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【空想仕事調書:CASE1】空調操作官

ーこの仕事はいつから?

新卒の頃からずっとこの仕事ですので・・・もう20年になりますね。2003年の春に入社して、研修を終えたら夏ですから、すぐに本番でした。

ーどういったお客さんを狙うんでしょうか?

あまり大きな声では言えないですが、やはり客単価が低い割に長く居座るお客様ですかね。PCを持ち込んだり、本やノートを持参して来店される方は、入店の時から目を光らせています。

ーやはりそういった客には長居して欲しくない?

そうですね。満席じゃなかったとしても、人が多すぎると新規のお客様も入りにくいですし、結果的にその日の売り上げに響いてくるんです。それが1ヶ月、ひと夏と積もっていくと馬鹿になりません。

ー受験勉強の高校生なんかも長居するんじゃないですか?

本来はそういったお客様もターゲットなんですが・・・これって名前は出ないんですよね?

ーはい、匿名のインタビューです。

本当はダメなんですけど、勉強しに来る高校生は、見逃してしまいますね。なんだか応援したくなるというか・・・。僕も高校生時代は、塾がない日にカフェで勉強してたので。

ーなるほど、そのあたりは上司に怒られないんですか?

もちろん、その店が高校生だらけだったら、長居する時間を見て、ちゃんと冷房を当てますが、そんなに勉強しに来る子も多くはないので・・・まあ、そのへんは、上も見逃してくれてるのかなって思います。

ーやりがいは?

やっぱり、冷房の角度と強さを適切に調整して、2~3分で退店させた時ですかね。「追い風」って呼んでるんですけど、追い風がうまくキマると、やっぱり気持ちいいですね。お店にも貢献してるっていう実感がありますし。その席に座った、次のお客様の単価が高かった時なんかは、「よし!」って言っちゃいます。

ー素人には難しいんですかね?

けっこう見極めが大切でして。あまり強く当てすぎると不自然ですし、最悪店にクレームが入るんです。「冷房弱めていただけますか」とかね。これが入ると減点なんですよ。査定が下がっちゃう。寒さに敏感なのは、男性より女性の方が多い気がします。そのへんは冷静に見極めて、あくまで自然に、なんとなく、冷房がちょっと寒いな〜、でも言うほどじゃないな〜ってくらいをキープして、今日は帰ろうかなって、自分の意思で決めてもらうことが大切です。

ーなるほど、一朝一夕には身につかないスキルなんですね

最初は苦労しました。今では入店の瞬間にわかりますね。あ、この人はすぐ帰りそう。この人は、どれだけ冷風を当てても効かないだろうな。この人は、クレームを言う顔だ、とかね。

ーさすが20年は伊達じゃないですね。ところで、秋冬はどうされてるんですか?

もちろん、暖房を当ててます。これがまた難しいんですよ。

ーなるほど。そのお話もじっくりお聞きしたいですが、ここでお時間が来てしまいました。本日はありがとうございました。

ありがとうございました。

ーそれにしても、この店、ちょっと冷房つよくないですかね・・・


空想仕事調書とは、
実際に存在するかもしれない仕事についてのインタビュー集である。

あらすじ


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