土足で介入してませんか_企業のSNSアカウント

企業やブランドがSNSと向き合うときに意識したほうがよいと思うこと

 SNSにおける企業やブランドアカウントの運用について悩まれている企業も多いだろう。SNSは消費者と接触できる巨大なメディアである以上、企業がそこに介入したい下心が生じるのは無理もない。一方で、SNSは消費者にとってはプライベートな空間でもあり、個人と個人がコミュニケーションする場でもあるから、そこに企業やブランドアカウントが積極的に介入してくることを嫌う人も多い。
 そもそも、企業やブランドアカウントを開設する目的は何なのか?フォロワーに対する情報伝達のみであるならばそれほど悩むことはないが、TV視聴率や広告と同様の考えで、フォロワー数を増やし、情報のリーチを広げ、認知を変え購買を促し、結果的に売上増を目指すことを目的とした場合にとても厄介なことになる。パーソナルな空間に土足で入り、その状況からファンにして購入に結びつける訪問販売をしろと言われているのに等しいからだ。

 成功しているという企業アカウントと呼ばれているものに、シャープ株式会社のTwitterアカウントがある。企業アカウントでありながら極めてパーソナルな発言を展開している。位置づけとしてはシャープ株式会社の中の広報の人ではあるが、発言は極めてパーソナル寄りに振られている。タニタやキングジムなどもその類であり、中の人(個人)と消費者のコミュニケーションが積極的におこなわれている。下心に訪問販売の商魂が少しでも見え隠れするならばたちまち消費者に引かれてしまうのでその素振りを見せることはない。スーツを脱ぎ、同じ人間としてのご近所付き合いをすることで心理的な壁を徐々に取り除き、いつしか友達のような付き合いになることを目指しているかもしれない。しかし、おそらくそれ以上に発展し、お付き合いし(購入)し、結婚(リピート)するまでに至る確率は極めて低いと私は思っている。シャープとはご近所付き合いだけど、調理釜なら釜に対する職人気質のこだわりを持つ象印に分配が上がり、クーラーは省エネセンサーに優れた三菱電機の霧ヶ峰ブランドに分配が上がる、などご近所付き合いが長いからとはいえ価格やベネフィットを上回る可能性は低いだろう。比較的高額な商品の場合は特にあてはまると思う。

 一方、マクドナルドは、マクドナルド総選挙といった競争心を煽り伝播を促進するような企画、インスタ映えするパッケージの変更、Yahoo!ニュースのトピックスに掲載されやすいような短いネーミング、といったように、フォロワーとのコミュニケーションというよりも、SNSで取り上げたくなる話題性や伝播力を意識した販促企画によりマクドナルドに足を運びたくなる仕掛け作りを徹底している。パーソナルな空間に土足で介入する訪問販売ではなく、消費者が取り上げたくなるネタを用意して、料理を消費者にゆだねるやり方だ。この策は、マクドナルドという国民的ブランドの信用力、お店に行こうと思ったら足を運べる距離にある店舗数、SNS+マスメディアを活用できる伝播力、1日に3回訪れる食欲、という複数の条件を差し引いて評価する必要があるが、企業がSNSと付き合う一つの方法を示している。

 私が最近目にしたブランドアカウントで「?」が生じたのは「花王 アタック(お洗濯全般)」だ。このアカウントは、「アタック」というブランドに人格を纏わせている点でシャープと同じだが、企業単位ではなくブランド単位で人格化している。「アタック」の持つ洗濯用洗剤の王道感や暮らしに寄り添う親近感は一切なく、一生懸命消費者に気に入ってもらおうとして気の利いたコメントや話題を振りまく努力をしている。ターゲットをより若い層に置き、その層に振り向いてもらおうとする努力と推察するが、その努力は賞賛に値すると思いつつ、それをすればするほどアタックの持つ王道感や親近感と乖離し違和感を覚える。アタックの持つ印象は使用している個人の頭のイメージにあるが、そこにブランドアカウントが望みもしないのに積極的に介入し、おそらく「アタックZERO」をじわりじわりと宣伝してくるのだろうな、という下心が透けて見えるのでますます心が離れていく。偉大なブランドをもつ場合、アカウント名を「アタック」そのものではなく、別のキャラクターやブランドの中の人であり別人格であることをより明示するやり方で示したほうが、アタック=Twitterアカウントの直結により頭の中のイメージを書き換えられていくリスクを減らすことができるのではないかと思う。
 まとめると、企業やブランドアカウントの人格化は親近感の醸成につながりはするものの購入に結びつく可能性は低いこと(特に高額商品の場合)、強いブランドの人格化は頭の中にあるブランドイメージがマイナスに書き換えられるリスクがあること、SNSの話題喚起力や伝播力の特性を活かしたキャンペーン企画などの販促には可能性があること、個人のパーソナルな空間に土足で介入するようなことは特別なオファーがない限りはしないこと、であると私は考える。個人で経営する飲食店なども等しく、個人の発言がその飲食店にたいして消費者が持つイメージを書き換える作用を及ぼしていることを意識したほうがよいだろう。「イチロー」というブランドは、グランドにおける戦績の軌跡だけではなく、その発言や振る舞い、風貌や哲学を併せての「イチロー」であり、SNSは消費者の頭の中にあるブランド形成を良くも悪くする助長するツールであることを意識したい。

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