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「マチのほっとステーション」を体現しているのはスターバックスかもしれない

パッケージデザインの改善に着手

ローソン社長の竹増氏に、PB(プライベートブランド)商品のパッケージリニューアルの目的や結果を聞いたハフポストのライブインタビューが面白かった。

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竹増社長は、想定外の批判の声の多さが全てだとし、素直に失敗を認めた。同時に、失敗はチャンスだと訴えた。
「NATTO」と大きく英語表記されている納豆などは、すでに改善に着手し、来月には変更する予定とのこと。

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生活必需品のPBのみ刷新

そもそも、なぜリニューアルしようとしたのか。
竹増社長によると、ローソンには、からあげクンやスイーツなど多くのPBがあり、そのPBの中でも、600種類以上と商品数が多い割には知名度が低い「ローソンセレクト」という生活必需品のPBがある。

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その知名度を上げる狙いがあったようだ。
上の画像にある通り、リニューアル前の「ローソンセレクト」は、全体的な統一感よりも、商品ごとのシズル感を大切にしたデザインだ。
商品によってシズルが最大化するポイントが異なるから、統一感がないのは自然の姿なのかもしれない。

「セブンプレミアム」の場合、商品ごとにシズルを最適化しつつ、ロゴと商品名を近接することで、ブランドと商品の関係を明瞭にしている。

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「ローソンセレクト」も、ロゴと商品名が近接している点では同じだ。

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上の画像の通り、「セブンプレミアム」の二番煎じ感は否めず、ブランドロゴとテキストの色素数を統一した結果、ブランドが埋没してしまったのだろう。

「ローソンセレクト」は、2012年にグッドデザイン賞を受賞している。

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受賞ページを読むと、

「ローソンセレクト」はカテゴリー横断的なプライベートブランドです。多品種かつ大量に店頭に並びます。大きなひとつの塊としてブランドイメージを醸成できるというメリットをいかし、ひとつひとつの商品で過剰な演出をすることなく、生活空間での見え方を追求することができました。シンプルで心地よい、穏やかな顔つきの、新しい定番商品のデザインです。
ストライプは視認性が高いので、高齢者にもわかりやすく、間違いにくいパッケージとなっています。パッケージの文字も読みやすさを考慮して要素を整理しています。中身の見えない商品に関しては、調理例や素材などのシズル写真を使い、視覚的に認知しやすくしています。

とある。
確かに、ストライブは視認性が高く、ブランドと商品の関係がわかりやすい。それが、「セブンプレミアム」と極めて近いパッケージに変わってしまったのはなぜだろうか。
今回リニューアルしたパッケージデザインに追いついてない商品を見ると、ロゴと商品名が近接していない商品も多い。

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「セブンプレミアム」に寄せるデザインに変えた要因は、売上なのだろうか。寄せてしまったことで、二番煎じ感、ロゴと商品名の配置レギュレーションの不徹底によるブランド統一感の薄れが生じた。

結果、竹増社長が言う知名度の低さを招いたのかもしれない。
そこで、ブランド力がない「ローソンセレクト」を捨て、「L basic」と「L marche」の2ブランドに大きく一新したのが今だ。

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からあげクンやスイーツはロゴのみ刷新

からあげクンやスイーツ、おにぎりのような、ローソンを代表する横綱級商品については、パッケージではなくロゴのみを刷新したようだ。
「L」が入っている点では統一しているが、明らかに印象が異なる。

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生活必需品のPBのみ、パッケージデザインを変えた点がポイントだ。生活必需品であれば、嗜好品と違ってパッケージの印象で買う買わないを判断しないだろうという読みがあったのだろうか。
だからこそ、シズル感よりも「生活に馴染む優しさ」に振り切ったデザインにチャレンジできたのかもしれない。

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商品を判別する時間は一瞬

今回のリニューアルに批判的な意見の多くが、商品を判別できないことだ。
デザインを手がけたnendo社のWebサイトに意図が書かれている。

従来のパッケージにあったような大きな商品写真ではなく、優しい印象のフォントとともに中身や原材料などがそれとなくわかるような手描きのイラストをパターン状にあしらうことで、女性層でも手に取りやすい柔らかな表現を目指した。

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歩きながら商品を判別する時間は一瞬。
人は言葉よりも、商品のデザインや棚のディスプレイで瞬間的に判断する。生活に馴染むデザインに統一した結果、パッケージに占める商品画像の比率が小さくなり、個々の商品が非言語で放つ特徴を判別できなくなった。

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生活必需品だからこそ、それとなくではなく、直感的にわからないと無意識に手がのびない。
結果、売上は下がることが予想された。

売上はNBよりは上がった模様

で、売上はどうなったのだろうか。
竹増社長によると、新パッケージに変えたタイミングがコロナ禍と重なったため、前後の比較は難しいが、PB(プライベートブランド)とNB(ナショナルブランド)の売上の増減を比較すると、ほとんどの商品カテゴリで、新パッケージのPBのほうがNBよりも上回ったようだ。
新パッケージのモノ珍らしさで、売上が一時的に上がるのは当然なのかもしれない。
とはいえ、瞬間的に判別できない商品が売れるとは考えがたいし、長期的にリピートするか否かは、デザインよりも、価格と品質のバランスの要素が強いのだろう。

店の哲学が棚のディスプレイに反映される

棚のディスプレイは、店の哲学が反映される。
驚安の殿堂ドン・キホーテは「ドキドキ・ワクワク感」を哲学としているから、整然としたユニバーサルデザインよりも、迷路のような導線、偶然の商品との出会いを重視する。

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セブンイレブンは単品管理を哲学としているから、一品一品を磨き上げ、「優しさ」よりも「シズル感」や「品質」を重視する。

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ローソンの哲学は、あえて言えば「マチのほっとステーション」なのか。
ほっとを実現するために、「生活に馴染む優しさ」というコンセプトでPBを刷新したが、果たして唯一無二の存在感を示せるのだろうか?

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「マチのほっとステーション」を体現しているのはスタバ

今、「マチのほっとステーション」を私が体現していると感じるのは、家庭でも職場でもない「サード・プレイス(第三の場所)」がコンセプトのスターバックスだ。
パッケージデザインは表層に過ぎず、空間、音、匂い、味、人、全ての体験を通じて得られるほっと感がスターバックスにはある。

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「生活に馴染む優しさ」を体現していると感じるのは、「これでいい」がコンセプトの無印良品だ。
無印良品のWebサイトには以下のメッセージがある。

無印良品はブランドではありません。無印良品は個性や流行を商品にはせず、商標の人気を価格に反映させません。
無印良品が目指しているのは「これがいい」ではなく「これでいい」という理性的な満足感をお客さまに持っていただくこと。つまり「が」ではなく「で」なのです。
無印良品の商品の特徴は簡潔であることです。極めて合理的な生産工程から生まれる製品はとてもシンプルですが、これはスタイルとしてのミニマリズムではありません。それは空の器のようなもの。つまり単純であり空白であるからこそ、あらゆる人々の思いを受け入れられる究極の自在性がそこに生まれるのです。

主張する商品ではなく、暮らしにとけこむ商品を作り続けてきた。
「生活に馴染む優しさ」とは、ブランドを消すことなのかもしれない。

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スターバックスも無印良品も、コンセプトを守り抜いた結果として今がある。ローソンの新ブランドも、コンセプトである「生活に馴染む優しさ」を守り抜く胆力が問われている。
スターバックスのようなほっとする時間が流れ、無印良品のような生活に馴染む商品が並ぶ店が、コンビニエンスストアとして成立する姿を見てみたくなくなく なくはない。

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