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セグメントとマネーフォワードのCM雑感

 マネーフォワードの広告を年末から新年を迎えて頻繁に目にする機会が増えた。このCMは藤田ニコルを筆頭に、為末やガンバレルーヤ、大阪のおばちゃん、つば九郎などの個性的なキャラクターに加え、一般人と思われるお父さんなど7つのキャラクターがお金を見える化することについて語る広告だ。

 CMのコンセプトは、プレスリリースからそのまま引用すると「生きることは、お金と向き合うこと。お金を理解し、お金を味方につけることで、人生はいい方向へと動かしていくことができる。マネーフォワードは、あなたの一番近くで、その実現をサポートします。」とのことだ。なるほど、このコンセプトの前半部分にある「生きることは、お金と向き合うこと」、「お金を味方につけることで、人生はいい方向へと...」などの文句は、マネーフォワードに限らず、至極当たり前の世の中の構造を述べている。しかし、後半部分にある「あなたの一番近くで、その実現をサポートします。」から、どことなくふわっとした便益を述べているだけで、マネーフォワードだから得られる便益の説得力が感じられない。

 コンセプトに続いて、次に「このようなコンセプトのもと、いろんな場所で暮らし、いろんな仕事をする、いろんな人々の、お金について思うことを次々に描いています。」とCMのプランを披露している。この「いろんな人々」を7つのキャラクターにセグメントしたのであろう。つば九郎をどのように受け止めたほうがよいのかは置いておこう。

 このセグメント化は賛否両論の見解が分かれると思われる。デジタル広告においてはターゲットをセグメント化できるので、そのターゲットに刺さる広告をセグメント切って展開するメリットがある一方、お茶の間のテレビ広告で展開しようとすると、セグメントとメッセージが多すぎて結局何を伝えたい広告だったのか、心に残らずに消化されてしまう。ましてや、渋谷駅をジャックした交通広告を展開している画像を見る限り、7つのセグメントを結集した広告が結局何を伝えたいのかわからなくなる。

 マネーフォワードの便益は一体なんなのか?お金を見える化するアプリを利用することで、どのような便益を利用者が得ることができるのか?そのシンプルな問いの答えが、7つにセグメント化することでかえってぼやけてしまったのではないだろうか。

 さて、実態はどうなのだろうか?

Googleトレンドで調べてみると、12月22日以降に放映開始したテレビ広告の出稿量のわりに、「マネーフォワード」の検索ボリュームがそれほど増加していないように思われる。

PayPay(ペイペイ)、LINEPayと比較するのは適当ではないが、最近CMでよく目にするアプリと比較すると以下の通り。

PayPay(ペイペイ)の麻薬的キャンペーンの効果は絶大であるが、それ以外についてはCM効果ありと判断するのは早計だ。

 ターゲットを二十歳過ぎの大人と設定し、成人式を迎えるこの時期に藤田ニコルを起用し、「大人」になったら散財しがちなお金を可視化することで無駄遣いが劇的に減った事例をビフォー・アフターで披露することだけに絞りCMを放映すれば、藤田ニコルというキャラクターから想起される放漫な生活のイメージと重なり、「大人になったらマネーフォワード」というブランディングが展開できたように思われる。ただし、このアプリは基本的に生活になくても困らない類のものだ。無駄遣いが減るだけでは必然のアプリにはならないだろう。きっと、必然を創るサービスの展開を検討しているのに違いない。

 まとめると、出稿量が限られたなかで短期的にマスに展開するのであれば、ターゲットとメッセージは1つに絞ること。便益を拡げる目的のセグメント化は長期的におこなうこと。デジタル広告においては、セグメントはその限りではない、ということか。

 マネーフォワードは個人的に確定申告で利用しているアプリなので応援したい。

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