の未来を引き寄せるというものだというが、すっかりその気になっている。
 国政政党になるためには、国会議員が5名以上所属するか、国会議員1名かつ直近の国政選挙で得票率2%となるかが必要となる。この条件は決して簡単なことではなく、現在日本には国政政党は9つしか存在しない(自民党、立憲民主党、公明党、日本維新の会、国民民主党、共産党、れいわ新選組、社民党、NHK党)。参政党が狙っているのは2019年参院選におけるNHK党と同じパターンだろう。NHK党は比例区で約99万票を獲得し立花孝志党首が議席を確保したものの得票率は1.97%で2%にわずかに及ばなかった。しかし37人を擁立した選挙区で計150万票を獲得し得票率3.02%を獲得した。参政党は今回の参院選で全ての選挙区に45人の候補を立てている。これで得票率2%を確保しようというのだろう。
 参政党の街宣は大勢の聴衆を集めいるという。また、党員は8万人を突破したそうだ。

◆参政党ウォッチ

 なにはともあれ、参政党の街宣を見ないことには始まらない。ぜひとも一度参加してブームの一端を味わっておきたい。そこで参院選も終盤に差し掛かったある日、多摩センター駅に参政党の河西泉緒候補(東京選挙区)が来るというので足を運んで来た。

多摩センター駅前の街宣の様子

 Twitterなどでは参政党の街宣に大群衆が集結しているかに言われていたのだが、意外にも10数人とこじんまりとした集まり。今回、参政党の幹部は誰も来ておらず、河西候補単体ではこんなものか。
 参政党が東京都選挙区に擁立した河西泉緒(かわにし・みお)候補は41歳。銀座の高級クラブのママだという。なるほど、華やかな雰囲気が漂う。

川西泉緒候補

 彼女の経営するクラブに医師でもある参政党の吉野敏明・共同代表が客として来たことが、今回立候補するきっかけだったという。

川西泉緒候補

 河西候補も、専ら語っていたのは反ワクチン陰謀論ばかりだった。言われてみると、支持者もノーマスクの人が多い。
 演説の最後は、河西候補の「大和撫子!」の掛け声のあとに、「1、2の参政党!」というものだった。

「1,2の参政党!」

 私個人の考えとしては、大票田の東京選挙区に彼女を立てたのは党としては失敗だったのではないかとも思う。候補者が水商売女性ではあまり女性票を期待できない。それよりむしろ党幹部を立てて政策論争をさせるべきだったろう。

◆参政党は議席獲得なるか

 ネット上では参政党は比例区で3議席を獲得するとか、選挙区でも議席を獲得しそうな勢いだとか予想している人がいる。だが私は、正直そこまでの勢いはないと考えている。せいぜい比例区で1議席取れるかどうかで、現状では議席に届かない可能性もある。

 その根拠だが、実際の所そこまで話題になってはいないからだ。参政党はネット界隈での人気は抜群かもしれないが、世間一般ではそう知られているとは言い難い。とりわけ、選挙における大票田の高齢者にとっては全くの無名に近いだろう。以前参政党の支持者とネット上でやり取りしたことがあったが、「我々は老人は相手にしていない。普段選挙に行かない層がターゲットだ」と言っていたのが、それは理想論にすぎない。現実に投票率が高いのは高齢者であるのだし、普段投票に行かない人たちがたかがネットで煽られたぐらいで投票に行くとは思えない。だいたい参院で3議席というのは2007年・2010年の共産党と同じである。本当にそこまでの勢いがあるのなら、かつての日本新党のような社会的ブームになっていなばならない。

 街宣の動員数というのも、当てにはならない。例えば2016年参院選に東京選挙区から無所属で立候補していた三宅洋平候補は「選挙フェス」と称して渋谷駅前に大勢の聴衆を集めていたが、当選出来なかった。私自身も選挙フェスには参加していたし、先に述べた通り参政党の街宣にも参加している。参加者が必ずしも投票するとは限らない。また、党員数8万人に関しても、幸福実現党は参政党よりはるかに多い21万人の党員を抱えているが、これまで一度も国政選挙で当選者を出していない。参政党の支持者は、これらとは違うのだとのだと言いたいだろうが、それはまったく根拠がない。
 そもそも新興政党が参院比例区で議席を獲得するのは難しい。2019年参院選ではれいわ新選組とNHKから国民を守る党が議席を獲得したが、れいわ新選組には現職の山本太郎参院議員がいたし、NHK党も地方議員を30人以上抱えていた。現時点では参政党に現職国会議員はおらず、地方議員もわずか5名にすぎない。
 私は2001年参院選の自由連合を思い出す。この時、自由連合は選挙区45・比例区47の計92人を大量擁立した。投票後に代表の徳田虎雄代議士が「1議席獲得の手ごたえがある」と語っていたものの、結局議席ゼロに終わった。この時の自由連合の候補には現職の石井一二参院議員の他、野坂昭如・元参院議員や和田静夫・元社会党代議士といった元国会議員もいた。さらにプロレスラーで元タイガーマスクの佐山聡、落語家・月亭可朝、作家・高橋三千綱、フィギュアスケーター・渡部絵美、歌手・戸川昌子、元プロ野球選手・江藤慎一、元力士・荒瀬といったタレント候補も大量に立候補していた。候補者の知名度で言えば、今の参政党の比ではない。
 そしてもう1つ、参政党にとって不安材料なのが、右派政党の乱立である。今回、参院選の比例代表区に候補者を擁立する政治団体には、幸福実現党、新党くにもり、日本第一党、維新政党・新風などがある。これらはいずれも右派政党で参政党とは政策が共通していたり支持者層が重なるなど親和性が高い。NHK党でさえも、元日本第一党元副党首の西村斉候補を比例区に立て、右派層の取り込みを図っている。無党派層の票は無限にあるわけではない。少ない右派票をこれらの政党が奪い合う形になる。

 私はこれまでずっと選挙を見てきたが、一時的に話題を集めた政党が結果的に議席には届かなかった例をそれこそ枚挙に暇がないくらい見てきた。麻原彰晃尊師の「真理党」、野村秋介氏の「風の会」、藤本敏夫氏の「希望」、大前研一氏の「平成維新の会」、女性党、白川勝彦元代議士の「新党自由と希望」、黒川紀章氏の「共生新党」、中村敦夫参院議員の「みどりの会議」、緑の党、支持政党なし、国民怒りの声・・・これらの政党にはそれぞれ熱心な支持者がいたし、「政界のキャスティングボードを握ることになる」と断言する声をあげている人すらいた。しかし大抵の場合はさほど支持を集めることが出来ずに終わっている。参政党“だけ”がそれらの政党とは違うとは私にはどうしても思えない。

 正直言って参政党は1議席取ればそれだけで大躍進である。選挙戦の終わりを待たずして「議席確定」などと受かれいるような状況ではまったくない。

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